第744話 風雲。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
その『絵』は、白銀の男性のエルフが、鬼の女性を背負って微笑んでいる──言葉にすれば、ただ、それだけの『絵』であった。
そしてきっと、本来ならばその『絵』はそれだけで……。
その二人だけで完成していたのだと思う……。
『…………』
……だが、いつからかその傍には『白い竜』がいた。
その『絵の中の竜』は、そんな二人を羨ましそうに見ている様にも思える。
その『羨望』はどこに端を発していて、どこに繋がっていくのかはきっと本人にしかわからないだろう。
だが、その『竜』が居る事によって、その『絵』は見る者の『心』に問いかけてくるのである。
『──君は何が欲しいんだい?』と。
それは深く愛せる相手だろうか、それとも身体すべてを預けられる様な安らげる居場所だろうか……。
はたまた、種族を超えても『心』を繋ぐことが出来るという……そんな『理想』だろうか……。
──ただ、それが何であったとしても、『争い』で傷ついた者達にとって、その『羨望』は救いにも等しかった。
真の『救世』とは、そんな『羨望』の中でこそ最も光り輝くのだと。
そして、その『心』は誰か一人で成すものではなく……皆が一丸となって望むべきものであると。
『…………』
我々は様々な『力』を持つ。
だが、それを上手く使いこなせているとは到底言えないだろう。
基本的に、『人』はそれぞれで望むものが異なるから、見えているものすら異なるから……。
『性質』の赴くままに、衝動のままに、『力』を無駄にしてばかりである……。
『…………』
……だから、多くの者達にとってはそれをまとめる為に、『導き』が必要なのかもしれない。
その『力』の扱い方の方向を定める『主』となる存在が──。
それに相応しき『志』が──。
「…………」
ただ、それらをまとめきって、一つの大陸を『志』のみで国と成した一人の年老いた存在──
元『道場青年』は、あの『壁画』がいつも目に出来る場所、その自宅のベッドの上で最後の時を迎えようとしていた……。
既に彼は、後進となる存在や仲間達に全てを託しきった後であり、一見して落ち着いた様子にも見える。
だがそんな最後の時に、彼は遠目ながらも『壁画』の傍に『白銀』の姿が居る事に気づくと──。
彼はこれまでにないほどの、きっと一番の微笑みを浮かべていたのだ……。
『見てくれましたか』と。
『頑張って強い街にしましたよ』と。
その表情はまるでそう語るかのようであった……。
『…………』
そして、偶々『あの絵』を見に来た私達は、『偶然』にもそんな彼の視線に気づいた訳なのだが……。
『聖竜』の隣りでは『白銀のエア』が、いつの間にかそちらを向きながらポロポロと涙を零しており、そんな彼の微笑みに対して器用にも『不器用な微笑み』を返していたのである。
……無論、その光景は何も知らない者達からすれば、不思議に思えてならなかっただろう。
現に『風竜くん』や『水竜ちゃん』は言うまでもなく、驚いている様子であった……。
『…………』
……ただ、私にはなんとなく、その姿はとても『幸い』を感じられる光景にも映った。
そして、その微笑みを最後に──息を引き取ったらしき彼もまた、『幸い』なまま去って行ったように視えたのである。
彼のここまでの『道中』に何があったのか、詳しくは『聖竜』にもわからない。
だが、その最後の様子は、『満足していた』のが自然と伝わってきた。
きっと、それに見合うだけの『力』の使い方をしたからこそ、彼はそんな風に微笑んだのだろうと……。
『…………』
『世界』の裏側では、きっといつもこうした何かしらが起こり続けている──。
だから、忘れないで欲しい……。
『力』の在り方とその使い方を。
それで何が為せるのかを……。
そして、『人』だけではなく『ドラゴン』達にも、それに気づいて欲しいと思う私なのであった……。
またのお越しをお待ちしております。




