第755話 不出来。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
──早い話をすれば、『ロム』は不器用で、諦めてもいなかったのだ。
『…………』
最初からその『策』を変えるつもりなど微塵もなかった。
──『世界の仕組み』(『私』)に関しても恐らくは気づいていたのかもしれない。
ただ、本質的に己の『力』が周囲に被害を及ぼさない事と、『エア』や『大樹の森』に生きる『大切な者達』がこの先も笑って暮らせるならば何でも良かったのだ。
『敵』がなんだろうが、『ロム』は見向きもしていなかったのである。どうでもよかったのだろう。『ロム』はその歩みを止める事をしなかった。
……要は、『力』を『消費』し続ける事を止めるつもりは微塵もなかったのだ。
それが一番あからさまだったのは、『世界の支配者』に至らんと『魔術師達の成れの果て』に対して『陣取り合戦』をしていた時の事だ。
『世界の裏側』で今まさに『勇者一行と魔物達』の戦いが激化していこうとするその最中──。
『私』を含め、皆の意識がそちらに向こうかというその一瞬の隙を使って『ロム』は動き始めた。
『──なぜに今っ!?そんな事をっ?』と思う様な絶妙なタイミングだった。
……正直、意表を突かれた事は確かである。
『…………』
まあ、あれのせいで『私』が『干渉』して止めようとする間もなく──
気づいた瞬間にはもう、『ロム』は己の『力』を消費し尽くし『聖竜』へと至っていただから……その手際はなんとも見事ではあったとは言えるだろう。
そうまでして逃げたかったのかと。『終わり』たかったのかと。
その行動はまるで、『お前の好きにはさせない』と、そう言われたかのような感覚でもあった。
その『心』以外のほぼほぼ全てを使い──あのなんとも詰まらない『日常』の一瞬に、全て賭けたのだから……あの行動には、『ロム』の思惑が全て込められていたのだと思う。
そもそも『理想』の『繋がり』を『世界』から切り離した事もそうだ……。
『ロム』は己が何らかの『異変』に在る事を察していたのだろう。
そしてその上で、『対処法』をずっと模索し『準備していた』のだと分かる。
『…………』
……ただ、『ロム』にとっての想定外は二つあったのだ。
一つは、『聖竜』に姿を変えたくらいでは『世界の仕組み』(『私』)の影響は途切れないと言う事……。
そもそも、囮たる『呪術師達の成れの果て』に対してならば、あれでも効果があったかもしれないが、『世界の仕組み』たる『私』の『干渉』はあれくらいでは防げはしないし解けもしなかったのである。
『ロム……お前をあれくらいで逃がしはしない』と。
『お前は『歩み』を止めてはいけない。お前は延々に『歪』であり続けるのだ……』と。
そう言って『私』は笑みを浮かべたくなった。
その言葉に慟哭する彼の様を想像するだけで……込みあがってくる想いがある。
『まあ、その努力は認めるし、少々驚きはしたがな……』と。
そんな風にも思いながら、ホッとしていたのかもしれない……。
『…………』
ただ、皮肉なのはなんと言っても二つ目の想定外だった。
『理想をあそこまで大泣きさせてしまうとは……』と、『ロム』も思いもしていなかったのだろう。
本来ならば、そのまま『意識状態』として役割に徹するつもりだったのかもしれないが──
『ロム』は自らの存在がどれだけ『エア』達に必要とされているかの認識が全く足りていなかったのである。
そして不器用にも、激情に苦しむ『エア』をそのまま残していくこともできなかったのだ。
その様はなんとも悩まし気であった。
その後の、愛する『エア』達の為『歪な竜』となり、自らの『力』を減じる事で脅威度を下げて戻ってきた事も涙ぐましくすらある……。
『……もしもの時、私が敵に回っても、エア達ならば簡単に倒せるだろう』と、そう思ったのだろうか?
その姿がどうして『バウ』と呼ばれるドラゴンの姿でなくてはいけなかったのか……そこまでは『私』も分からぬが、たまたま見覚えのある『絵』が認識に残っていたのかもしれない。
──結局、『聖竜』に至ったとは言っても、『ロム』である事に変わりはないと『私』はそう思っていた。また無駄な事をしたなと。その『歪さ』が好ましくすらあったのだ。
これもまた、彼の『歩み』の一つであり、中々に面白みのある『催し』であるとすら思った……。
『…………』
……だがしかし、遅まきながら『私』は、それが自らの『失敗』である事を悟ったのである──。
またのお越しをお待ちしております。
(ここ数日、寝込んでます。もうしわけない)




