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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第95話 験。






 青年の顔には自信があった。

 あれからさほど長い時間が経ったわけでもないのに、彼は魔法で足を止められた時の対処法をもう見つけているらしい。


 短時間で成長する事は誰にでもある。

 男子三日会わざれば刮目して見よという言葉もある通り、私の見ぬ内に彼も大部成長を遂げていた様だ。



 『まさか、逃げませんよね?』と、直接語りかけては来ないが、その表情はそう語っている。

 彼は言っているのだ、俺がどれだけ成長したのか感じて見ろと、そして驚けと。

 冒険者として、一人の男として、その生き様を精一杯に見せつけようとしている彼を、私は微笑ましく思った。


 普通だったら、生意気なと腹を立てるのかもしれないけれど、私の心にあるのは素直な喜びである。


 昔の冒険者は中途半端な者か、肩を並べるに足る人物かどうかを測る為によく"潰し"を行った。私も何度かやった覚えがある。


 前回の彼は、言わばそんな半端者だった。肩を並べるに値しない冒険者である。


 だが、それを今回の彼は覆すといっている。

 それはつまり、肩を並べるに足る冒険者になると宣言している様なものだ。

 これは歓迎せずにはいられないだろう。……こちらはこの前と同じ技でいくが、手を抜くつもりは全くない。



 彼は私から顔を逸らさず、ゆっくりと自身の身体にある魔力の"圧"を前回とは比べられない程に高めていった。

 そうする事で、私からの魔法を弾くつもりなのだろう。

 私は連日、呪術に似た"拳型"の何かが飛んできているのを防ぎ続けていた。

 あれにも少なからず魔力は籠っているので、彼は私があれを息だけで吹き飛ばす所をもしかしたら見ていたのかもしれない。


 ……だとしたら、彼が今行っている事にも説明がついた。

 『飛んで来た魔力の塊が、"息"で何故消えるのだろうか?』と、そこに疑問を持てれば答えは一つ、"魔力は魔力で打ち消せるのでは?"と言いう考えに行きつくのだ。


 つまりはあの瞬間、飛んで来た魔力の塊よりも、私が息に自然と込めている魔力の方が多かった。だから飛んできたものは消えた。


 ならば、相手の魔法にかからない為には、相手の魔法以上の魔力で体を守っておけばいい。



 彼はそう思ったのだろう。

 だが、いきなり魔力量を増やす事など普通は出来はしない。最大値は決まっているからだ。

 ……ならばどうするか、そう考えた時に、彼は体内の魔力の密度をあげる事にしたのだろう。


 要は魔力と魔力をギュッと隙間なく詰め、押し固めるイメージである。

 そうする事で、相手の魔法に対抗した時に、弾く事が出来るだろうという予想をたてた。

 針の穴に糸を通す為に伸びてきた魔力の糸を、穴自体を自分の魔力の塊で塞いでしまえば、糸はもう通って来れないという訳である。

 そして、その面を固めて強引に突き破って来れない様にする為にも、強度を増すための"圧"が必要と言うわけである。



 ふむ、見事。



 実はそれは正解であった。

 そうすれば、脚部を目的にした魔法にはかからなくなるだろう。

 だが、私は別に魔法を足にだけ集中しなくても良いのだ。

 私は容赦することなく彼の全身に向けて魔法を放った。


 魔力の総量と言うのは普通は決まっている。

 どこかの圧力を強めたのならば、その代わりに他の場所の圧力は弱くなっているものだ。


 彼は足を守る事で、動ける様にはなった。

 だが代わりに、上半身の動きを殆ど制限される事になってしまう。



 ……ただ、それは彼も承知の上だったらしい。

 未だ、ぎこちなくも動く上半身の状態を軽く確かめると、彼は私に微笑みを向けた。



「これなら戦えます」


「そうか。……では、いつでも来ると良い」



 青年は拳を握って実感している。

 目論見が上手くいった事に喜びを感じているのだろう。

 だが、まだ終わりじゃないぞ。これがスタートであり、ここからが本番なのである。



 魔法使いに目にもの見せてくれるというその表情。

 武術の技と己の全てを、あの白銀のいけ好かないエルフの顔面に一発叩き込んでやるんだ。と言うそんな声が聞こえてくるほどの気合がみえる。……やめてください。



 足の動きを封じられる事を防ぐ為に、上半身の動きをある程度は制限されたが、これなら充分に戦えると判断した青年は足に力を込めた。

 私が次に何か他の魔法を出すより前に倒すと、彼は走り出す。

 私を倒すのならば、足技だけで充分だと言いたいのだろう。



 だが、私はそんな彼を魔法で浮かせた(・・・・)。  



「…………」


「…………」



 彼は空中でジタバタと足を必死に動かしたが、暫くして動きを止める……。

 そして、私と彼の目と目が出合った。



 『あのー、これは聞いてませんけど?これは卑怯じゃないですか?』



 と言う声が聞こえてくる気がしたが、私は静かに首を横に振る。ダーメ。……空中で動く術を持たない方が悪いのである。



 『そんなぁー』



 私の首振りを見た彼は、まるで雨に濡れる子犬の様な視線で、ジーっと何かを必死に訴えかけてくるが、ダメなものはダメなのである。

 次はこれの対処法を見つけてくるまで、確りとがんばりなさいと、私は彼にそう告げた。

 成長もやる気も感じたが、まだまだである。これからの成長に期待だ。



 ……戦いにおいて、こんなものは卑怯のうちにすら入らない。世界にはもっと色んな戦術がある。

 『赤石』として冒険者としては上から二番目のランクを持つ彼ではあるけれど、まだまだ経験不足は否めないようであった。

 ただ、そういうのを知る為にもある意味で旅はうってつけなのである。


 自分の狭い世界の中だけでは見えないものが数多くある。

 その中に居るだけでは、自分の欠点も満足に見つけられなかったりするのだ。


 成長とは良き面を伸ばす事、欠点を失くす事、新たなる一面を見つける事、考え方を飛躍させる事と、色々ある。

 それらを見つけて、育てて、一つずつ自分の力に変えていくのだ。

 得られる強さの種類は一つではない。

 限界とは自分で決めるもの。それを決めない限り、その果てはどこまでも広く、遠い。



 私は昔にある程度回ったから、エアにそれを少しだけ伝えてあげる事が出来るけれど、やはり自分の目で見るものと伝聞とでは、その差は大きいだろう。

 だから、私達は旅をしている。私はエアに、もっと色々なものを見せてあげたいのだ。




 ……まだまだこの街でやる事もあるので、直ぐに離れはしないが、これだけみんな揃っているのだからと、ちょうど良く挨拶をしておこうと私は思った。もうすぐ旅に出る事になるかもしれないと。



「また次に会う時を楽しみにしている」



 と彼にも最後にそんな言葉を伝える。

 そうしたら、ブスっとした顔で渋々頷いていた。『次は頑張ります』との事だ。……がんばれ。


 その他にも私達は道場でお世話になった人達に挨拶をしていった。

 本当はゆっくりと次の準備をしたかったのだが、まあこんな別れも悪くはないだろう。

 道場主に感謝を告げて、お母さん方や子供達にはまだ『ダンジョン散歩』で会えるので、そっちでよろしくとも伝える。



 もう一度言うが、まだ街を離れるわけではないのだ。そろそろ暑い季節も近くなってきたので、色々と準備をしなければいけなかったり、大樹の森のイベントにも参加したりと、忙しくなりそうであった。



 エアは暫く私の背中でぐずっていたが、一緒にこの道場へとやって来た女の子がくると、ひょこっと顔を出してしっかりと今では会話をしている。いつの間にか元気になっており、ローブで癒されていただけらしい。


 道場の男性の何人かがエアに怖がらせてすまないと謝っていたが、エアはすっかりローブに癒されて回復したらしく『もうだいじょうぶっ』と言って笑っていた。……その笑顔でまた一人のピュアな男が『はぅっ』と胸を押さえていたけれど、私は見て無い事にした。



 エアが元気な姿に戻り私も一安心である。

 戦いや魔法ばかりではなく、エアにとっても今日の出来事は特別な経験になったに違いない。




またのお越しをお待ちしております。

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