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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第779話 愚直。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



「……正直言うと、俺はお前の『変化のない表情』を気に入っていた」



 ──私が不器用ながらも『悲し気な表情』を浮かべていたからだろうか。


 それが気に障ったらしき『聖人』は、自然とそんな言葉を零していた。


 その独白には、彼の深い『憎しみ』とは別の感情も含まれている様に感じる。


 ……まるで彼からすると、以前までの『表現』が伝わらない『ロム』だった頃の方が余程に好ましかったと、残念がっているかのように思えたのだ。



「『心』は移り変わりが激しいものだ。大体の存在は『神』も『人』もそれ以外も、常に『変化』し続けている。……だが、誰しもが当然の様に醜い面を伴って然るべきそれが──お前だけは違った。お前だけは、どれだけ見てくれが汚れていようとも、その『心』は揺るがず、いつも冷淡なまま『世界』を在るがままに眺め続けていた。だから……俺は、そんなお前の『変化の無さ』を美徳だと思った……綺麗だと思ってたんだ……」



「…………」



 『心』は『美しく』もあり、『醜く』もあるからと。


 『不変』に見えた不器用な『ロムの心』が、彼には一番尊くも感じたそうだ。


 『変化』によって生じる『面白さ』よりも、常に変わらない事の安心感を彼は愛したと。


 『ずっと綺麗なものだけを見ていたい……汚いものは見たくないんだ』と。



「……でも、皮肉な話だ。俺の『願い』は、今までのお前には響かなかったのも当然だった。それに今気づいた。『表情のないお前』には何度もしてきた話だが──今日、初めて届く気もする。この数十年以上、お前達が何をしていたのかは知らない。……だが俺はずっと考え、戦い続けてきた。どうしたらこの『世界』を『淀み』から救えるだろうかと。だからそれを、今一度お前にも問いたくて、今日はここに来たんだ」



 ──かつて、『勇者一行』と『魔物達』との激しい戦いがあったという。


 そしてその戦いの果て、ただ一人『勇者一行』の中で生き残った『聖人』は、ただ只管に目的を遂げるためだけに生きてきたらしい。



 『多くの人々を助ける』という──そんな『困難な願い』を真剣に実現しようと、彼はずっと考えて身も心も削りながら行動し続けてきた。



 『祈り』という『力』を使いながら……『最後の使徒』として、仲間である『勇者一行』の想いもその肩に感じながら……必死に頑張ってきたのだと。



 何よりも『祈りの力』の不本意な成就によって、かつて『勇者の心』を望まぬ形で『魔物を狩る』という『仕組み』として『世界』に刻んでしまった事を知った彼は……それを解放する為にも色々と手を打ってきたそうだ。



 ……だが、その度に挫折も数多く味わってきたらしい。

 何もかもが上手くいかなかった。全てが『失敗』した。何一つ、成長を感じる事さえもなかった。

 『歩いているのに全く進まない』様な感覚にも近しかったのではないだろうか。


 ……だが、そんな状態でも諦めきれずに、彼は延々と『世界』に蔓延る『淀み』を消す為──『世界の仕組みの改変』ができないかと、ずっと歩き続けてきたのだそうだ。



「──知っているか?ここ暫く、時折『魔物』を狩る際に信じられない様な『力』を発揮して、『敵』を倒すと塵の様に朽ち果てていく『勇者達』が現れている事を……」



 ……それはどうやら、『世界の仕組み』に組み込まれた『勇者の心』が、『祈り』を通して『人々を救う為』に『力』を発揮している現象、であるらしい。


 そして『聖人』はそんな光景を、この数十年以上の間、幾度も目にしてきたそうだ。


 最近では『ドラゴン達』も活発になり、それと戦う『勇者達の姿』も──それを倒し切った後には儚くも塵と化していく姿も、何度も何度も目にしてきて、その度に彼は『仲間達』の事を思い出したらしい……。



「…………」



 彼からすれば、『死んでも尚、戦い続けている使徒』の存在──そんな『仲間達の心』を感じて、その度に『悲しみ』を深めていったのだ。とっくに涙も枯れ、それでも後悔は募り続けただろう。


 そしてその度に『人々を助けなければ』と、その想いだけを支えにこれまで生き続けてきたのだと。



「……一番簡単な理想は、『勇者の心』を『仕組み』から外す事だ。だが、その為の方法が終ぞわからなかった。『祈りの力』を駆使してもそれは叶わなかったんだ。だからいっその事、逆転の発想で──『敵』を完全に消し去りさえすれば……『勇者達』も、戦う必要がなくなれば良いのではないかと考えた。……そうだろう?そうすれば、そんな『助けを乞う祈り』を『人々』がする必要もない。『勇者の心』も、死んだ他の『使徒達』の想いも救われる筈だ……」



 『聖人』は──『浄化の神』は、かつて『神』という『仕組み』の末端として存在していた経験から、『世界の仕組み』というのが、どんな『性質』をもつのかをある程度は理解もしていたのだと。



 だからこそ、その改変が容易でない事を知った後は、直接的に『世界の仕組み』を変える事よりも、間接的に新たな影響を『世界の仕組み』に追加する方が余程に現実的であると判断したらしい。



 ──要は、深く刻まれてしまった『勇者の心』をそこから助け出すのではなく、間接的な『救済』で穴を塞ぎ、『勇者の心』を保護して、これ以上活躍できない状況を作り出そうとした。



 そもそも『綺麗好き』であった彼としては、『世界の汚れ』とも言える『魔物達』の存在を消すために動く事の方が好ましかった、というのもあるのだろう。



 ……その結果、『仲間の心』を救済する為、自らも『力』を揮って、『浄化教会』などの繋がりも駆使して、長い間『魔物達』と『聖人』は戦い続けてきたのだと。



 『勇者一行』の他の仲間達が、今尚『白銀のエア』が司る『音の世界』にて『力』を蓄え、同じように『勇者』を救う為に動いていると聞いても……彼は彼のできる事をするだけだと、その意思は変わらぬ様子であった。


 彼は今、それだけの固い決意をもって、この場所にまで足を運んだというのである……。



「……末席だが、元は『神』たる存在の一部だったんだ。当然『世界の仕組み』において、『魔物達』という存在が──『神兵達』が、『世界の自浄作用』の役割を担っている事も理解はしている。……だがしかし、それでもやつらを俺は消し去りたい。この『汚れ』は見逃しておきたくない。そもそも、なんで『汚れ』を生み出す様な『力』の使い方をする……なぜ、それを普通だと受け入れられる。何故、そんな『力』の使い方がおかしいと考えない。『消費』する事に慣れ過ぎて、それが無ければ『力』の行使が出来ないと決めつけるその『仕組み』が……そもそも、歪んでいるだろうに……」



 『世界』が今の形で存続する上で、どうしても説明のできない部分が──気づかないだけで身近には意外と溢れていると。


 ……多くの者達はそれを『当たり前』だと捉えてしまっているが故に、そうするしかないと『性質』にまやかされたままに動いている。だからこそ、疑問を抱く事すらなく『日常』を営んでいるに過ぎないのだと。



「なあ、ロムよ。こんな話、以前にも話した事なんだが……覚えているか?これまでのお前からすれば自分の周りさえよければ良いと、そう思って碌に『心』にも止めていなかっただろうが──今ならば、通じているんじゃないのか?」


「……私に、何を望むのだ?」


「俺は、この『世界』の是非を知りたい。この『世界』は何のためにある?何故、戦わねばならない。何故、生きねばならない。何故、こんなにも苦しまなければいけないんだ。……何故に、こんなにも目にしたくないものが、淀みが、痛みが、溢れている……おれはもう、こんな状況が続く事が嫌なんだ。こんなものを、いつまでも見続けていたくない。汚ればかりが目立って、目立って、目立って目立って仕方がない状況を変えたいんだ……だから、手を貸して欲しい」


「…………」


「……『力』を貸してくれ。お前にしか頼めない。お前ならば、全ての『魔物達』を消し去る事だって可能なんだろう?」


「……ああ。だが──」


「──分かってる。ここに来て、変わってしまったお前の『表情』を見て……俺も考えが変わった。今のお前は、それだけ『笑ったり』、『悲しんだり』、『人の顔真似』も上手くなったんだ──もう以前とは違うと、そう言うつもりなんだろう?『心』が憎たらしいほどに、『歪』を受け入れてしまっているのが理解できてしまった。なんで、お前はそんな風になっちまったんだ……お前だけは、変わらないでいてくれると思ってたのに……」


「…………」


「……だが、それでもいい。逆に、今だからこそ──俺や、多くの『人々』の想いも分かるんじゃないか?『魔物達』は……奴らは毒だと。この『世界』にあってはならない存在なんだと。消えた方が絶対に良い筈だと!だから、この『世界』に奴らが現れないように『調整』する事も、お前にならばできるんじゃないのか?それだけの『力』をお前ならば持っているだろうと俺は判断している。それぐらいは分かる。……それに、そうすれば『狩られる』側の役割を持たされた『神兵達』も助ける事が出来るんだ。皆を『幸福』に出来るっ!皆が、『笑える』様になるんだ!だからたのむっ、たのむよロムッ。『力』を貸してくれッ!!」



「…………」



 『持たざる者』ほど、『力』には敏感にもなるだろう──。


 だから『聖人』がもうなりふり構わず、頭を下げている事にも疑問は無かった。


 ……彼は本気だったのだ。本気で、その『心』を『表現』し続けていた。それが理解できた。


 『祈りの力』というあやふやな『力』と、『世界の仕組み』にずっと振り回され続けてきた彼にとっては、最初から思い通りに生きてきた事など殆どなかったのだと感じてしまった……。



 彼の行動の全ては、ある意味で周りの状況に流されてきた上での結果であり、その後にそうせざるを得なかったからやって来たに過ぎないのだと……。


 彼は、自らが望んでその『道』を歩んできたわけではないのだろう。


 もっと言えば、『周りが汚かったから』、彼は『浄化』し続けてきたのだ。


 ──もしも『周りが汚くなかったなら』、彼はどんな『道』を歩み、いったい何をしてきたというのだろうか……?



「…………」



 ……そう。つまりは彼もまた、ある意味で『空っぽ』のままだったのだ。


 きっと彼も、何かを見失ってしまっていた。そしてその上で、今の『道』の先にある未来を、どう歩いて行けばいいのかわからなくなってしまったのだ。


 ……たぶん、考えても考えても、何も思い浮かばなくなってしまったのだろう。

 だが、何かを変えたいと思いながらも、その歩き方を続ける事しか出来なかった。

 きっとそれが苦しかったんだろう。


 でも、だからこそ、無理やりにでも何かを変えようとしている風にも視えたのだ。

 ……そんな『表現』を感じてしまったのである。



「…………」



 ……もっと言えば、彼は『先頭を歩く者』の苦しみを、本当の意味で今まで知らなかったのだと思う。


 ただ、最終的にはその『道』を突き進む事に決めて、彼は今ここに居るのだ。

 本気で『先駆者』になろうとして──『最初の一人』の苦しみに挑もうとしているのが理解出来てしまった。



 ……要は、多くの『人々の願い』を叶えようとしていたのも、『自分の願い』を見つける為にあった筈なのに、いつの間にかそれが本当に『自分の願い』に変わってしまっていたのだと──。



「…………」



 ──だからこそ私は、そんな『聖人』に対して、一つだけ提案をしてみる事にした……。



 『それならば、『君が望む世界』を、君が『領域』となって作ってみればいいのではないだろうか?』と……。





またのお越しをお待ちしております。

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