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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
773/790

第773話 無神経。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 ……些細な事で、私の身体から離れていってしまった片翼は、衝撃で千切れ飛ぶとそのまま空の下へと落ちていった。



「…………」



 その事態にいち早く気づいた『エア』は、己のした事に気づくと顔を青ざめさせ、直ぐさまにその片翼を取りに空を駆け下りていく──。



 そして、見事にそれを空中で掴み取ると、同様に青ざめながらも私を抱きしめつつ、泣きそうな雰囲気で待っているバウの元へと全力で戻ってきたのであった。



 ……いやいや、二人とも気にし過ぎなのだ。私は大丈夫なのである。



「…………」


「…………」



 だが、『大丈夫だよ』といくら私が言葉にしても……二人とも一切耳へと入っていないのか、珍しくもただただ無言で、二人して私の背の『翼』をずっと見つめ続けていたのである。



 ……無論、拙い『翼』は直ぐにほら、元通りだ。


 だから、何の問題もない。痛くもないんだよ。



 ──ただ、私にも『既視感』がある様に、『エアやバウ』にも『既視感』があるのか……。


 二人はずっと俯いたまま、気まずそうにしていた。


 その間、ずっと『ごめん』と。ずっと『……ばう』と。二人は私に謝り続けていたのだ……。



「……ぱう」



 ……だがしかし、そうではない。そうではないのだ。


 先ほどまでの『楽しかった』雰囲気が、どうしてこうなってしまうのかと──。


 それを思わずにはいられなかった。


 ……無論、二人の気持ち的には『悪い事をしてしまった』と、そんな想いで溢れているのかもしれない。


 だがしかし、私はそれを気にしていないのだ……。


 でも、この気持ちをいったいどうしたら『表現』できるのだろうか?


 それが分からない。わからないのだ。むずかしすぎた……。



「……ぱう」



 『ロム』よりも、『表現』する方法を得た様な気になっていたのだが──咄嗟の場合にはほらこの通りだ……まだまだ全然上手くはいかないらしい。


 その『儘ならなさ』と、二人の雰囲気につられるかのように、次第に私も暗い雰囲気に包まれそうになる……。



 だが、こんな時に、私はどうすればいいのだ?

 笑いかける事も出来ない。言葉も上手く出てこない。


 ……そのままでは『ロム』と全く同じだ。『既視感』が、また激しく胸の奥を打つばかりだ……。


 しかし、何かをしようとしても、今は『ぱたぱた』する事だって場違い極まりないだろう?


 寧ろ、『気にするな』と言っても二人は気にしているのだから、『翼』を大きく広げて包んであげることさえも、今は逆効果になってしまう様な気がした。……それではもはや『癒し』どころではない。


 『外傷』が視えなくても、『内傷』は確かにそこに在るのだ。


 『心の痛み』は……二人の様子から──その『表現』から、ちゃんと伝わってきたのだから……。



「…………」



 ……ならば、後は何ができる。私は何を『表現』したらいい。


 これまでの旅で、私は何を得てきた。何をしてきたのだ。


 基本的に『見守る事』が多かったのは確かだが……それ以外に私は何もしてこなかったとでも言うのだろうか?



「…………」



 ……いや違うだろう!あった筈だ。私は、私達は、沢山の『道』を歩んできたのだから……。




 ──そして、これまでの『道程』を思い返した瞬間……私は一つの閃きを得た。



 それ(・・)が時として『成長を促す』ために必要なものだと、私は知った筈だと。


 それに、今の様な瞬間においては、それ(・・)こそが最も効果的な一撃ともなると。



 ──ならばもう、『やるしかない』と、そう思ったのだ。


 このまま黙っている事だけは『なんか違う』と思うならば……それはやるべき瞬間であると。



 そして、それはある意味で『ロム』と『聖竜()』の最も大きな『差異』ともなるだろう──



「……え?」


「……ばぅ?」



 ──という訳で、それを二人にも知って貰う為にも、私は『翼』を大きく広げてみせると……暗い表情を浮かべていた二人に対し、『超至近距離(・・・・・)』から、ほぼほぼ全力で、『特大のブレス』を放ったのだった。



「──ぱぅううううう!」



 『聖竜()』は両の手を大きく上にあげると、威勢の良い声を出しながら、精一杯の『力』を込めた……。



 無論、そんな攻撃(・・)に対して二人は、『来る!』とは微塵も予想していなかったからか、碌に回避する事も出来ずに真正面からその『ブレス』の白銀に包まれていったのである……。



 そうして、過保護なばかりの『ロム』とはまた一味違った『聖竜()』の『想い』が、ちゃんと彼らに『響く』事を期待して──敢えて私はここで、初めて『大事な二人』に対し、全力でぶつかって『表現』してみる事にしたのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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