第80話 古。
「……えっとー。なんで私がこんな所にー?」
「あのねっ、寂しいって言ってたから。ロムが良かったら誘っておいでって。……ダメだった?」
「あー、そう言う事ー?……そっかぁ、私の勘違いね」
「ん??」
「あっ……ううん!全然ダメじゃないのよー。少し気になってたぐらいだもの。誘って貰えて嬉しいわー!」
私達は今日も『ダンジョン散歩』の白いモヤモヤがある空き地の前に集合していた。
お母さん方と、子供達の準備は既に整っており、私達と特別にお誘いしたドライアドの女性で今回のメンバーは全員である。
「今日もよろしくおねがいしますー」
そうお母さん方から頼まれたので、私は軽く手を挙げて了承を伝えた。
なぜだかわからないものの。私はお母さん方から全幅の信頼を置かれているらしく、最近ではダンジョンに行くのは子供達だけで、お母さん方は三十分の軽いお茶会へとお出かけしていくのである。
「ねーおじちゃん!おじちゃん!きょうもかたぐるまがいい!」
「ふわふわわーー」
「知らない人いるー」
「なんか木だー。すげーー。かってに動いてるー」
「おおきいー(視線が胸部に集中している女の子)」
気が付いたら、私のローブには既にエアも含めて子供達がポディションについていた。その上、一人は既に私の身体をよじ登っており、セルフで肩車形態へと移行しようとしている。……君達は行動が早くて素晴らしいな。良い冒険者になれるぞ。それと今回はこちらの女性も一緒に来てくれるから、良かったら彼女の事もよろしく頼む。
「はーい!」
「ねえおねえちゃん。足の横のコロコロ回ってるのなにー?」
「痛くないのー?」
「こんにちはー。痛くないわよー。これがあると楽ちんなのー」
ドライアドの店主には、外行きで運動のできる格好で来て欲しいとエアを通して伝えて貰ったのだが、彼女は膝や太もも、肘や二の腕の部分に妙なスリットの空いた独特の服装で現れた。
ただ、その足のスリットの部分からは樹皮の鎧が段々と大きく広がっていき、脚部の両外横にはまるで馬車の足に付いている木の車輪がそのまま装着されたような状態になっている。その木の車輪は彼女の思いのまま動くそうで、これでどの方向にも素早く移動できるのだとか。
彼女は興味津々に近寄ってきた女の子と男の子を抱きかかえると、数メートル先を行ったり来たり旋回したりと面白い様に動いでいる。その二人は予想よりも滑らかなその移動に『わーー!すごーー!』と楽しそうに声をあげた。
ふむ。聞いていた話のピンからキリとはこういう事かと私は感心した。
彼女の姿を見ていると、もうそれがただの鎧だとは到底思えない。あれだけ形態を変化させる事が出来るのなら、彼女の腕にあるスリットの部分からも同様に樹皮を形態変化させて武器か何かを出せるのだろう。無手であるのに、常に武器と鎧を備えている状態。……流石に、その首元にある『金石』の輝きは伊達ではないらしい。
今の時代、冒険者にはランクがあり、それの一番下が私達が付けている『白石』そして一番上が彼女の付けている『金石』である。
つまりは、そのドライアドの店主はこの街において、最上位の冒険者であると言う事であった。
そんな人物が何故、ダンジョンに潜らず、秘密基地の様な喫茶店を開いているのかは分からないけれども……まあ、何かしらゆっくりとしたい時もあるかと思い、私は今回の事に誘ってみたのであった。
本人は戦いの為に呼ばれたと思ったのか、戦闘服をしっかりと着て来てくれたみたいだが、今日はその出番は一切こないだろう。ゆっくりと癒されて欲しいと思う。
子供達の相手をしていると不思議な気疲れはあるが、それも楽しくなるのだ。秘密基地でのんびりするのも良いとは思うが、たまにはこんなのも良いものではないか?と私から彼女への癒しのプレゼントである。
私達はいつも通りダンジョンに入り、そして三十分程のんびりとお散歩をする。子供達はローブで休憩をはさみ、ドライアドの店主によるドライブを代わる代わる楽しんでいる。子供達の嬉しそうな声に、彼女の顔も段々と温かみを帯びていくようであった。
それまでの彼女は声はおっとりとしつつも、戦場の空気は抜けておらず、絶えず警戒をしている様な状態だった。野生に身を置くにしても、それでは少し肩肘が張り過ぎに見える。
もう少し緩く広く、そしてしなやかに警戒はし続けないといけない。毎日警戒し続けるのならば、それではダメだぞと遠回しな私からのアドバイスであった。頭では忘れず、心はしっかりと休める。それが警戒を長続きさせる秘訣なのだ。
「ありがとうー。いい気分転換になったわー」
ダンジョンからの帰り際、彼女はそう言って来た。……はて?なんの事だろうか。エアがもう少し話をしたいと言っていたので、誘ってみてはどうだろうかと私は言っただけなのである。
「そう?でも『ロムが誘っておいで』ってエアちゃんは言ってた気がしたけど、それなら私の勘違いだったのかしらねー」
「……そう、だな」
少し言いどもった私を見ると『ふふっ、あなたって、変なエルフねー』と彼女はケラケラ笑った。
私的には普通にしているだけなので、何が変なのかはさっぱり分からない。
「私ね、エアちゃんに呼ばれた時になんとなく思っちゃったの。ああー、私また戦いに呼ばれてるんだなーって。でもそれが違って、正直嬉しかった。私こんな街の中に居るのに、まだ戦いの中に居るみたいで笑っちゃった。……今日は本当に良い気分転換になったわ。それに、思い出せたの。大事な事をたくさん。そして守りたいものが何だったのかをちゃんと……」
彼女の瞳の先には、満面の笑みでお母さん達の元へと帰る『白石』の少年少女達の姿がある。
『今日も楽しかったー』『お姉ちゃんに抱っこして貰ったー』『速かったよー!』とそれぞれがもう楽しそうな報告会をしている。彼女はそれを愛おしそうに見つめていた。
そんな彼女の表情は、いずれ戻らなければいけない戦場があるのだと、そう語っているのが分かった。
『しばらくは今のままゆっくりとしているのか?』と私が尋ねると、彼女は顔を向けて頷きを返す。
「うん。もう少し。この空気をいっぱい吸っておこうと思ってるのー。貴方もエアちゃんも良かったらまたカフェの方に来て。いつでも歓迎するわー。……仲間に会いに行くのは、十分に休憩をとってからにする」
私は子供たちにバイバイと手を振って笑っているエアを見ながら『エアと一緒に行く』とだけ答えた。
すると、彼女はその答えで満足したのか、嬉しそうに笑っていた。
ただ、最後にそう言えば一つだけ聞きそびれたことがあったのだと言い、私へとその問を尋ねてくる。
『──そう言えば、あなたの故郷の森って、どこなの?』と。
「…………」
……ちょうどその時、お母さん方と子供達も帰るらしく『また明日もお願いしますー』『バイバーイ!』と、向こうで言っているお母さん方や子供達の声が聞こえてきたので、私はそれに小さく手を挙げて応えた。
その問、私は少しだけ沈黙する事になってしまったが、彼女にならば伝わるだろうと思い、古い屋号で先の答えを返す事にする。
……ひっそりと風に攫われてしまうような、それでいて誰にも聞こえなくても良いかと思える位の声量で──
「『原初』だ」と、私は一言だけ呟く。
すると、それまでは私と一緒に子供達へと笑顔で手を振っていた彼女は、私の言葉を聞いた瞬間から動きを止め、目を大きく見開いて私を見つめてくるのであった。
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──さて、今回も確りと言葉に出していきたいと思います。大事な事ですので。一言失礼します。
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