SS だから僕は音楽を書く
音楽しか無いのだ、と不意に思った。
厳密に言えば、音楽と小説だ。
僕の中で音楽と小説はほぼ同義だったから、本当はどっちでもよかった。
朝起きて感じた温度も、読んだ小説も、歌った歌も、美しいと思った情景も、どんな風も空も雲も、夏の匂いも、僕は何時だって、どうやって言葉にするか考えている。
詩に書く。音を乗せて、歌にする。余すことなく書いて小説にする。そのすべては僕にとって同義だった。
空想と現実のあいだ。とうめいな夏の隅っこのような言葉を僕は書きたかった。
そうやってさよならより美しいものを信じていたかった。
足もとの暖房は熱風を吐き出し続けている。部屋の空気は泥濘んで、窓を開けたい衝動に駆られるが、せっかく空気が温まったので我慢する。
空は青い。雲が流れる。それはきっと魔法で、このつまらなくてくだらない世界の、数有る奇跡のうちの一つなのだと思う。
世界では案外奇跡が多く起こる。
僕が君に出会えるのは、果たして何時なのだろうか。もしくは、もう出会っているのだろうか。
小さく息を吸う。君が、夏が、言葉になって、音になる。世界は美しい。
それだけでいい、と僕は思った。