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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第774話 無心。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 珍しくも勢いよく大声を上げながら、私はびゃーっと『特大ブレス』は放ち続けていた。

 ……因みに、言うまでもなく、私の『ブレス』は『翼』から出ている。

 なので、私のその『大声』の効果は、ただの気合だ。



「…………」



 ……だが、この『表現』をすれば、先ほど千切れてしまった『翼』の状態など、『全く心配いらないんだぞ!』と一目で分かるだろう。そんな思惑を込めた攻撃だった。


 それに、幾条もの白銀の光に包まれてしまった『エアとバウ』ではあったが、最初こそ不意打ち気味の攻撃を受けてしまったとはいえ……直ぐにそれぞれが回避行動に移っている。



 つまりは、無事だ。


 ……寧ろ当然の様に、光から抜け出た二人の姿は、ほぼほぼ無傷(・・)であった。

 精々、ちょっとだけ『びっくりした!』と思っている位だろうか……。外傷もほぼほぼ見えない。



 この二人はもう、『聖竜()』の『ブレス』が直撃したくらいではびくともしない程に、成長したのである。


 ……その『力』の差は、語るまでもないだろう。


 ただ、『翼』が無事だと知って、二人が『ホッ』としている雰囲気と、それに伴う『深い想い』を感じて……私は『ブレスを放ってよかった』と素直に思ったのだ。



「…………」



 ……うむ。時として、こうした言葉以外の『表現』が、相手の『心』によく響く。

 『想い』を伝える手段は一つではないが、時として、それは言葉を超える。


 それがよくわかる光景にも思えた。 


 ……さらに言えば、光から抜け出た途端の二人の表情はなんとも感情豊かで、その『変化』を思うだけで、尚更に感慨深くもなったのである。



 以前より──きっと『ロム』よりも、その想いを『聖竜()』はより繊細に感じ取れるようになった事を顕著に感じるのだ。



 繰り返しにはなってしまうが、やはり『聖竜()』は『ロム』と比べて相応に『変化』しており、『適応』してきたといえるのではないだろうか?



 ……うん。まあ、実際に他者の『視点』からどう映っているかはわからないけれども、私はそう感じたのである──。



「…………」



 ──二人の『表現』が私の『心』に響き、私の『表現』が二人に響いているのを感じると、それだけで今までにない不思議な『喜び』も生まれた様に思えた。



 そこに存在する『喜怒哀楽』が、より形容され、より鮮明になっている、とでも言えば分かり易いのかもしれないが……。



 二人のその様子が、ただ『無事を喜んでいる』だけではないのだと、明らかな『差異』を感じたのだ──。



 『……ロムが無事で安心した。ロムもわたし達の事を心配してくれた。互いに支え合っている。必要とされている。その上で、互いの成長も感じて、感動している。……一緒に居られて本当に嬉しい。この先もずっと一緒に居たい──』



 ──と言う様な『繊細な想い』が、その『喜び』の中には沢山の意味をもって存在しているのだと。


 そして、そんな見つけにくい『心』の揺らぎを、私が、理解できるようになったのである。


 ……それは正直、『驚くな』という方が無理な話だった。



「…………」



 言うまでもなく、元々そこに在る『気持ちの大きさ』は変わらないものだとしても、『感じ取れる想いの大きさ』は比べものにならないのである。



 そして、それは当然の様に、エア達だけでなく誰でも普通に感じられるような『さも当たり前の感覚』だったのかもしれないが……。



 しかし、私が『聖竜()』になるまでは──その『表現』の奥深さを知るまでは──ずっと『ロム』に感じられたのは前者(『無事を喜んでいる』)でしかなく、それが限界だったのである。



 その『変化』は……言葉にしてみても、凄まじいのではないだろうか──?



「…………」



 これまでに『ロム』が気づかなかった沢山の『表現』こそが、『ロム』を人から遠ざける要因となっていたのであれば、それを手に入れたことは大いなる前進だともいえるだろう。



 『普通』とは、意外と『普通』ではない場合も多い。

 己の手に在るものの本当の価値は、それを持たない者達にしかわからない。



 無論、それでも尚、『ロム』を『ロム』のまま愛してくれたエア達の存在は──その『表現』は、そこに在ると知っただけで泣きたくなった。


 ……それだけでも思わず『心』に込みあがって来るものが溢れそうになる。



 だから、『表現』を理解する事は……きっと思うよりもずっとずっと特別な事なのだと。



 ──結局、『人の気持ち』が分かる、分からないというのも、それぞれの『視点』でそんな『表現』の中に含まれている『情報量』に確りと気づけるか否かでしかないと定義するのであれば……。



 『聖竜()』が『空っぽ』になった事にも意味があったのだと、そう想えたのだ。


 ……ただただ『エア達を泣かせただけではなかったのだ』と思えるだけで、この『心』は少し救われる。


 『ロムの理想』とする『力』……彼がどうしても手に入れられなかったものが今『聖竜()』の中でちゃんと形となっているのだから──。



「…………」



 ──まあ、正直かなり極端な例え方をしてしまった気もするが、実際『聖竜()』はちゃんとそこに在る繊細な『表現』にも気づけている訳で……。



 一例を挙げるならば、『ブレス』を回避した後、少々ケホケホと咳き込んで咽ているエアのその『表現』だけでもう──


 『あ、ロム、本当に大丈夫そう』と思っている事が、雰囲気だけで直ぐに理解できてしまう位にはなっているのである。


 ……うむ。本当に大丈夫なのだよ。ほらこの通り。


 そして、それは『バウ』に対しても同様の事が言えて……。



 『──良かった。でも、父さんはなんでいきなり『ブレス』を撃ってきたんだろう?もしかして、一緒に遊びたかった?僕も全力で撃ち返した方がいいかな?それとも、久々の訓練とか?……わくわく』と、何かを期待していることまで理解できてしまうのだ。



 ……うむ。だがまあ、流石に『エアとバウ』が全力で攻撃してくると私の方が危ないので、そこは控えめに手加減して欲しい。


 でも、正直一緒に遊ぶのは吝かではないので、『わくわく』には応えたいと思い──私はもう一度声を上げると、再びまた『ブレス』を放ってみて、二人に頷きを見せたのである。



「……ぱぅーっ!」



 ……そして、先ほどよりも若干、弱めになったその『ブレス』を感じて──その『表現』を感じ取った二人はすぐさま微笑みを浮かべると、散開しながら今度は私の方にも魔法で反撃してきたのであった。



 そして、そこからはもう三人での『魔法空戦』(訓練兼お遊び)が開始される運びとなったのである。



 魔法を放つ『白銀のエア』の表情は大人の雰囲気があった。

 彼女は私とバウに対して沢山の『氷混じりの風の刃』を飛ばしてくる──が、無論それもエアなりの『表現』だと直ぐに分かるのだ。



 『さっきはまたちょっと熱くなってたから……頭を冷やせってことねっ……うん』と。



 『バウ』からは、先の『世間話』の一端も含まれているのか、その『表現』の中には『奥さん自慢』も入っているのが直ぐに分かり──【火魔法】と【土魔法】の複合で『土赤竜』とでも言える自分と似た存在を作り出すと、それを巧みに操りながら揃って『ブレス』を放ってきたのである。



 『……三人でこうして遊ぶの久々だっ。楽しいーっ』と、そんな二人の想いが一目で感じられたのだ。



 ……まあ、バウの糸目が常に緩々状態で、ずっとニコニコとしていたから、そんな想いは私じゃなくても直ぐに分かったかもしれないが──それはそれは、とても尊い時間であった。



「…………」



 ……本日の『大樹の森』の空は、激しい音と色に包まれて大変賑やかになった。

 眼下では住人達も大いに盛り上がっている。


 それはある意味で『神々の戦い』と言っても良さそうなぐらい一見すると迫力のある戯れで──

 まあ、その実『聖竜()』は結構本気を出し続けていたが、私以外はほんと遊んでいるだけだったのはここだけの秘密である……。



 このレベルになると、遊び相手も遊ぶ場所も儘ならないものだし、日ごろは別の事に『力』を使ってばかりいるから、このような時間は大変に貴重なのだ。……無論、その相手になれるのが嬉しくて、私も思い切り楽しんだのは言うまでもない。



 エアにしても、単純に『力』をぶつけあえる相手となるともう探すほどしかいないから──冷静に見えても、実際はその小さな体躯も相まって、かなり『キャッキャ』と熱中してバウと一緒に遊んでいたのだ分かってしまったのだ。




「…………」



 そうして、結果的に私達はまるでこれまでに溜まっていた『想い』の数々を全て吐き出す(『表現』しきる)かのように、遊び続けた訳だ。……正直、楽し過ぎて時間も忘れる程に発散してしまった。



 ただまあ、時としてこんな『表現』があっても良いだろう。

 ほんと、出来ればまたやりたいと思えるくらいに、そんな最高の時間だったのだ……。



「…………」



 ただまあ……唯一の弊害というか、問題となるのか、ちょっとだけ『失敗したなぁ』と思うのは──『聖竜()』が思ったよりもはしゃいでしまった影響だろうか……。


 どうやら『力』をかなり使い過ぎてしまったらしく──終わってみれば『聖竜』の身体を保ち続ける事さえも困難になっており……。



 その結果、最終的に私は『シュルシュル』と縮んでしまい──なんと、『綿毛』状態になるまで小さくなってしまったのだった……。



「…………」



 ……うむ。やっちゃったのだっ!





またのお越しをお待ちしております。

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