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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
762/790

第762話 不届き。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




「──あっ!みんな見てみて、あの『街』だよっ!あそこに『白銀の館』があって、その中に『第三の大樹の森』もあるんだ。そうしたらそこにある白い大樹を介して『大樹の森』に帰れるからねっ!」


「きゅー!」


「がゆっ!」


「…………」



 視野が狭くなっていると、時間の流れや、季節の移ろいにも気づくのが難しくなる。

 いつの間にか過ぎ去って、いつの間にかまたやって来る感覚だ。



 ……ただ、時として、その『表現』を面倒に感じる事も、あるのではないだろうか?



 『──季節の移ろいに、意味はあるのか』と。



 暑くなったり、寒くなったりする必要なんて本当にあるのか?寧ろ、邪魔じゃないか?と。

 もっと言えば、『ずっと一定で、過ごしやすい空間が続いた方が嬉しいのに』と。



 ──そう思ったことはないだろうか?



「…………」




 それこそ私達の『旅』も、最初から出る必要があったのかと問われると、それに近しい感覚を覚えるだろう。



 『帰るために旅に出ている』だなんて、愚かな話ではないのか?と。

 様々な危険に巻き込まれる可能性があるのに、なぜ『旅』になんか出たのだ?と。



 そうなるんだったら、最初から『旅』になど出なければ良かったのだ。

 ……そうすれば誰も傷つかなかった。誰も泣かなくて済んだ、かもしれないのにと。



 『歪』をまき散らし、『世界』に要らぬ混乱を広め、数多の命を危険にさらしたのと同義だ。

 『ロム』と言う存在が余計な事を沢山してきたばかりに、多くの者達が悲しむ結果になったと。



 ……寧ろ、傍にいる大切な存在すらも、何度も何度も泣かせて、何度も何度も傷つけただろうと。


 そんな『旅』に、いったい何の意味があったんだ?

 そんな冒険になんか、出ない方が良かったんじゃないか?と。



「…………」



 ずっと『大樹の森』で平穏に暮らしていれば、それこそエアを守る事も、もっと簡単に成せただろう。


 ……それになのになぜ『旅』に出たのかと、そんな疑問を抱いたならば、きっと私達の『道程』は不思議に思えたのではないだろうか?




「…………」



 だがしかし、その『答え』は既に、先の話『視ているもの』に通じる部分があり──他者の『視点』にさえ気づけていれば、何となくだが理解できる部分があるのではないかと思うのだ。



 ……それこそ、『旅に出る』前の状態に焦点をあててみるのも良いだろう。

 そしてずっと『平穏な道』を歩く事の意味にも、気づけるか否かでも『視野』は変わる筈だ。



 そもそも、歩いているとその場所が『平坦』かそうでないのかも、時として気づく事が難しい瞬間がある。


 ……要は、そんな時にはそれがどんなに『素晴らしい事か』も気づけない場合もあるだろうと。



 もっと言えば、『失って初めて気づくもの』、そしてその時に伴う『己の感情』というものは、その瞬間になってみないと分からない事も多いのだ。



 ──『教えて』も、ちゃんと身に付くものと、そうでないものもあるだろう。



 噛み砕いて言えば、『ずっと幸福の状態』では、『自分が幸福なのかも気づけない』事があるのだと。



 それが当たり前だと、『日常』なんだと思ってしまえば、それ以上の幸福がないと知った時──。


 それはある意味で『絶望』に近しい感覚を覚えるかもしれない。



 ──これ以上の『成長』が、『望み』がないと知った時の、その『詰まらなさ』を想像できるだろうか?



「…………」



 ずっと幸福な状態にあり、その状態に己が十分に満足し、それが永遠に続くとしよう。


 無論、それ以上の幸福など望めない訳だ。満足しているのだから……。


 だから、それは言うまでもなく、今以上の『変化』が一切ない『日常』となる。


 ……それはある意味で、ただ『生きる』だけの時間の連続だ。



「…………」



 ……さてそうするとだ、何が起こるだろうか?


 そんな時の『己の行動』を想像してみたことはあるだろうか?


 何もない『日常』を思い浮かべた時、そしてその時間が永遠に続くと知った時、己が何を思い、どんな行動を選択するのだろうか?と。



 もしくは、延々と白紙の『物語』を読み続ける事を幸福と思えるのであれば、そんな想いには一切の理解は出来ないのかもしれないが──。



 そうでないならば、『世界』に近しい感覚を持つのだとしたら、分かるのではないだろうか?



 『──何かしらの変化が欲しい』と、そんな思いを抱くのではないだろうか?



 だからこそ、きっとこの『世界』も、『歪』を求める仕組みを内包しているのではないかと私はそう思った。



 ……少なくとも、そんな白紙の物語を詰まらないと思うのであれば、『世界』には『歪』が必要とされるだけの理由はあるのだろうと。



「…………」



 ──時に、『人』の『視点』の中では、『なんで『世界』は平和に、幸福にならないのか』と、そんな嘆きを抱く事もあるかもしれないが……。


 ……つまりは、そういう訳なのだ。


 『視点』が違うからこそ、それに伴う『幸福の形』も異なり、それ故に『歪』が、『表現』が求められるのだと。



 『平和』と『幸福』は、完全に一致する言葉ではないのだと。

 ……その事に気づけるか否かでも、見方は変わるだろう。



 『変化』の意味も、自分が何を求めるのかも、何を『幸福』とするかで、様々に色を変え、様々な音を掻き鳴らす──それこそが私達の『旅』に出た理由でもあるのだ……。



「…………」



 そう『既視感』は告げる──『ロム』は己を、『詰まらない存在』だと認識していたと。


 いかに強大な『魔力』を具える魔法使いであろうとも、その『日常』は決して色鮮やかなものではなかった。だからこそ余計にだったと。



 ……彼が歩んできた『道』は、寧ろ『泥』にしか塗れていなかったのだ。

 輝かしい心躍る冒険譚の連続などではなかった。


 変わり映えのあまりない苦しい『日常』と、嘆き続ける日々しか彼は体験してこなかったのである。



「…………」



 ──だからこそ、きっと彼は『理想』にエアを求めたのかもしれない。


 様々な場所に『適応』する事が出来る『力』を持つ彼女の存在は、『光』そのものだったろう。


 色々なものや存在の気持ちを汲み取り、その『力』を扱い、どこまでも駆けていくのだ……。


 無邪気で純白なその『理想の物語』を、自分と同じ『詰まらいもの』にしたくはなかった気持ちが理解はできないだろうか?



 エアには、色々なものを視て感じて、自分とは違って輝いて欲しいと『ロム』は望んだのだ。


 ……だからこそ、例えそれが、喜びに満ちたものでも、怒りでも、悲しみでも、酸いも甘いも、自分が魅せられる全てを見せてやりたかった。



 そして、その上で彼女(エア)らしい『物語』を歩んで行って欲しいと夢想したのだろう……。



「…………」



 『ロム』は不器用で、不愛想だ。

 その『表現』はどこかしらポンコツで、口下手だから話だけでは上手く伝わらないことも沢山あった。

 その表情は微笑むことさえできないから、理想の笑い方さえも満足に『教えて』あげられなかった。


 ……だから、それらが出来ない代わりに、他の方法を取るしかなかったのだ。



 ──つまりは、彼が歩いた『道』、その『道中』で何を感じたのか、その時々にどんな事を想ったのか、それを追体験させることくらいでしか、彼は己を『表現』する術がなかったのである。



「…………」



 彼の歩いた『道』そのものが、彼が彼女に向けた最大級の『表現』だった。


 『喜怒哀楽』の全ては、その道中にこそ全て込められていた。


 『日常』が楽しいばかりではない事。辛い事や悲しい事も沢山ある事。


 そしてそれ以上に、輝かしいものに溢れている事。


 大切なものを大事にして欲しいと思う心。いろんなものに気づいて欲しいという願い。


 様々な色を、様々な音を、興味が惹かれる『表現』を、沢山沢山好きなって欲しいのだと。


 ……大事にして欲しいと。愛して欲しいと。ずっとそう願ってきた。



 不器用にも歩きながら、ずっとずっと語り続けてきた。


 ただただ、歩いていた訳ではなかったのだ。


 ずっと『表現し続けてきた』のである。


 ……言うまでもなく、全然、カッコいい所ばかりではなかっただろう?


 寧ろ、多くの者達には嫌われても仕方ないような情けない姿や、、ポンコツな部分も沢山あっただろう。


 ……だが、それでも尚、彼は己の『表現』できる全てを彼女に見せてあげたかった。


 『愛する者』に、自分の『一から十までを全部』、寧ろ『零』(伸びしろ)までをも見せたのだ。


 それが彼女の糧になればと。



「…………」



 ……好きな相手に、自分のダメな部分まで見せるなんて、実際には中々に出来る事ではないと思う。


 『嫌われてしまうんじゃないか?』と、怖くなかったと言えば嘘にもなるだろう。


 見損なったと、詰まらないと、飽きられてしまう可能性の方がどれだけ高かっただろうか……。




 だがそれでも、彼は歩いたのだ。その全てを彼女へと伝えきった。


 その想いの全てと『力』の全てを、彼女へと届けきった。


 ただただ、『心』を繋げるだけよりも──それはよっぽど深く、深く彼女に多くの『色や音』を、そして様々な『意味』を残せた事だろう。



 その『教え』は残酷にも、彼女の糧となったのだ。



 ……そして、エアも見事に、その全てに『適応』した。


 『ロム』の想いも『力』も全てを受け取って、遂には自らで何かを生み出すまでに至った。


 さぞかし、『ロム』は満足しただろうと、改めてそう想う。



「…………」



 エアと言う存在が、そしてこれから彼女が成し遂げていく様々な変化が、それを見守れることが『ロム』にとってはなによりもの『幸福』となるだろう……。


 『見守る者』は──その『既視感』は達成した気配でいっぱいだった。


 私が感じた、瞬間瞬間の『既視感』は、そんな残滓で包まれていた気がする。



 何度も何度も嘆きを繰り返し、何度も何度も悩み苦しみ、その果てに『理想』を求めた者の『表現』はそれはそれは重たかっただろうに……。理解するのも相当に難しかっただろうに……。


 それなのに、エアもよく頑張ったものだと……。



 彼の『理解者』となれた『エア』はやはり『特別』な存在だったのだと、しみじみと他人事の様に私は思う……。



「…………」



 そして今、そんな『理解者(エア)』は、また一つ彼女にとっても思い出深い『表現』を受け取るために、一歩一歩と『白銀の館』の扉へと近づいていくのであった──。




またのお越しをお待ちしております。

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