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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
758/790

第758話 不親切。



「…………」



 ──結局、私達は『ダンジョン都市』から直ぐに旅立ち、出ていくことに決めた。


 『風竜くんのお母さん』に一目会いたいという当初の目的は望んでいた結果とはならなかった訳だが、その事に関して何らかの情報を更に求めるよりも先に、『風竜くん』は母親の意思が感じ取れる『ダンジョンコア』を抱えながら、『この街を離れたい』と私達に望んだのである。



「がゆー」



 『天動派』の仲間の『ドラゴン』達が隠れ潜んでいる街でもある為、そんな仲間達に接触を図るか、はたまた『ダンジョンコア』に関して何らかの行動をとるのではないかと思っていたが、正直想定外ではあった。



 ……ただ、『風竜くん』としては来る前から『悲しい結末がきっと待っているだろう』と、『心』の一部では覚悟の上でこの場所まで来たのだという。



 そもそも、『お母さんに会いたい!』と父親である『風竜』にいくら願っても長らく叶わなかったその望みは、子供ながらに一つの結末を連想させるには充分ほどの時間があったのだと。



 だからこそ余計に、会いたくなってしまったんだと……。



「…………」



 聞けば、元々各地を逃げ惑い安住の地を求めてきた『天動派』にとっては、その道中で仲間を見捨てなければいけない状況など……もう数え切れないほどにあったらしい。


 だからもう、『風竜くん』にも『友』と呼べる存在は一人も生き残っていないのだと。

 ……だが、そうであっても彼には大きな使命感があったから、『心』は達観せざるを得なかった。



 『みんな、派閥の為、仲間の為に精一杯生きたんだ。そうしてこなければ、この場所までこれなかった。……お母さんも精一杯頑張ったんだよ。だから、泣くわけにはいかないし悲しみたくもない。それに僕には僕のしなければいけない事があるから──』と。



 正直、この街にこれ以上留まっていると何かしらの行動をとりたくはなるだろう……。

 だが、その事で騒ぎを起こしたくはなかったらしいのだ。

 それによって潜伏している仲間たちの邪魔になる事を避けたかったらしい。



 『母親』の意思が宿っているだろう『ダンジョンコア』からも、『仲間を信じて欲しい』と言う思いを感じた為、尚更に彼はその選択をした。



「…………」



 仲間である『ドラゴン達』が何らかの助けを求めている可能性もあるが……。


 『風竜くん』は仲間達を信じると。


 ……無論、考え方は様々あるから、それに対して私達も安直な否定はできなかった。


 寧ろ、『一度、仲間たちの安否を確認してみてから、それからどうするかを決めてもいいんだよ?』と、少しだけ口から出かかりはしたのだが──



「きゅー」



 ──その前に、『水竜ちゃん』が彼を気遣って声をかけたため、私とエアは二人の様子を静かに見守る事にしたのである。



 『水竜ちゃん』が『風竜くん』にかけたのは『一緒に行こう』という……そんな意味合いの一言だった。


 だがしかし、全く同じ境遇とは言えないものの、『親を失う』と痛みを知っている彼女の言葉は『風竜くん』にとっても特別な響きを与えたようで……二人は暫くそのまま見つめ合っていたのである。



 その言葉と視線の中には、お互いでしか感じられない思いがあるようだった。

 『水竜ちゃん』からしても、『風竜くん』には『似た者同士』と言う様な意識が芽生えたのだろうか……。



「……がゆっ」



 そして、例えそれが『同情』に似た思いでしかなく、ただの慰めであったとしても──

 二人の、小さなドラゴン達の『心の距離』がちょっとだけ縮まったのを私達は傍目に感じていた。



 ……無論、それが『風竜くん』にとってはある意味では『望み通り』であり、下心に近しい感情が全く無いとは言えない事も、ちゃんと皆が理解はしていたのだ。



 しかし、その『きっかけ』がどんな形であっても、私は良いと思った。

 ……一切の『歪がない出会い』などないのだからと。

 寧ろ、『歪』がなければ出会う意味もなかっただろうからと。



 『心』が揺れ動くからこそ、私達はそこに是非を問うのだから……。



「…………」


「…………」



 ……すると、不思議な事にその瞬間、二人を見ていた筈の私とエアはいつの間にか互いにの方へと視線を移しており、気づけばお互いの視線が自然と交わっていたのだった。



 全く同じ事を考えていたのかわからないけれども、もしかしたらエアも近しいことを考えていたのだろうか?と思う。



 ──ただ、それを問うまでもなく、彼女は不器用ながらも器用に微笑むと、素早く『聖竜()』を引き寄せて、私の頬へと『ちゅっ』と小さくキスを落としたのだった……。




「…………」



 無論、先の『既視感』も相まってだろう……。

 彼女のその確かな『表現』には、私の『心』もぎゅっとして揺れ動いた……様な気がした。


 そして気づけば私のこの『白銀の身体』は、まるで魔法にかけられたかのようにほんのりと、薄い桃色へと染まるのだった──。



またのお越しをお待ちしております。

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