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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第91話 目。



「ご迷惑をお掛けしました」


「いえいえ、こちらこそ」



 道場の中にある一室で、私と道場主である壮年の男性は、互いにペコペコし合っていた。

 部屋に居るのは私達二人だけで、エアや武術青年そのほかの道場生たちは引き続き道場で身体を動かし、お母さん方はそれを観覧しながらお茶を引き続き楽しんでいる。



 あの後、私の言葉が少し効きすぎたのか、道場青年は悔しさに涙ぐみながらも人一倍の気合で激しい訓練に打ち込み始めた。彼の周囲も緊張感に包まれて良い雰囲気で練習に打ち込んでいる。


 そんな彼の様子を見て、道場主である青年のお父さんが、少し話したい事があると言って誘ってきたので、私はここに呼ばれていた。



「……これであの子の鼻っ柱も折れた事でしょう。本当にありがとうございます」



 聞けば、あの青年は小さい頃から武術に励み、既にその若さでこの道場の免許皆伝を持つ程の腕前なのだとか。そして、現在は魔法についても見識を深める為に学校に通っており、そこでも高い成績を修めて、今では『赤石』冒険者のランクを持つほどの存在に成長しているのだそうだ。


 色々な武術の大会にも出て実績を重ね、まだ外へと出て冒険こそした事がないものの、冒険者の中では期待のルーキーであると噂され、南エリアのダンジョンで普段は精力的に活動もしているらしい。……因みに『赤石』は『金石』の一個手前のランクである。



 ただ、そんな人物の鼻っ柱を折ってしまって良かったのかと私は疑問に思ったのだが、それで良かったのだと道場主は笑って頷いてくれた。


 武術に魔力を上手く活かしたその技で、既に道場主である目の前のお父さんをも越えたと言われるほどに強く成長してくれたらしいのだが、青年は最近お父さんの見立てでは少しだけだれてきていたのだという。


 目標が見えなくなったのか、慢心しつつあるのか、ハッキリしたことは分からないものの、このままでは折角の才能が埋もれてしまうのでは、と目の前の道場主は実は密かに危惧していたらしい。

 だがこの度、それもどこぞの白銀の耳長族(エルフ)のおかげで、その心配が要らなくなったと道場主は大層喜んでくれた。……私的にはなんとも微妙な気分になる話である。



「どうですロムさん。良かったらうちの道場で働いてみませんか?あなたみたいな魔法使いが居てくれると、みなにとってもいい勉強になる」



 そして、道場主は良い笑顔で誘ってはくれるのだが、やはり私はそういう気にはなれなかった。

 そもそも今回の事も私的には不本意な状況で仕方なくと言う想いが強いのでしょうがない。

 もし、今回の事を感謝してくれるのであれば、出来れば私達の事は一切他には漏らさないと、道場主の貴方の口から今日ここにいた私達以外の者達の代表として、一言約束していただけないだろうか、と私は代わりにお願いしてみる。他に行った時に今日の事でまた同じ様に騒がれるのは嫌なのでと、一応は保険を掛けた。



「え?ええ。それくらいでしたらお約束しますとも。私からも皆にあまり口外しないように言っておきます。流石に息子が手酷く負けたと言うのを嬉々として語るのもどうかと思いますからな」



 そうして頂けると助かります、と私も頭を下げて感謝を伝え、道場主さんとの真面目な話は簡単に終わった。


 彼はどうにも明るいお父さんで、やはり道場主としてのプライドはあるのか、『まだまだ息子には顔を殴られた事はないんですよ!』という良く分からない自慢をされたのだが、凄く嬉しそうに言うので私も自然と『それは、素晴らしいですな』なんとなくで相槌を打ってしまった。この人の話は良く分からない楽しさがある。



 そんな風に暫くは穏やかな雑談をしながら、私達はのんびりと道場へと戻った。

 二人で皆が居る道場の方へと戻ってくると、道場の一角では十歳以下の子達と一緒に見様見真似で型の練習に取り組むエアの姿が見える。


 始めたてと言う事もあり、その動きはかなりぎこちなく見えるが、周りの女の子達と一緒に楽しそうに取り組んでいるようで、私も嬉しく思った。来てよかったと感じる。



 一方、少し気になる青年の方は、エア達とは反対方面の一角に居り、精神統一をしながら集中し体内の魔力の圧を高める練習をしている様であった。あの魔力で拳を纏ったりすれば、それだけ破壊力は強化されるので、かなり効果的な練習だとは思うが、それがどうにも量が多く、とても人に対して使う拳だとは思えない。


 どちらかと言えば、あれではまるで人ではない"何か強大な相手"を倒すのに使う為に必要な感じである。

 ……まさかとは思うが、その危険な拳をどこかの白銀の耳長族(エルフ)の顔面に叩き込みたい、なんて想像をしながら練習していない事を、私はただただ祈るばかりであった。





 道場内には意外とは言っては失礼かもしれないが、エアと同世代位に見える若い女性の参加者も多かった。そんな見た目は普通に大人しそうな女の子達が逆に男性諸君に強烈な足技とかを繰り出しているのを見ると、私は『やはりここは冒険者の街なのだなー』っと少し感慨深くなってくる。


 まあ昔の話ではあるのだが、アマゾネスと呼ばれる女性ばかりの素晴らしい戦闘能力をもった冒険者集団がこの街を拠点にしていたことがあったので、きっとそんな彼女たちの血が彼女達にも流れているんじゃないかと、そんな推察をしたりするのは私的になんとも懐かしく嬉しい気持ちになれるのであった。


 昔の彼女達なんかは、先ほど私が青年に使った足を動けなくする魔法などその身一つで普通に打ち破って見せたのだから、ここに居る彼女達ももしかしたらそんな才能を受け継いでいるのかもしれない。


 青年もきっと、もっと強くなるはずである。大丈夫。……だから、こっちを見て魔力を高めないでください。彼は今の内にその瞼の裏に私の顔を焼き付けておこうか、と考えてそうな表情をしていた。



 私はサッと彼のお父さんである道場主の後ろに隠れてその視線をやり過ごしながら、楽しそうにするエア達を内心で応援し続けるのであった。




またのお越しをお待ちしております。

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