第749話 利器。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「……あれっ、ロム達の『干渉』が切れた?なら、これは一時的なもの?……だとしたら、あまり『根』は深くないのかな」
突然歌を歌い出した事には驚きはしたものの……エアによって作り出された『疑似空間』はとても綺麗で、とても居心地が良かった。
同時に、それによって『世界』から一瞬『繋がりが解ける』感覚もあり、その瞬間に頭がスーッと明瞭になっていくのも感じたのだ。……今は凄く気分が良い。
先ほどまでは何となく『使命感』の様な焦りを感じていた感覚だったが……それがないのだ。
傍にいる『風竜くん』と『水竜ちゃん』もパチパチと瞬きを繰り返しており、『あれ?なんかおかしいな?』と首を傾げている。
そして、それによってエアも『敵』の『力』の程が知れたのか……歌を止めると今度は何かを考えこみ始めたのだった。
『…………』
ただやはり、エアの懸念していた通り何かしらの『干渉』を私達は受けていたと言う事なのだろうか?
でも、それは『──いつからだろう?』とは思う。
それに、『世界の管理者』たる『聖竜』までがその『干渉』を受けてしまうというのは……どうしてだろう?私は何かに夢でも見せられていたとでも言うのだろうか。
「……ロム、これもきっと『世界の仕組み』のせいなんだと思う。魔力に関する部分はロムが管理しているけど手出しができない『仕組み』はそのまま残してあったでしょ?……確か『無理のない範囲』でやろうって決めた時、大変だからって手出しを控えた部分があったと思う。だから今回はそこが抜け道になったんだと思うんだ」
……すると、私が不思議がっているのを見抜いたらしくエアは私にそういった。
そして、『世界との繋がり』によって私がどんな影響を受けているのかを示唆してくれたのだが、その話を聞いて確かに、『なるほど』と私も思い至ったのである。
現状、この『世界』に満ちている魔力はその殆どが私が生み出したものであり、調整したものではある。なので、本来ならばそこに何かしらの介入をされたら直ぐに気づけるはず……なのだが、『世界の仕組み』に関しては全てに手を回すことが出来なかったので、一部『既存の仕組み』を流用していた為、エアはそこに『根』が潜んでいたのだろうと教えてくれたのであった。
『無理のない範囲』で『世界』の管理維持はしていた訳だが、それまであった『既存の仕組み』を私の魔力で補えるように調整し悪影響が出ないようにと弄っただけで、その『仕組み』は全てを理解できていたとは言えないからだろうと。
『…………』
……寧ろ、膨大な時間をかけても、私にはそれが精一杯だったのだ。
逆に、『世界』の細部までを知ろうとし全てを運営しようと思えば……今ここでこうしては居られなかった。
それこそ『意識状態』のまま、あの役割に徹し続ける以外になかったのである……。
──だがしかし、当然の様に私はそれを避けた。
寧ろあの時以上に、今はそれを『嫌だな』と思っている。
この『心』は彼女の傍に在りたいと、ただそれだけを強く願うからだ。
『…………』
なので、『世界の仕組み』……もっと言えば、『淀み』などを用いて勝手に生み出される魔物(『神兵』達)の『仕組み』──『世界の自浄作用』であったり、『聖人』が戦いにも用いた奇跡の『力』──『祈りの力』だったりは、完全に私の『管轄外の力』でもある。
よって、それらを介して『根』を張られ、『干渉』されるきっかけ(『抜け道』)になっていたとしたら不思議ではないし察知しようもないと。
……ただ、ある意味でそれは『聖竜』の怠慢だろうと言われればそれまでだが、『無理のない範囲』で管理する事に関してはエアも納得の上の話であり、寧ろそんな『聖竜』の不出来な部分は今回の様に『わたしが支えるから』とエアは微笑んでいた。
だからこそ、『ダンジョン』に関してもエアは『わたしが対処するんだ』と。
それに、その為の方法は全て、『ロム』から教えを授かったからと……。
『…………』
正直、そんなに『厄介な仕組み』ならば(気に入らなければ)その『仕組み』そのものを壊してしまえばいいじゃないかと、そう思うかもしれないが──実際はそうもいかない歯痒さもあった。
……何しろ、『世界の仕組み』と言うのは、言わば誰かの『教え』でもあるから。
『そう望まれたが故の姿』が、その『仕組み』には刻まれているからである。
そしてそれは、ある意味では『魔法』であり、もっと言えば『心』でもあった。
だから、それを『消す』と言う事は……どういうことだか、分かるだろうか。
『命がけ』で生み出されたかもしれないものを、不当に扱う事は……言葉にする以上に残酷なのだと──。
『…………』
『聖竜』にはそう思えてならなかった……。
それが例え『作り手』にとっては取るに足らないものだとしても──もしかしたら『誰か』にとっては、その『仕組み』はかけがえのない『音』になるかもしれないからと。
……いや寧ろ、きっともうその『音』は『誰か』にとって、掛け替えのないものになってしまっているのだろうと──。
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