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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第781話 成就。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 人だけの世界、魔物が発生しない世界。


 『聖人』が求めた『祈りの領域』の一番の『性質』はそれである。


 『魔力』を使えば使うほどに『淀み』も増すと考え、それを防ぐために『魔力濃度』を極限まで薄めた『領域』──それはある意味で『魔境』と呼ばれる場所の真逆の環境とも言えるだろう。



 余計な『力』を削ぎ落し、『魔力』が最低まで限られ枯渇しかけているに近しい世界でもある。

 一見してその『形態』は、大地も動植物も含めてその全てが『世界』と似たものではあるが……。

 その実、私が調整し直した段階でそれらに存在するものは全くの別物だと言える。



「…………」



 無論、その『領域』の作成には根幹として『祈りの力』を用いていた。

 だからその『領域』はとてもドロドロとした『淀み』を材料として出来ているのが分かってしまう。


 ……視る者が視れば、それこそ『吐き気を催す』という形容がついてしまうほどに、その内部は混沌としていて気分が悪くなる光景だろう。


 だがまあ、表面に出ていなければ問題ないらしい。

 ……少なくとも、『聖人』は気にも留める様子もなかったのだ。



 もうそんな光景に『慣れてしまった』というのだろうか……。



「…………」



 でも、表面上は『世界』とほぼほぼ変わりないその『領域』に、『聖人』の考えに同調せし者達が次々と移り住むようになった。


 

 その者達はその『領域』の本質には気づいていない。

 それに、ある意味では『聖人』の求めに応じて、共に『祈った者達』でもあるからだろう。


 ……彼らは、その一人一人が『祈りの領域』を作った者達であり、『聖人』と同様にその『領域』が『綺麗なものだ』という願いを込めていた──。



「…………」



 ──当然、それは『聖人』が導き、先導した事で『力』の方向性を定めた結果だ。


 『聖人』が束ねた『力』を元に、形を整え、各種の『性質』や『形態』に『調整』を加えたのは私である。


 『世界』や『大樹の森』に行ったような『調整』とは異なり、エアの『音の世界』と同じく、『管理者』が別に存在する為に私の『力』は殆ど消耗する事もなかった。



 『祈りの領域』を作る上で消費される『力』はその大部分が基本的に『聖人』が集めた『祈りの力』で賄われ、運営もそんな『祈りの力』が継続して使われる事となるだろう。



 例えるならば、何か買い物をする時に『買うものを選ぶ』のも『支払いする』のも『聖人』がやってくれるために、私はそのアドバイスをする位だったから、今回の『調整』はとても楽であった。


 そして、最初の『調整』さえ終えてしまえば、今後はもう私の『力』なども必要なく、その『領域』は続くような『仕組み』にもなっている……。



 だからエア達を心配させる事も無く、その新たな『領域』はすんなりと完成したのであった。



「…………」



 元々『世界』と似たものを望まれたからだろう。

 まるで写し鏡と思える程にそっくりな『領域』だ。



 『人』以上に『力』を具える存在も居ない為、移り住んだ者達は過ごし易そうに視えた……。



 ──無論その代わりに、新たなる『領域』には大きな『力』が制限される事となった。



 『領域』を満たす『魔力濃度』も極めて薄いため、小さな魔法さえも碌に使えはしないだろう。


 『日常』生活の中で、魔法道具も含め、ほぼほぼ必要不可欠であるともいえる程の弱い『力』さえも、彼らには今後扱う事が難しくなるのだ。



「…………」



 だが、何も『火を起こす』のに、絶対に魔法を使わないといけないわけではないのだと『聖人』は彼らに諭すと、別の方法で『火を起こせる』事をやって見せていた。



 この世には便利な『力』が身近には溢れているが、それもまたやり方次第だと。


 『力』は使い方次第であり、それを活かすも殺すも、どんな『道』を歩くのも、何かを『表現』するのも、自分次第なのだと彼は『教えた』のだ。



 『聖人』は余計な『力』は不要だと説き続けた。

 ……また『争い』とは、相対的に相手に損を押し付け合うだけで、全体的な『視点』で考えれば皆が損をしてしまうだけだからと。そんな愚かな行為は避けて欲しいと彼は言った。



 『力』が必要ない『領域』であれば、『争い』そのものは無駄にしかならないだろう。

 だから、そんな事よりももっと良き『力』の使い方をして生きて欲しいと。好きな事をして欲しいと。



 『魔物達』も居なくなったことで、日常的に『戦う術』を求める必要もなくなり、『祈りの領域』は平和になり、皆がそれぞれの好きな『道』を歩ける筈だと。



 この『領域』には『大きな力』など何一つない。

 それは不便だし、大変な事も多くなるだろうが、その分だけ争う事もなくなり、皆が『笑顔』で居られる時間が増えるだろうと。



 『汚く、醜い光景を無くし愚かで無駄な事を省き、『嘆きのない世界』を作ったのだ』と……彼は、『聖人』は満足そうだった……。



「…………」



 『人』は凡そ、百年(・・)もすれば『終わり』を迎える。


 だから、ほんとうは誰も、無駄な時間も、無駄な『力』も使いたくは無い筈だ。


 この『新たな世界』は、そんな『祈り』の結晶だと彼は嬉しそうに語っていた……。


 『争い』よりも、どうしたら『幸福』になれるか皆で探していこうと。


 それらを得る為に、皆と協力し合って共に歩いていきたいのだと。


 皆で『笑顔』になる為、それぞれの好きな事の為に、生きていきたいと。



「…………」



 自分が『好きな事があまりできなかった』からかもしれないが──


 『皆が好きな事をして笑顔で暮らせるようになる』という彼の想いは多くの者達に響いていた。



 だがしかし、『聖人』はそんな『願い』を皆に説き終えると──


 最後には『領域』を作りきった事で『力』を使い切ってしまったのか……。


 気づけばまるで『雲』の様になって、彼はその姿を消し去り、『領域』から去ってしまったのだった。





またのお越しをお待ちしております。

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