第747話 風味。
(少々悩みましたが、今回はフレーバー多めに……)
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「──わたし、ずっと勘違いしてたんだね」
『ダンジョン都市』の『宿』の中、エアは三人の幼竜を前にそう語りだした──。
それは私達が『ダンジョンに入りたい』と、『風竜くんの母親を助けに行かなければいけないんだ』と、そう話し出した途端に返された言葉であり──エアはその時の私達の様子から『異変』を感じ取って、何かに思い至ったらしいのである。
そして、その上で彼女は今までの自身の旅を振り返るかのようにこう続けたのだった……。
『もう『敵』なんていないんだと思ってた。──けど、違ったんだね』と。
エア自身も『領域』の『管理者』となり『音の世界』を作った。
それに伴い『世界』の影に隠れ潜んでいた『呪術師』達を導く事ができたから……これでもう自分達を脅かす様な『黒幕』たる存在は居なくなったのだと、そう思い込んでしまっていたらしい──。
「……でも久々に、また聞こえちゃったんだ。あの『音』が。わたしにしか聞こえないあの──『敵』の存在を知らせる『音』。でもそのおかげで気づけた。『そっか』って思ったよ。そういう事だったんだって。……なんでロムがずっと『ドラゴン』の姿をしていたのか、その理由もなんとなくだけど分かった。『黒幕』が別に、他に居たからなんだね。そしてその存在はロムにはどうしようもない相手だった。下手に干渉すればこうして簡単に自分も操られてしまうかもしれないから……」
『聖竜』の状態を視て、エアはそう漏らした……。
そしてどうやら彼女の見えている『世界』においては、私達はまるで『何か』に操られている様に感じているらしい。それ程の『歪』を抱えていると。
同時に、その元凶たる『黒幕』の存在にも『白銀のエア』は気づいたそうだ。
そもそも、エア曰く『ロムもその『黒幕』たる存在に対して、予め幾つかの『策』を用意していたんだ』と。
……そしてその為の『策』の一つが、『ドラゴンになる事』だったのだろうと。
「──きっと、ロムはわたし達を守るためにそうしたんだ。そして、同時にその事に気づける様にと痕跡も残した。その足跡の全ては後を追いかけるわたしの為に……。とても一般的な『導き』とは言えないかもしれないけど、ロムらしい『不器用な方法』で……」
一般的な『親』や『指導者』が取る様な器用な方法ではないが、凄くロムらしい方法だとエアは語った。
曰く、『ロムは言葉だけでは伝えきれない部分を実際にやってみせてくれたんだ』と。
そして、『その上で、自らの失敗も見せ、敢えて解決策も提示し、考える機会を沢山エアに与え続けてくれていたんだろう』と。
『──私はこうしたが、君ならどうする?』と。
それは常にエアに対する問いかけでもあったんだと、エアはようやくそれに気付いたらしい。
……時には不自然にすら、わざとらしさすら感じる程の愚かな行いの数々も──『ロムがしなさそうな行動』も──その全てはエアに対する問いかけの一つであり、『気づける力』を育てる為にあったのだろうと。
そもそも、ロムとの旅はずっとそんな訓練の連続であったから……『もっと早くに気づくべきだった』とエアは言うのである。
「大事なのは……『なぜ、それをする必要があったのか』だったんだね。ロムが『ドラゴン』になった事も、なりたくもない『世界の管理者』になったことにも、記憶も『力』も自ら損なって見せたのも……全ては理由があったから──」
──そして、その要となるのは、ずっと『敵』が居たからなのだと。
……その為の『策』を、ずっとロムは取り続けてきたのだと。
それも、その相手は『ロム』すらも操りかねない厄介な相手で、その相手に対処できる存在は『わたし(エア)』しかいなかったのだと。
そして、その『力』が育つまでは、秘匿する必要もあった。
『天動派』の『風竜』達が、他の派閥の者達から気づかれない様にと『人の街』に紛れたように……。
ロムは敢えて『ドラゴン』に紛れる事にした……。
そして、己の『力』の大部分を切り離し、損なわせることで、もしも自分が操られる事になろうとも、その『力』が『大事な者達(エア達)』に向かない様に。傷つけられる事が無いようにしたのだと。
大事な情報が自分から『敵』に漏れない様にと、『記憶』までをも消して……。
──伝えられる事は既に、全て『追憶の中に』、わたし達の『心』の中に残してくれた……。
「『世界の管理者』になったのも、きっと最後の仕上げだったんだ。……なのに、馬鹿だわたし。そんな事に今更気づいた」
──『世界』の裏側では常に何かしらが起こっている。
けれど、そんな『日常』とは意外と変化の連続ではあるが……その大体は細かな経験の積み重ねであったり、単純な出来事の延長線上にあるものが殆どであると。
……つまりは、言い換えるとそれは『似たような問題の連続』であり、『教訓』を得ておけば以外に対処も楽になるのだと。
「『教えられる事はもう全て伝えきった』からした事だったんだね。今回の事だって、ここまであからさまなら流石にもうわたしにだって簡単に気づける。変だって直ぐにわかった……けど、これが初めてだったら全く気づかなかったかもしれない。そして、その事を忘れてしまわない様にと促すために最後に『あの絵』があるこの場所へ導いて……もしかしたら、彼の姿を一目でもわたしに見せたのも──」
『一意専心』──あの頃の『心』をいつまでも忘れないで欲しいと……。
そして『あとは任せる』と──。
そんな風に『ロム』が想っているだろう事にエアは気づいたそうだ……。
同時に、反省もしていた……。
『…………』
遠回りを沢山してきて……その分沢山歩いてきて……。
けれど、最終的に辿り着いたのは『原初』であり、少なくともどんなに『力』を具えようとも、その道(『心』)は違える事はしてはいけないんだと理解したらしい。
私達は今尚『ただの魔法使いで、冒険者で、それ以上でもそれ以下でもないんだ』と。
そんな『ロム』の懐かしい声が、エアの頭の中にははっきりと思い返されたそうだ……。
そして彼女はそう語った後に、私達三人に対し不愛想な表情のままで器用にも微笑むとこう続けたのである──。
「──それじゃあ、今回の事の対処法について、今から話をしようかっ」と……。
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