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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第753話 没分暁。

『──今回は、『世界の仕組み』に隠された『最古のフレーバーテキストの一篇』の様なものだとお思いくださると幸いです。区切りの関係で次話はこの続きから……(予定)』


注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『私』に視える『世界』とは、『私』だけのものだ──。


 誰に否定されることもない『歪』なものだが、それでも『私』にとっては唯一無二のもの……。


 そして、それは決して他者から『間違いだ』と決めつけられる様なものではなく、『別の道』があるというだけの話──それが見た目ではちょっとだけ曲がりくねっている様にも視えるかもしれないという……ただそれだけの話なのである。



 『…………』



 ──だから、いずれ『自分を殺める事になるかもしれない相手』に、その方法を『教える』事もまた、ある意味では『歪』ではあるが、それに『相応しき理由』があれば、間違いではないと思うのだ……。



 寧ろ、その行いは自然ですらあり、『相応しき理由(目的)』の為に手段を選ばないのであれば、どんなものでも使うと決めているのであれば、『自分自身』という材料を使い、何か結果を編み出す事は至極当たり前の話だと思うのである。



 ……ある意味で、大なり小なり誰もがそんな生き方をしているとも言えるだろう。

 『日常』とは、そんな『自分自身』を消費し続ける行為の一種であるとも言えるのだから……。



 それが如何なる『力』の種類──『暴力』であろうと、『財力』であろうと、『権力』であろうと、『知力』であろうと、そこに大した差異などない。



 目的のために『教え』を広げた結果として、何かが生まれたとしても……その先に消費に見合うものがあると、『繋がっている』と思うならば……それは求めるべきなのだと。



 『歪』である事は必ずしも『不幸』ではないのだから──。



 『…………』



 逆に、『野生に生きる』者達はずっと、ただただ延々と、そんな馬鹿の一つ覚えの様な『日常』を繰り返すのみである。



 『終わり』を知っていても……そこからは目を逸らすだけ……。

 『まやかし』に誤魔化されるだけで、愚かに生き続ける事が、それこそが己の求めるものであると誤認し続けている。



 ──要は、『歪』を肯定しようと、妄信し続けていくのだ……。



 『子』や孫、その先に生まれいずるかもしれない者達の為に何かを残し、自らは追い抜かれ、朽ち果てていくこともまた自然の秩序であると──それを無意識的に受け入れてしまう存在達が、その愚かさに気づく事がない様に……。



 『終わり』までの時間を、ただひたすらに自らの満足の為、その『心』を満たすだけの為に使うと決めて諦念してしまった者達も……。



 誰かが定めただけの『教え』を正道とし、『模倣』するだけの詰まらぬ者達も……である。



 『…………』



 ──所詮は『教え』など、目的の為の『世界の仕組み』でしかなく、この『世界』に撒かれた『変化の種』でしかないのに……。



 『歪』を繰り返し、これまでになかった何かを見つける為の『巡らす力』でしかないのにだ。


 それ以外の『使い方』が出来る訳もない。それ以外の価値などない。


 『私』は……そう思っていたのだ。




 『…………』



 ……無論、その『力』の全ては『天』が、『世界』が、存在する為にある。


 よって、『地』にある存在達はうず高く『夢』を築き、『世界』を変化させ続けるのだ……。



 そこに『成否』などは一切関係ない。

 目的があるだけだ。


 『世界』の為にそれを成そうというこの『心』だけが『仕組み』として残っている。

 ……いや、既に『私』はもう、その『仕組み』そのものなのかもしれない。



 それを初めて願った『作り手』であり、『世界』を生み出して『心』を満足させてしまっただけの愚者でもある。



 自らの『模倣者』を生み出す事しか出来ず、その『子孫』達に後を任せる事しか出来なかった野放図だ。身勝手な半端者だと言い換えてもいい。



 『…………』



 だが、『私』はそれでいいと思った。


 元々は作る事だけが目的だったのだから、作り終えた後の事などどうでもいいのだと……。


 そう思っていた……。


 しかし、『私』はあれを──『ロム』を見つけてしまったのである……。




 『…………』



 無論、言うまでもなく『私』が見つけた時から、『ロム』は酷く不愛想であった。


 ……でも、それは決して感情がないという訳ではなかったのである。


 寧ろ、『表面を失くしただけ』で、その『心』の中にはちゃんとした想いが残っていた。



 ──だがしかし、それを考えてみると、同時にそれがとても『歪』な事であると『私』は一目で気づいてしまったのだ。



 『…………』



 ……だって、そうは思わないか?


 感情があるのに、その感情を表現する(すべ)がないらしいが……。


 その為の『力』が欠けてしまっているのだとしたら、そもそも感情すらも欠けてしまっていてもおかしくはない筈だろう?



 それなのに何故、『ロムには感情が残っているのだろうか?』と──


 『私』にはそこが不思議でならなかった。



 ──もしもその状態で『感情がある』というならば、それはつまり『表現する(すべ)もどこかに残っていなければおかしいのではないか?』と。



 『私』は、そう思ったのだ。



 『…………』



 ……もっと言えば、その『繋がり』はずっと続いていて、今尚『ロムの感情はどこかで表現され続けている』状態であるとしたらと。



 要は、別の場所で使っているからこそ『ロム自身の表現する力』は本人が使えない状態になってしまっているだけなのではないかと。




 そうして、観察し続けていく内に、『エフロム』は精霊を助けたいと、その境遇から救いたいと、ただ一人強い想いを抱いて歩き出した最初の存在だった事を知った。



 『誰も気づけないならば、気づけた私一人だけでも助けに行きたいのだ』と。



 そして、そんな彼らを助ける為『力』を鍛え、蓄え、その『力』を分け与える為の手法の一つとして、己の『表現する力』までをも使用したのだと知った。



 誰にも気づかれることなく、一方的に搾取され、傷つき悲しむばかりであった『精霊達』を笑わせてあげたいと思ったそうだ。



 だから、そんな彼らが代わりに喜んでくれるならばと、怒れるようにもなれたらいいと、時には哀しんで、その分いっぱい楽しんでくれるならもっと素敵だろうなと。



 『エフロム』は精霊達に感情を分け与える魔法を使い、その扱い方を教えてしまった。



 ……本人はそれを『分け合った』だけで、未だそこにちゃんと残っているのだから、『消費した訳でもない』と思っている様子なのだ。


 『勿論これは自己犠牲などではなく、支え合っているだけ、助け合っているだけなのだ』と。

 『自分の分もみんなが笑っていると、自分も嬉しいのだから』と。



 そんな愚かな願いがその主軸にはあった。



 『…………』



 正直、愚かが過ぎるとは思った。馬鹿が過ぎると。不器用が過ぎると。


 ……ただ、その際に『私』は、その考え方があまりにも興味深くて、彼を観察する事を続けたいとも思ってしまったのだ。


 彼をより深く知りたいと、そのせいで『世界』との『繋がり』も無意識的に一番深めてしまったのかもしれない。



 そして、その時からだろうか、『世界』の影響下から彼が抜け出せなくなり、泥にまみれる姿をよく見る様になったのだ。



 ──同時に、その時から『世界の仕組み』(『私』)は『エフロム』と言う存在に目を付け、きっともう離したくなくなったのだと思う。



 『…………』



 『白銀』と言う形容がこれほどまでに似合う存在を、『私』は視たことがなかった。


 麗美でありながら、それと相反する様にどうしようもなく不器用であるその姿が……なんともいえない『歪さ』で気に入ってしまったのだ。



 魔力の変化に気づきやすい、『人』には感じられないものを見つけやすい『天命』という種族に生まれながら……その『力』の使い方に最も適している筈なのに、最も上手く使いこなせていない彼が酷く滑稽でもあった。



 ──だが、たった一つの目的の為に、『歩き続ける姿』がどうにも美しかったのである……。



 数多の過ちや後悔を重ねて、世闇の中で彼は幾度慟哭した事だろうか……。

 それなのに『世界』を嫌う事も無く、いつもその美しさに捕らわれるかのように、彼は只管に歩き続けていた……。



 そんな彼を、自然と『私』は微笑ましく想ってしまったのだろう。



 『…………』



 『天命』という役割を具えた『白銀のエルフ』は、その時から『世界』に『変化を促す存在』として相応しいと思った。



 『──たった一人でも、お前ならば歩き続けられるよな?』と。


 『どうか常しえに歩き続けてくれ。その姿を『世界』の中で延々と見続けていたんだ』と。


 『……生き続けろ』と。



 ……そう願った。



 そして、そんな狂ったような一念に突き動かされるかの様に……『ロム』はちゃんと応えて、歩き続けてくれたのだ。



 『…………』



 ──だがしかし後々になって、『私』は失念していた事を知った。


 ……『ロム』は酷く不器用であった事を。


 そして、それが思わぬ影響を与えていた事にも。


 寧ろ、歩き続けていく内に『ロム』があれほど『消耗』するとは思ってもみなかったとも言えるだろう。



 彼は『ただ歩く事さえも、不器用だった』のだから……。



 彼の『表現する力』がそうだったように……。

 彼は次第に己の大事な何かを『消費』していくようになっていった。


 そしてその度に少しずつ少しずつ、壊れていっている様にも視えたのである。



 只管に『力』を生み出し、蓄え、使用し、『歪』である存在──その為の『教え』をまき散らし続けるだけの存在は……いつからだったか『終わり』を望み始めていたのだ。



 寧ろそれは、気づけぬはずの『私』と言う存在に気づいたから、とでも言うのだろうか?

 『私』との『繋がり』を切る為に?……いや、なんにしても、最初からその兆しがずっとあったと言う事ではあるのだろう──。



 『…………』




 ──だがしかし、なんにしろ当然『私』はそんな勝手を許したくはなかったので……『ロムの限界』を超え、代わりにその『教え』を『世界』に齎せる存在を見つけられるようにと、一つの『仕組み』を彼には残すことにしたのだ。



 彼の『理想』を叶えられるようにと……。




またのお越しをお待ちしております。

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