第751話 怺。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
私達に『干渉』してきたであろう『黒幕』の『音』──その痕跡を追って『ダンジョン』へと足を運んだ先、エアは『ダンジョンコア』を見つけてきたらしい。
その際、そこで何があったのかはわからないが……帰ってきたエアはすこし複雑な表情をとると『風竜くんのお母さんの意思』もそこには宿っているのではないかと、続けて私達にそう問いかけて来たのだった──。
『…………』
『黒幕』たる存在を感じ、その対処をするために一旦『街』を散策してみる事にしたらしいエアは、当初散歩がてら軽く偵察するつもりだけだったらしい。
だが、そうしていざ一人で『敵地』だと思われる場所に赴いてみると──そこには『呪術師達の成れの果て』と同等の危うさを感じる『ダンジョン』を発見したそうなのだが……その場所はこれまたエアにとっては見覚えのある場所で、『お散歩』にとても適している様な『ダンジョン』で思わず入ってしまったのだという。
無論、その行動はとても危ういものであり、エア自身もそれを自覚はしていたらしい。
本来ならば私達に一回相談してから入ってもよかった筈だったと。
……でも、半ば感情的になってしまい、気づけば一人で踏み出してしまったそうだ。
それに、もしもの事を考えれば敵の干渉を受けないエア一人の方が状況的には良い場合も有る為、一概に否定もできないだろうと私も思った。
……寧ろ、行動の成否は結果論でしか語れないと。
『…………』
そして、エアはその結果として無傷のまま『ダンジョンコア』を手に戻ってきたのだから、その選択は良かったとも言える。
それに、大事なのはその先であり、エアが疑問に抱いた通り『風竜くんの母親の意思』がその『赤い石』の中に在るのかどうかだろうと。
本来、事前の話では『救世主の側近』として『街』の要人たる立ち位置にいる人物……という話だった筈なのに、『それが何故?どうしてダンジョンコアに?』と。
実際、『風竜くん』にとってもその『ダンジョンコア』がなんなのかは甚く気にかかるだろうと──
「……がゆー」
『…………』
──だがしかし、そうしたらエアから真意を訊ねられた『風竜くん』は、まるで『……そんな気はしていたんだ』と言わんが如き声を出すと、エアから手渡された『赤い石』をぎゅっと抱きしめたのだった。
長らく会えて居なかった『大切な存在』が……もしも変わり果てていたとしたら……。
それこそ、もっと取り乱してもおかしくはない筈なのに……。
『風竜くん』はその理由までをも察していたというのか、まるで全てを理解した上で抱える思いの全てをかみしめるかのように……届かぬ思いを我慢し続けているかの様に視えたのだった……。
『…………』
『耐える』という事は言うほど珍しいことではない……とは思う。
だが、そんな決して容易い事でもないのだ……。
それも、そんな悲しみを押し込めるかのような我慢を、幼い頃から何度も何度も、こんなにも切なく『強要される生き方』をせざるを得なかった子とは、視ていて言葉にならない程に悲しく在ると感じた……。
『この子達がこんな思いを抱かねばならなかった選択』をしたのはいったい誰のせいだろうかと。
それも、そんな『教え』を勝手に背負わせるだけ背負わせて、勝手に去っていこうとする存在は──あまりにも……。
『…………』
『ドラゴン達』の中で──もっと言えば彼らの『派閥』の中で、この子達ほど『我慢』をしている存在は他にも居るのだろうか……。
そんな彼らの『教え』に従い、こうして悲しむ者達の気持ちを、彼ら『指導者』的な存在達は理解しているのだろうか……。
『君達の守りたいものはなんなのだろうか』と。
『居場所だけを守れても、そこに住む者達は笑顔になれるだろうか』と……。
そんな思いが自然と『心』に溢れそうになる。
『…………』
その光景には『聖竜』としても、色々な意味で酷く胸の痛む思いであった……。
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