第757話 不透明。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『全部が大事』だと思っている内は、本当に大事なものに気づけない。
『全部が大事』であるならば、それはある意味で『全てが同じ』に見えていると言う事でもあるのだから……。
ならば、『贔屓をする方が良いのか?』と、『人』は思うだろうか。
優劣をつけ、差別をし、あらゆる分野において上下を決める──。
そうする事の方が、大切なものをより大事に出来ると言うのならば、そうした方が良いのだろうか?と。
『…………』
──だがしかし、それに対する結論としては、『どうでもいい』だ。
……もっと言い換えれば、『好きにすると良い』とも言えるだろう。
『世界』からすれば『全て、世は事も無し』。
……つまりはそう言う事。
要は、『世界』からもその『仕組み』からも、大局的な『視点』としては、『関心がない』のだから。
……全ては雑事だ。
『世界』が大事なのは『世界』だけ。その『仕組み』も全てはその為に在る。
だから、『人』や『魔物』、『ドラゴン』、その他の動植物が何をしようと、何を大事にしようとどうでもいいのだろう。
……それが『世界』の害、またはそれを脅かす脅威の『力』とならなければ──。
『…………』
──ただ、何故この『世界』には『魔力』があるのだろうか?と、そう考えたことはあるだろうか。
全てはその『原初の力』を元として生み出され、全てはそれを元として動いている。
そこには『心』も『身体』も、例外はない。
……極論、全ては色や形などの『性質』が変化しただけの『魔力』だとも言えるのだ。
「──だがしかし、それならば、その『魔力』はいったいどこから生まれたのだ?」
……何故、『世界』に満ちる『魔力』を呼吸し、体内に通す事で、己の『力』に変ずることが出来るのだろう?
その『仕組み』は、『世界の力』を変化させ、『消費』し、余計な者達の『力』を増やす行いだろう?
ある意味では、『世界の魔力総量』は大きく変わらないのかもしれないが、だとしたらその『仕組み』が在る分だけ、変じる事に『力』を使う分だけ、無駄でしかないのではないかと。
だから、そんな余計な事をする以上は……そこには何かしらの意味がなければいけないと考えるのが常道だ。
『人』が在る意味、『魔物』や『ドラゴン』が在る意味、その他の動植物がそこに在る意味が……。
その『存在理由』が、絶対にある筈なのだ……。
『世は全て事も無し』──なら、全てはどうでもいいと?『世界』は『世界』だけが大事だと?
……本当にそうなのだろうか?
いや、違う気がする。
ただ、何かに私達は『気づけていない』だけなのかもしれない。
本当は見るべきものを見ていないだけ……。
見えている様に思っているだけで、その本質を『視点』に捉えきれていないだけ……。
何かしらの『表現』を、理解するだけの『力』が具わっていないだけ──。
『世界』と言う存在の、理解者になれていないだけ、なんじゃないだろうか?
『作り手』には──『表現者』には、その理解者が必要なのに、それを怠っているだけなのでは?と。
「…………」
……だとしたらだ。
もしかすると『魔力』とは、噛み砕けば本質的には『表現する力』だとも言えるのかもしれない。
『絵を描く事』も、『歌を歌う事』も、ある意味では、そんな魔法の一部であると。
『心』でも、『身体』でも、私達は『表現する』事が出来るだろう。
思いを伝える術は一つではないのだと、生まれた時から私達は本能に刻まれている。
泣き出した瞬間から、我々は『表現していた』のだ。
『生を表現する』と言う、その為に『魔力』を使っていた。
……じゃあ、そもそも『魔力』とは、どこから生まれてくるのだろうか?
そして、なんで『世界』は、そんな『表現』の仕方を『仕組み』に組み込んだのだろうか?
「…………」
……正直、前者についてはわからないが、後者については思い至る事がある。
『世界』は、様々な『色』や『音』が欲しかったのだろうと。
その為に、色々な『歪さ』を生み出して、それで自分自身を彩りたかったのだろうと。
まるで着飾るかの様に。化粧を施すかのようにだ。
『世界』も、美しくなりたかったのではないだろうか?
沢山、笑いたかったのではないだろうか?
様々な色や音で、満たされたかったのではないか?と。
だから、そんな多種多様な『力』の使い方を生み出せる方法を取ったのだ。
だからこそ、『人』や『魔物』、『ドラゴン』、他の動植物が、何をしようと、何を大事にしようと、どうでもよかったのだろう。
それら全てが何をかして、その際に生じるだろう『色』や『音』の方が大事だったから……。
「…………」
『視点』が変われば、見えるものも変わるだろう。
一方にとっての『正義』が、他方では『悪』にもなるだろう。
それはある意味で『表現』の仕方が変わるというだけの話だ。
生きているだけで大なり小なり誰もが『魔力』を使っていて、その『力』の使い方が大事だと言う事の証明でもある。
……だからこそ、それに『気づこうとした──世界で最初の天命』──『エフロム』は魔法使いになった。
「…………」
……幼き日の私は、きっとそんな事を考えていた気がしたのだ。
ただ、それは急なものであり、まるで雲を掴むかの様な儚い『既視感』でしかなかった。
現状、『聖竜』たる私は『白銀のエア』や『水竜の子』、そして『ダンジョンコア』を抱える『風竜の子』と一緒に『宿』の一室にいた訳なのだが──。
『ダンジョンコア』に宿った『心』の意味を知り、皆でその悲しさを受け止めている最中に、ふと急にそんな『既視感』が私に宿った事で、一人だけ不思議な気持ちになってしまっていたのだった。
『──なんで今、こんな事を考えたんだろう?』と、正直そんな思いが頭に浮かぶ……。
「…………」
……だが、落ち着きつつ、それに対してもう少しだけ深く考えを巡らせてみると──
知らない間に、私は『何らかのきっかけ』を得たのではないか?とふと思った。
──要は、『命の終わり』とその意味に立ち会う瞬間とは中々にあるものではない。
だから、それの間近で感じる事で新たな知見を得られたのだろうと。
また、その中でも特殊である筈の『ドラゴン』と言う存在が、本質的にはとても『人』と近しい思いを抱いていることが他の『ドラゴン』達と接していく内に新たな『気づき』として経験できたことも大きかった。
正直、己が『ドラゴン』である事以上に、他の『ドラゴン』達の様子を見て学ぶことの方が多い。
此度の事はまさにそれに相応しい機会だったとも思うのである。
──慣れてしまえば、それこそ『生命の終焉』など、それほど珍しい事とはいえず、時に争い合う事も多かろう。
だが、そんな瞬間にもこんな風な『気づき』が一つあるかないかで、未来における歩き方の意味合いも大きく異なってくるのである。
『ドラゴンも人と同じように、泣き笑い悲しむのだな……』と。
その『気づき』は、様々な者達が生きるこの『世界』において、きっと『理解し合う』為に必要となる最初のきっかけであり『変化の種』にもなるのだろう。
「…………」
『『敵』をいつまで『敵』としておくつもりだ?』と。
『争う事以上に出来る事は他にもあるだろう?』と。
そう『何か』に問いかけられた気もした。
……もうそろそろ『理解し合う』必要があるのだと。
『力』は使い方次第なのだから……と。
またのお越しをお待ちしております。




