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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
756/790

第756話 不干渉。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。


(寝込んでから色々とありましたが──更新再開します!遅くなりました!)




 『終わり』と言うのが何を指すのか……その捉え方は様々あると思う。


 ただ、常人からすれば『生命の終焉』を連想させるその言葉は……『私』においてはまた別の意味を持つ──。


 そして、それに一番当てはまる言葉を用意するのであれば、それは『関心を持つか否か』であった……。



 『…………』



 ……そう。だからこそ『私』は『失敗』したのだろう。


 『エア』を『ロム』に育てさせるべきではなかった。


 あの『理想』が『どこから現れたのかも不明』だが、その意味をもっと深く考えるべきであったのだ。



 無論、あれが『ロム』の『理想』を叶える為、歩き続けるに足る目的の一つとなればとも思ったが……。


 本来の目的である所の『ロムならば世界を見守ってくれる──ずっと歩き続けて、色々な姿を見せて楽しませてくれるだろう』というそんな原初の思惑からは、いつの間にか大きく『道』は外れてしまっていて、『私』はその事に気づけていなかったのだから……。



 『…………』



 『大切な者達』の為に、彼は歩くが……。

 その『大切な者達』の中に、『世界』は入っていなかったのだと。



 良くて住処の形態一つという認識だろう。寧ろ、その外壁や大枠としてしか視ていない可能性までもあった。

 『家』としての役割を満たす『領域』ならば、既に『大樹の森』で間に合ってしまう事も大きいのだろう。


 極論、彼の『視点』では『世界』などもう、あっても無くても構わなくなってしまったのだ。


 最低限、『世界が存続していればそれでいい』と、まるでそう言うかのような『ロムの関心の低さ』は、かつてとは大きく異なるものであった。……彼は変わってしまったのだ。



 あんなにも、それこそ千年にも及ぶ時間を、必死に生き続け、足掻き続け、毎夜毎夜嘆き、楽しませてくれた彼の姿は……もうどこにもなかった。『私』が観察してきた彼は、そこには居ないのである……。



 『…………』



 無論、彼との『繋がり』を手放す気はないから、それが途切れる心配はないとはいえ──。

 いつの間にか彼の『関心』が全て『エア』達へと、そちらにばかり注がれる事になってしまったのは本当に盲点だった。



 無意識的に『歩き続ける仕組み』だけが継続されてても、『世界』の事など『エア』達が成長する為だけの『教材』にくらいしか考えていないのならば──『私』にとっては『失敗』だとしか思えないのだ。



 彼がもう、『世界』の美しさに『心』を割いてはくれないのが残念でならない……。



 『…………』



 『エアが喜ぶなら』『エアが笑うなら……』『エアを守れるなら──』と。


 そんな『理想』にばかり『夢』を見て、足下を疎かにする『ロムの歩み』などもう見たくはなかった。


 『世界』に『関心を持てない』存在だなんて……『私』からすれば何の価値もないだろう?



 それに、『大切な者達』の為ならば自分自身さえも捧げて『消費』してしまう彼の行く末など、『私』には簡単に想像もできてしまったから、観察し続ける必要も無くなってしまったのだ。



 簡単に予想が出来てしまう未来になど、なんの面白みもない。

 『エア』達は『ロム』が元に戻る事を信じている様だが──その『妄信』すらも、なんとも愚かでどうしようもないと思える。



 『…………』



 ……この『心』は、まるでそれは物語の終わりを間近に感じた時の切なさにも近しかった。

 飽きることなく見続けられると思っていた、そんな大好きな『絵』や『歌』が途端に詰まらなく感じてしまって、そこから自然と離れてしまう時の様な儚さだ。


 『好物』なものが、そうではなくなってしまった時の様な……百年の愛が冷めるかの様な……。

 そんな『終わり』を感じてしまったのである。



 『…………』



 ……だからまあ、結論を先に述べるとするならば、早い話『私』は──『世界の仕組み』は、『ロム』の『終わり』を視たくがないが故に、先に『終わり』を迎える事にした。



 正直、『私』は『世界』を作った事だけで十分に満足はしていたのだ。



 『世界の仕組み』と言う『心』に残されているのは、『世界が存続する事』に関する想いのみ……。

 ただ、そこに新たな『色』を着けてくれたのが『ロム』であったというだけで、彼の『歪さ』と言う楽しいスパイスを観察し味わい続けていたかっただけの話なのだから……。



 だから、彼がこれ以上『世界』に対してそれを与えてくれなくなるのならば、もうそこまで『人』やその他の雑事に関心を向ける必要もないだろうと判断したのである。



 正直、現状『ドラゴン』と言う『教材』を前に、『白銀のエア』がまた一段と知見を広めたのか……なんらかの成長を遂げたらしいが、それすらもどうでもいい。


 正直、あの『本物の化け物』は忌避する対象だ。

 寧ろ、『私』と言う存在が彼女に見つかる事だけは避けなければいけないだろう。



 『ロム』はとんでもないものを育て上げたものだ。危険すぎる存在だった。

 出来る事ならば消滅させたかったが、『繋がり』もない以上、もう手出しもできない。


 だから、今はあれに気づかれる前に、『世界の仕組み』として完全に徹してしまった方が賢い選択だと思えた。……そうすれば、『世界』の一部であり続ける限り気づかれる心配もないのだ。



 ……あれは、その気になれば『世界を壊す者』に至る可能性が高いから、これ以上の介入は控えるべきだろう。



 『ロム』を守るためならば、あれは『敵』ならば何でも全て消し去る様な存在になってしまった。

 だから、居もしない『敵』の存在を誤認させ、警戒させておくだけにして止めておいた方が良い。

 『私』は逃げる。


 逃げるが勝ちだ……。



 『…………』



 ……それに、そもそも『私』があれと直接戦う必要はないだろう。


 何故なら、あれはいずれ己で滅びの『道』へと向かうだろうから……。



 愛する者を守る為、己の全てを『消費』し続ける『ロム』と言う存在は、ある意味で彼女にとっては『天敵』そのものだ。


 『寿命に導かれ、年老いていく親の小さくなる背中』の様に、その衰えを感じるだけで、『エア』は己の存在意義と戦い続ける事になる……。



 『ロム』を殺める事になるのは他の誰でもない……『エア』自身なのだと……。

 彼を守りたい彼女こそが、彼を最も傷つける事が出来るのだと。



 『ロムの力』は導きのまま『消費』されていき、その『力』は『エアの力』へと変化していく……。そしてその分だけ、『ロム』は弱っていくのだ……。その苦悩はさぞかし深かろう……。



 その様子はまるで『エアがロムを喰らいつくそうとしている』かのようでもあり──。

 その『歪さ』は、ある意味では『遺産』にも通じる概念となるのだから……。



 『ロム』の想いや、その『心』を、当然の様に『エア』は止める術を持たない。

 それは彼女にとっては『大切なもの』の一つだから……。


 ただ、『ロム』が自分の為に何かをしてくれることが当たり前になり過ぎていて、その『特別』の意味を考えられていないのだ……。


 日常的に『親の愛』を純粋に受け止め続けてきた『子』には、その『教え』は──その『心』は、きっと『残酷』なものとなるだろうと。



 『…………』



 それに、『ロム』ももう、そろそろ『終わり』を迎える筈だ。

 彼は自分自身に全くと言っていいほど『関心がない』……。

 だから、どんな形態になろうとも、その『心』が『エア』達の傍に在ればいいと、それだけを想っている……。



 『ずっと一緒に居る』と言う──そんな『永遠の願い』すらも、『不変』とは同義ではない……。


 『変化を促し続ける』存在は、今日もまた歩き続けるのみであり、その歩き方さえももう誰かに託す事しかできなくなった。



 そして、『適応する者』はそんな歩みを止める事もなく、彼が魅せる『まやかし』を受け入れて乗り越えていくだけなのだ……。



 ──だから、彼女がもしも本当に、『ロム』を想うならば、『エア』はいずれ選択せねばならないだろう。


 ……彼の『理想』で在り続けるか、否かを。




 『…………』



 ただ、もしもその果てに『世界の仕組み』へと気づき、『私』の元へと深く探りを入れてくるような事態になったら大変だ。



 だからその時の為に、『私』は最後にこんな『囮』となる言葉を、『世界の仕組み』に残しておこうと思う。それはきっと、彼女にとっては最も効くだろうから……。



 まあ、視る者によっては不思議な話に感じるかもしれないが──

 『常に、本当の敵とは、乗り越え倒すべき壁とは、最初から己の『心』の傍にあるのだ』と。



 そして『理想』とは、本質的に一人で成すものではないのだと、彼女達は気づけるだろうか──。



 『…………』



 ──そうして『私』は、『虚』へと深く沈みこみながら一人静かに夢想するのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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