第767話 無添加。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『わいわいがやがや』としながら、私達は『白銀の館』の中にある『第三の大樹の森』に繋がる部屋へと入っていく……。
その場所は『大樹の森』を真似て、『ロム』が作った特殊な場所──。
そして他の『大樹の森』と同様に、部屋の中に在るとは思えないほどの火や風、水、土に溢れ、様々な『色や音』が『心』へと響き渡るかのような自然の美しい『領域』であった。
……特に、その中でも目を引くのは中心部に程近い場所に在る『白い大樹』だろう。
その木はこの部屋で最も存在感があり、凛々しくも聳え立っていた。その姿はまるで『──おかえり』と、大きく手を広げて待っているかのようだ……。
「…………」
少なくとも『既視感』は、『いつの間に、こんなにも大きくなっていたのだろうか……』と、その木にも不思議と感動もしている雰囲気だ……。
暫くぶりに見る風景の『変化』が『心』に効いているのか。『聖竜』もそんな想いにちょっとだけ影響を受けている感覚がある。
『第三の大樹の森』はその仕様として、『人』の街に沿った場所に作られているから尚更に。
他よりも『魔力濃度』も控えめになっており……不器用ながらも、かつての『館の住人達』を気遣って、ここに足を踏み入れても大丈夫な様になっているのが直ぐに分かった。
また、そんな『不器用な気遣い』の一つなのか──この部屋の一角には『畑』もある……。
『聖竜』としては、そんな『歪さ』を面白く感じてしまうのだ。
『……なぜに『畑』?その時はどうしてそうしようと思ったのだろうか?』と。
改めて考えみるだけで、そんな己の『変化』を身近に感じられた気がした……。
「…………」
まあなんにしても、今も尚、その『畑』は健在であり、寧ろ『館のゴーレム君』や『精霊達』が楽しんで手を加えた結果だろう──かなり手広く拡張されている上、珍しい多種多様な薬草だったり、美味な作物、また有用な果樹なども沢山作られていたのだ。
……聞けば、その『畑』の近くには『ゴーレム君達』が作ったという『倉庫』らしき『魔法道具』も設置されており、その中ではここで作られた作物を『長期保存』出来るようにもなっているらしい。
それらの作物は一応『取引』用という話だが──無論、他にも『創作お料理』に使ったり、密かなルートを用いて『街』でお野菜を販売したりもしているのだとか。
『ゴーレム君達』が食事をしないからと言って、作物を無駄に作っている訳ではないそうだ。
作った『お料理』を帰ってきた『子達』に振舞ったり、お野菜を販売したりするのはとても楽しいんだと『ゴーレム君達』は激しく『──ピョンピョン!』していた……。
「…………」
入口から『白い大樹』まではそこそこの距離があった筈なのに、気づけばそんな『ゴーレム君達』の微笑ましい話を聴いているとあっという間に辿り着いてしまう。
私は『水竜ちゃん』や『風竜くん』にもその話を伝えながら、初めて見る不思議な場所にキョロキョロとしがちな二人の背を支えて付いて行く……。
新しい場所はいつだって、転び易いし、恐れを抱き易くもある、からと──
「じゃあみんな、『扉』に手を触れててね……今、開くからっ」
──そうして、浮島状態になっている場所の中心部にある『白い大樹』へと辿り着き、その幹にエアの合図で触れると、私達は一瞬の浮遊感と共に視界が切り替わるのを感じた……。
慣れれば、『家』に帰るのに一々手を触れる必要もないらしいのだが……今回は初めての者達も多いので一番分かり易い方法で帰る事にしたのだと。
実際、『精霊達』も一度『鍵』となる『繋がり』を得てしまえば、次回からはその『繋がり』を介するだけで行き来が出来るという話で、今後は『館のゴーレム君達』も同様に『大樹の森』へと気楽に足を運んでくれたらいいなと私は思った。
……因みに、そんな『ゴーレム君達』だが、私達が帰った際に戻れた場所がちょうど『大樹』の前に在る大きな花畑だったために周りがよく見えなかったのだろう──
現状はもうあちらこちらへと『ぴょーん、ぴょーん』と大きなジャンプを繰り返しており、色々な場所へと跳んで行ってしまったのだった。案内も必要ないらしい。
……まあ、その様子からは『楽しい!』が溢れているので好きな場所に行って貰って構わないだろう。迷子にだけならないように気を付けて欲しい。
ただ、一方そんな活発的な『ゴーレム君達』に対して幼竜二人の方はというと……。
「…………」
「…………」
……二人して、『ぽけーっ』と揃って口を開けその場に立ち尽くしながら驚いていたのだった。
「…………」
……でもまあ、それも仕方ないだろうと『聖竜』もそう思う。
何しろ、この場所は『魔力濃度』が今までとは本当に段違いなのだ。
実際、この場で過ごしていれば彼らは勝手に元気が溢れてくるだろうし、最低限だが『ドラゴン』達は何の『お食事』も必要なしに暫くは戦っていられるくらいには『力』を感じるだろう。
無論、『ご飯』が要らないという訳ではないが……『世界』に居て、各地を彷徨った経験がある『風竜くん』や、親とも離れ『ご飯』が全く食べられなくて命の危機にあった『水竜ちゃん』からしてみればきっと信じられない様な場所だと思う筈だ。
──『求めていた場所はここだったのか!』と、本能的にそう感じ取っているかもしれない。
「…………」
今も、呆然と口を開けているだけに見えるが──その実、『呼吸をするだけで力が溢れてくる』感覚に、戸惑いつつも喜んでいる様な気がした。
『息を吸って吐く』事さえ……これまでどれだけ困難だったか、それがどれほどに特別な事だったのか、二人は今身をもって学んでいるようだ。
「──ばうっ!……ばう?」
それに、何よりも二人の『視点』の先には、この『領域』で最強の『ドラゴン』もいて──『大樹』に身を預けながら『楽し気に絵を描いている』のだから……もうほんと、どこから突っ込んでいいのかも混乱している部分があるだろう。
……ただまあ、一方そんな『最強のドラゴン』こと──『バウ』も、エアが帰ってきたことに対してすぐさま察知すると、嬉しそうに彼女に向って『おかえり!』と元気よく声をかけてはいた。
ただ、エアの姿が自分の知っている状態からまただいぶ変化している事にも気づくと、疑問を覚えたのか首を若干傾げてはいるのだ。
『……あれ?どうしたの?髪が白に……それになんか、またちっちゃくなってない?』とまるでそう訊ねているのような仕草であった。
「……ふふっ、驚かせてごめんね──ただいまバウっ、また大きくなったねー」
「ばうっ」
ただ、それに返事する前にはもう『白銀のエア』はバウの傍まで歩み寄っており、彼女は静かに彼の顔を抱き寄せると、私達にするよりも若干強く『ぎゅーっ』とバウの顔を抱きしめたのだ。
……実際、長命な種族だからか。あまり離れていた間の時間の長さは気にする程ではなかったという風にお互い認識していたかもしれないが、素直に会えた事がまず嬉しいのだと。
ちゃんと会って言葉を交わすのも久しぶりだったから──相手の『変化』が、自然と大きく感じられてしまったのだとも思う。
現状『バウ』の体長も恐らくは……尻尾まで含めると十メートル弱くらいはあるだろうか……。
もうすっかりと立派な『青年』の顔つきに変わっており、それをエアは『心』から喜んでいる様子であった。
「…………」
『既視感』からも、『もう、抱っこは出来ないかもしれないなぁ……』と、そんな不思議な寂寥感もしみじみと伝わって来るが……。
まあ、それはある意味では当たり前の事でもあるので、気にしないで良いだろう……。
あの大きさの『ドラゴン』が『抱っこ』されて運ばれる姿だなんて、想像するだけでも面白いのだから──
寧ろきっと『バウ』の方が、そんな光景は恥ずかしいから嫌がるだろうなと、不思議と自然に私の『心』もそう感じていた……。
「……ばう?」
……だがしかし、私が暢気にもそんな事を考えていると、今度はエアに『ぎゅっ』とされていた筈の『バウ』が、偶々『聖竜』にも『視線』を寄越したのだが──
互いの『視線が合った』と感じた次の瞬間に、『聖竜』を見た『バウ』が急にその愛らしい糸目の目尻から『ポロポロ』と、静かに大粒の雫を零し始めてしまったのだった……。
またのお越しをお待ちしております。




