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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第83話 悟。



 実りの季節の半ばを過ぎて、大部肌寒く感じ始める今日この頃。


 とある日の、とある暇な喫茶店にて、私達は魔法の練習をしていた。

 今回の参加者は、約束通りにドライアドの店主である。

 子供達は今日『ダンジョン散歩』が終わると皆一緒にお母さん方に引かれて帰っていった。



 さて、それではここから彼女に魔法を教えて行くわけなのだが、正直に言って教える事はあまりない。

 元々、自分だけである程度高位の詠唱魔法までを修めており、そして無詠唱もある程度までは使える。まさに『金石』と言えるだけの実力を持つ相手なのである。



 では、これ以上に何を望むのかと尋ねた時に、彼女は『威力を抑えて魔法を使う術』について聞いて来た。


 威力をあげるのは自分の力量が上がればなんとか向上できる予感があるのだけれど、逆に威力を抑える事においては、どうにも想像が出来ないのだという。

 そういう想像はそのまま現在の魔法習得時における得手不得手に繋がって来るので、本当はあまり持たない方が良いと私は思うのだが、今回は意識を根本から変える程の長期的な時間があるわけではないらしいので、現在の状態のままで、如何に『威力を抑えて魔法を使う為』にはどうしたらいいのか、に今回は焦点を当ててやっていく事に決まった。



「いや、ごめんなさい。本気でわかんないのー。そもそも何が分からないのかも、分かんないんです」



 それではまず、出来れば分かり易く方が良いかと思い、【水魔法】で水球を二個空中に浮かべてから、店主に『これの真似ができるか?』と尋ねた。もちろん、水以外の魔法でも構わないという事は伝えている。



 だが、彼女からは『ごめんなさい。それは無理。攻撃魔法以外の事って分からないわー』と言う答えが返って来た。


 それにより、どうやら私が考えていたよりも、最近の魔法使い達はかなり大雑把に魔法を使っているということが分かる。

 最近の主流なのかどうなのかは分からないものの、実はかなり彼女が脳筋魔法使いだという事を私は理解し、それでは、私が浮かべている二個の水球を攻撃してみてくれとお願いしてみた。

 もちろん、その二個の水球を消し去るつもりで、である。



「それなら任せて!得意な分野だわー」



 と意気込んだ彼女は魔法を使用し始めるのだが、彼女が使いだしたのは街中にも関わらず【火魔法】であった。それも、その火力だけで言えばこの店の周囲一帯を灰燼に帰す程の魔力を込めて詠唱をしだしたのだけれど……はて?彼女はいったい何を考えているのだろうか?と私はそこで一旦ストップをかける為に彼女へと声をかける。が──



「──何を馬鹿な事を!一度発動した魔法が途中で止められるわけないでしょ!見ててっ!しっかりとあの水球を消し去って見せるわっ!」



 お馬鹿さんは君だ。水球二個を消し去るのに、ここら一帯まで消し去ってどうするのだ……と言う事で、私は彼女の魔法の発動を止める為に、彼女が魔法を詠唱する為に使おうとしている分だけ彼女から魔力を吸収した。これによって、彼女の魔法は詠唱が完成しようとも不発に終わる。



「なっ!?なんでっ!ま、まさかこれが噂に聞いた!マジックジャマ―!!いや、マジックジャマ―なら最低でも威力減衰に留まる筈、魔法そのものを不発にする訳ない……だとしたら、まさか、これはあの伝説の、マジックキャンセラーだとでも言うのーー!?!?」



 ……知らんがな。

 彼女は今、私が『原初』の森の出身だと言った時以上の驚きを見せながら、そう言って目を見開いている。

 だが、正直、私は彼女が何を言っているのか、全くさっぱり、これっぽっちも分からなかった。……横文字を使うのはやめてください。ジェネレーションギャップを感じてしまいます。


 せっかくエアに若いって褒められたばかりなんです。そう言う年代を感じさせる物言いは出来る限り控えてください。


 それに、『マジックジャマ―?』『マジックキャンセラー?』それはいったいなんぞ?私はただ魔力スーハ―するのと同じ方法で、彼女の魔力をスー―っと吸収しただけである。

 まあ、相手の魔力を吸収するのは恐ろしく効率が悪い。それを自分の魔力に変換するのにはあまり向かないので、そもそもあまり人にはお勧めできないが、こういう場合にだけはとても便利である。



 ……なんか、最近の魔法使い達の知識が酷い事になっている気がした。


 知らない言葉が増えているは別に良いのだけれど、それが活かされている感じがない。

 私の時代は、もう少しは応用があったと思うのだが、『金石』の最上位冒険者で、魔法を扱っている者が脳筋魔法使いと言うのは、少し違うのではと感じた。……これは、何かがおかしい。


 一応、今更言うまででもない事だが伝えておくと、彼女も私達と同じ、魔法使いである。

 


 あと因みに、脳筋魔法使いと言うのは私の時代の冒険者用語の一つで、魔法を使う場合"対象"が居ないと魔法を使えない魔法使いの事を私達はよくそう呼んでいた。


 彼女みたいなタイプは、魔法を使う際に『対象指定』をして魔法を使っている。それはつまり目標が居ないと魔法が使えないと言う事で、彼女は『空間指定』や『状態指定』、『形態指定』等、まあ他にも色々とあるが、それら他の指定先を選べないという事である。……実はこれ、魔法使いとしてはかなーり拙い状況であった。


 これだと、とあるタイプの敵が彼女にとっての天敵となってしま──

 


「……もしかしてだが、魔素だまりの(もや)状態の敵が倒せなかったか?」


「ええっ!?なんでそれをっ!!!」



 そこで私は気づいた。

 初めてみた時から何となく思っていた事ではあったが、最初見た時の彼女は凄く落ち込んでいる様に見えた。

 その姿を分かり易く言うのならば、それは自信を持てなくなった者の姿である。……そりゃ、哲学的な方面に迷走もするだろうし、秘密基地の様な店も開く筈だ。



 そして、そこまで考えると私はなんとなく彼女の背景が見えてきたように感じた。

 きっと今回の事も、おそらくは自分の問題を解決する為、ひいては、倒したい相手をどうにかする為に、自分で色々と試行錯誤してその答えを見つけようとしていた最中なのである。


 『威力を抑えて魔法を使う』と言う事も、自分で辿り着いた解の一つで、自分の欠点を改善しようとする事で何らかの手掛かりを得ようとしていたのではないだろうか……。



「なんで、そこまで分かるの?……まさか、あなたは心が読めるの?」



 ……読めません。

 というか、そんな目から鱗が落ちるではないけれど、本当に涙をこぼしながら嬉しそうな顔をしなくても良いだろうに。


 それほどまで悩んで、悩みぬいても答えに辿り着けずに居たのに、ふとした瞬間にそれに遭遇したみたいな。奇跡を見たみたいな。これで、待っている仲間の元に胸を張って帰れるみたいな。そんな色々な想いが、その表情からは溢れていた。


 まあ、解決方法が分かっただけで、まだその方法を手にしたわけではないのだから、喜ぶのはまだ少し早いだろうと私は思う。


 ……と言う事で、彼女にはしっかりと魔法使いの基礎とも言うべき最低限の知識とその対処法をみっちりと教えてから、彼女の待つ仲間の元へと送り出してやった。


 寒い季節をほぼ全て使う事にはなったが、彼女の成長になったのならばそれも無駄ではないと感じる。


 かつて自分が五年の間に頑張って詰め込んだ知識でもあるので、エアも色々と自分と重なって思う所があったのか、彼女の事を微笑ましそうに見つめながらずっと応援し続けていた。



またのお越しをお待ちしております。

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