第75話 専。
修正、王→権力者。(この街に王、居ませんでした;)
目的の街まで歩き続けて、一か月と少し経つだろうか。
漸く明日には目的地が見えてくるだろうというぐらいまで私達は近付いていた。
この一月の間、私達は大きな街道を通らず、人通りのない森や山などを通ってここまでやって来た。その方がエアにとっても経験になるだろうと思っての行動であったが、大樹の森で生活してきたエアとっては何の問題もなかったらしく、夜営も問題なく熟し、私達はのんびりと普通に旅を楽しくしている。
ただ、夜の間は基本的に魔力を使っての察知を継続して行うようにとエアに教えた。以前にも視覚に頼らずに魔法を使う練習をしたが、その復習でもある。
エアはまだ寝ている間に効果が切れてしまうみたいだが、それも慣れて来れば呼吸をするのと同じく自然とこなせる様になって来るだろう。
更に『天元』に魔素を通すのも最近では私が渡した『精霊人形隊』を使わなくても各種属性を通すことができる様になってきた。
一緒に旅をしていると分かる事だが、今のエアの集中力は普段よりも高く、やる気に漲っていることが隣でひしひしと伝わって来る。ワクワクが止まらないのだそうだ。
また旅の先々で出会ったその土地の精霊達と挨拶をして交流を深めながら、弱った綿毛状の精霊達を見つけると魔力で回復して回った。
そんなこんなで、結果的には予定よりも少しだけ時間はかかってしまったが、それももう明日には目的地である。
初めて通る道ではあったが、深い森の中でも迷わずに済み、方向をその都度教えてくれた精霊達には私は心から感謝を告げた。周囲の精霊達に尋ねればすぐに教えてくれる、精霊が居ない場合でも私とエアなら空を飛んでいけるので、気分的にはここも私達にとっては自分達の庭の様に感じる程に心地が良かった。
「──亜人?」
毎日浄化の魔法を使っているので、一月の間森や険しい道々を彷徨ってきたとは思えない程に私達は綺麗なまま、今は街の外門へと続く長い列へと並んでいる。
そして、その並んでいる間に、私はこの街の事について少しだけ知っている事をエアへと話し始めた。
「そうだ。この国は、人の数が多く基本的には人を基準にして国を運営している。なのでそれ以外の人に似た種族の事を亜人として呼ぶことも多い。昔と今が一緒かは正直分からないが、そう呼ばれる事もあるから、その時は驚かないで欲しい」
「へーっ……私も亜人?ロムも?」
「ああ」
「えへっ、いっしょだね」
「そうだな」
列に並ぶ周囲の人達からは『変な"白石"の亜人達だな』とどこか侮蔑した視線が感じられるが、エアはそんな些細な事には気が付かずに笑っている。どうやら私達が一緒であることが嬉しいらしい。……実は私も、何気に別の理由も込みで嬉しかったりする。
そもそもこの亜人という言葉は、この国では悪い意味では使っていない。
この国の王族は亜人の血が濃い者と人とのハーフの系譜だという話なので、悪い意味で使う者はそのまま王族を批判するようなものなのである。……つまり公に言えばプチュンである。
また、人の数が多く、国の運営では人を基準として考えているのもちゃんとした理由があり、色々と内部ではゴタゴタと面倒な事も多いらしいのだけれど、冒険者として暮らす分だけなら、決して悪くないと私は知っていた。
「……なあ、すまないが入る前に一つ聞きたい。この街はずっと変わらないか?」
「ん……ああ、変わんないね。変な街だよここは。潤ってるから私達商人には過ごし易いし、問題はないんだけどね。時々不思議な感じがしてくる」
「そうか。ありがとう」
「いえいえ、そちら『白石』さんかい。もう少しランクをあげたら是非ともうちもご贔屓にしてくれよ。店は──」
私は後ろに並んでいた商人に少しだけ話を聞き、今のこの街の状況を軽く探ってみた。
どうやら変化はないらしい。列に並んだ時から確信はしていたが、これなら恐らくは問題ないだろう。
"亜人"という呼び方をする事から、この街には差別があるんじゃないだろうか、と思うかもしれない。
……だが、ここではそれは殆どない。
それは何故かというと、ここはそんな"小さな問題"に拘っている暇が一切無い上に、もっと"大きな枠組み"で街の者達が繋がっているからである。
詳しく言うと、つまりはこの街は四方をダンジョンに囲まれていて、いつそこから淀みが溢れてくるか分からない状況となっており、『石持』という共通の敵が居る以上、人と亜人で争っている暇がないのである。
尚且つ、そんなくだらない争いに力を使う位なら、ダンジョンで使った方が儲けも手に出来るし、人の役に立って尊敬されるしで、どちらが良いかなども考えるまでも無いのであった。
……もちろん、中には"人至上主義"やその逆だとかの考えを持っている者がいるかもしれないけれど、その数はかなり少ない。
何よりもここは『冒険者発祥の地』でもあり、その特色を極めて分かり易く言えば、この街にいる住人達は『権力者から貧民に至るまで、全ての者達が冒険者』をやっている街なのであった。
商人達でさえも皆冒険者の資格はもっており、ダンジョンを中心に回っているこの街では、冒険者の横の繋がりという仲間意識を中心に人々は協力し合っている。
それによって当然、この街では口だけの半端者はいらない。頭でっかちで甘い考えの者はダンジョン直ぐに放り込まれる。
何よりも冒険者の心得こそが、この街の大前提となる絶対的な不変の法なのであった。
……では、何故わざわざ人や亜人と分けて呼ぶ必要があるのかと問われれば、各種施設が種族毎によって違うからである。
角や耳、尻尾、そもそもの体つきからして亜人達は様々な違いがあり、装備品一つとっても人みたいに同一規格が使いまわせるような場面が亜人達には殆どない。亜人専門店は必然的にその殆どがオーダーメイドとなるのであった。
日常的に着る服や靴、ブラシ、薬、生理用品、肌質に合った石鹸、食事、飲み物……etc。
種族毎に微妙な差があるそれらの違いを挙げれば、枚挙に暇がないのだ
なら亜人に優遇されている街なのかと問われれば、必ずしもそうであるわけでもなく、とてもいいバランスでこの街は成り立っていた。
──まあ、強いて言うならば、この街は冒険者達を優遇してくれる街、なのである。
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