第750話 天然。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『…………』
──『心』は目に見えない。
それは常に変化し続けるものであり、同じものが二つとない大切なもの……。
だが、もしもその『作り手』が居たとして、その『心』に似せたもう一つの『心』を生み出したとしたら──果たしてそれは、同じ『心』だと言えるのだろうか?
『…………』
……因みにだが、『聖竜』たる私はそれを同じだとは思えなかった。
いや、実際私自身が『ロム』であるという『心』をあまり持てていなかったからこそ、そう思うのかもしれないが……感覚的には異なるものだという認識が真っ先に浮かんでしまう。
同じ様に作られた二つ目の『心』は、似た様に見えてもきっと別物なのだろうなと。
それはただ似ている様に視えるだけで──実際は『模倣』された存在でしかないのだと。
『…………』
ただ、間違えてはいけないのが、その『模倣』された『心』にも在り方があると言う事。
そして、そこには『記憶』が深く関わってくるのだと。
言わば、その二つの『心』の違いとは、『教え』の有無にも近しいのである──。
『作り手』に望まれ、生まれ出でて、別のものを見て感じて、物心を知った瞬間から──
その『心』はもう、その存在だけの『大切なもの』に違いないのだと。
そして、その『心』には、個々の色が──『自分の色』が混じっている事も分かる筈だ。
その『差異』が明確に見えないから『曖昧』に感じてしまうかもしれないが──
『無色透明』でない限り、気づかないだけでそこには確かに異なる隔てりが存在するのだと……。
『…………』
もしくは『作り手』としても、『そうなる様に作りたかったから』こそ、そんな『仕組み』を残したのかもしれない……。
『全てが自分の思い通りになる』と言うのはある意味で『不変』でしかないから……。
『世界』の在り様から考えれば、その『仕組みの歪さ』からも──『変化』が望まれている様にしか思えなかった……。
──要は、『作り手』は『変化を求めている』のだと……。
言い換えれば、『模倣』するだけで同じ『心』に至らないのも、その『仕組み』のせいであろうと。
そして……その『変化』の先にある『何か』を欲している様にも感じたのだ──。
それこそがきっと『心』の正体であり、本質であり、『原初』でもあるのだと……。
『…………』
無論、そんな『変化』があったからこそ、きっと『美しいもの』との出会いもあるのだろう。
何も感じない『不変の心』ではきっと、繊細な『思い』は揺れ動かない……。
『運命』とも呼べるほどの『心』の輝きを感じるのも、『日常』が喜怒哀楽に謳うのも……。
『命』を損なってでも守りたいと思う『大切なもの』が『心』以外にも増えていくのも……。
きっとその『変化』があったからこそだと……。
『──君は何が欲しい?どう変わりたい?どこまで歩いて行こうか?』と。
『世界の仕組み』の一つには、そんな成長を促す術が残されているのだと思う……。
それこそが『作り手』の『教え』であり、『誰しもに具わるもの』。
言わば、『世界』に存在するものには全て、そんな『力』が宿っているのだと……。
──そして、それは実を宿す瞬間を待ち望んでいるのである。
『…………』
『力』は『使い方次第で如何様にも変化するし、使い方次第で色々な損失をも生む』。
そして『人』に限らず、『ドラゴン』や他の生き物においてもそれは言える話であり──
『呪術師達の成れの果て』は陰に生き、『人との繋がり』の中でその『夢』を見た。
対して、『秘跡の成れの果て』たる『ダンジョン』は陽に生きたのだろう。
その『夢』は多種多様な生き物達を包む坩堝でもあり──普く存在を照らす『淀み』の光そのものでもある。
そしてその『思い』はやがて一つに集い……一つの『意思』へと変化するのだろう。
『ダンジョンコア』──そう呼ばれた結晶は、その最たるものの一つである。
「……『風竜くん』達を呼んでいたのは、この『意思』かな?」
そして、『ダンジョンに関する問題ならば任せて欲しい!』と──私達を半日ばかり『宿』でお留守番させた『白銀のエア』は、どこかでその『怪しげに光る赤い石』を手に入れて帰ると、そう問いかけてきたのであった……。
またのお越しをお待ちしております。




