第777話 影響力。
『綿毛』が『ロム』の姿に変わってから、凡そ二十年ほど──。
その間、私はずっと『大樹の森』で過ごし続けていた。
「…………」
それも『耳長族』の姿や『聖竜』の姿、そして時には『綿毛』の姿へと『身体再構成』を幾度も繰り返し──限定的な『形態変化』とも呼べるほどの『力』を得るまで成長していたのだ。
そんな様々な姿に『変化』する事で、改めて見えてくる『表現』があり、皆との時間を大切に育みながら、『楽しんで』生きてみたのである。
よく笑うようになると、『笑顔』も段々と顔に馴染んでくる感覚……とでも言えばいいのだろうか。
『表現』をする事で次第に自分の感覚も成長していくのを感じたのである。
そして、その上更に、以前までならばきっと理解できていなかっただろうと思う周りの些細な『表現』にも、色々と新たな発見があった。
『なんでこんな事も分からなかったんだろう』と思う事も、沢山だ……。
ただ、それらを知る度にいっぱい笑って、いっぱい怒って、いっぱい泣いて……。
そんな『普通の』時間が今までにない位に『楽しかった』のである。
……そうして『心』が揺れ動くだけで、景色までもが『変化』した様に感じてしまう程。
『詰まらない』と思っていたものさえも……今はまたちょっとだけ好きになれる気がした。
「…………」
そしてエアもバウも、精霊達も、ドラゴン達も、白い兎さん達も、ゴーレム君達も……みんながみんな、そんな私の些細な『表現』一つで、同じように笑ったり泣いたりしてくれるのだ。
だから私は、そんな光景に出会う度になんとも言えない気持ちになってしまった。
……込みあがって来る想いに我慢ができなくなり、何度も何度も涙も零れてしまったのだ。
──それに、『皆が知っているロムではない』私に対しても、そんな風に泣き笑いしてくれるのだから……尚更にその想いも強かったのである。
「…………」
──そう。結局私は、皆が本当に求める『ロム』になってあげる事は出来なかった。
それぞれの『視点』の中にあった『ロムの姿』はもう追憶の中にしか残っていないだろう。
……しかし、『それでも良い』と。皆は『おかえり』と私に言ってくれた。
『ロムは、記憶を失ってもロムのままだったから……』と、在りのままの私を皆は受け止めてくれた。
正直、私自身には比較のできない話にはなってしまうのだが──記憶が無くなっても、どんな姿になっても、私の『根』となる部分は変らなかったのだとエア達は感じてくれたらしい。
そして、これまで『道』を共にしてきて、……『ロム』のやってきたことには成功も失敗も含めて、その全部にちゃんと意味があったと思ったそうだ。
だから此度の事も、最終的に元の姿へと戻れたのならば、もうだけで充分なんだと。
……不足してしる記憶があったとしても、『心』は変わらないし、また再びこれから築いていけばいいと、そんな風に言ってくれたのである。
「…………」
『いつだって『ロム』は『ロム』だったよ』と。
『いつも私達を愛してくれたんだよ』と。
……ずっと頑張ってきて、そしていつも傷ついてた。
そんなあなたの『力』になりたいと思って、わたし達も頑張ってこれたんだと。
『あなたと一緒に歩いていきたい』──これまでも、この先もずっとそう想っていると……。
その『表現』の深さ──『想い』の強さを、理解すればするほどに、私の『心』へと深く響いてきたのだ。
彼女たちの私に向ける『表現』はずっと変わらなかった。
……変わったのはやはり私だ。
「…………」
ただ、互いに成長しあって支え合ってきたからこそ、そんな『想い』にも辿り着けたと思う。
私が皆の『表現』に気づき、『理解』が出来るようになった事はとても大きかった。
……皆が居なければ、こんな風に『笑いたい』と思う事さえなかっただろう。
同じ言葉を聞いても、『心』に対する『響き方』には『差異』があるのだと実感できる様にはなれなかった筈だ。
……言ってしまえば、以前までの『ロム』の『表現』は『とても軽くて幼かったのだ』と。
だからこそ、その点今の私の言葉には『深み』が出てきた様に思えるのだ。
それだけの『道』を歩んできたと、最も『変化』を感じた瞬間だった……。
「…………」
……うむ。皆の『変化』に、ある程度私も『適応』できたからこその、今があった。
少なくとも私の『心』は、言葉に出来ない程の大きなものを手に入れたのだと実感した。
その代償として消費してしまったものも大きかったのかもしれないが、今ではその『道』を歩んできて良かったと、改めてそう思えるようになったのだ……。
「…………」
──そうして、今日も今日とて、また新たな『気づき』はないだろうかと『大樹の森』をエアと共に私は見回っている。
二十年が経ち、今ならば『変化が不足している空』も、こうして見上げていると次第にこれはこれで一つの『表現』にも思えてきて……『味なもの』にも思えてくるのだ。なんとも不思議な気分ではある。
──ぴょんぴょん!
……ただ、その上その日はなんとも珍しい事に、私を訪ねて外から『来客』もあったらしい。
そこで私は、呼びに来てくれた『ゴーレム君』に導かれるままについて行くと──
その先で、これまでに見たことがない『表現』をする彼と出会う事になったのである……。
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