第743話 風化。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『視点』によって、物事に対する捉え方は様々に異なってくる。
……ただ、『世界』と言う『視点』からすれば、『争い』とはその大小に関わらず、必ず損失を伴うものだと思う。
『世界の管理者』として、『無理のない範囲』でしか関わるつもりがない『聖竜』であってもそれ位は分かる。のんびりと過ごしていても気づける事は沢山あるのだ。
それが特に『大きな争い』ともなれば尚更に、そこにどんな思惑があろうとも、お互いが負うであろう損失はそのまま『世界』の大きな損失にもなってしまうのは言わずもがなであると──。
『…………』
──まあ、早い話が『争い』はするだけ無駄であるとも言えるだろう。
そこに何らかの『利』があり深い理由があったとしても、そもそもが資源の無駄であり、『力』の使い方が下手であるとしか私は思えなかった。
寧ろ、その『争い』で消費される分だけの『力』を、そのまま他の使い方に回せていればと。
『もしも何かを生み出す『力』として使えていたら、どれだけのものが生み出せていただろうか』と、そんな風にも考えてしまうのである。
全体数を減らし合ってから、少ない『利』を奪い合うのは愚か者のする事であると。
限られた物を無理なく分け合った方が余程に賢いのにと……そう思わざるを得なかったのだ。
『…………』
また、『世界』の中で起こる『争い』は、その全てにおいて誰にとっても無関係な話などではない。
そもそもが全体数を減らしているのだから、『世界』に居る全ての存在に関係している出来事だろうと。
……ただ、それに気づかぬ者は意外にも多い。
寧ろ、『世界の管理者』になるまでは、きっと私だって分かっていなかった。
──『対岸の火事』はその実、『世界の火事』でしかない事を……。
それはつまり、『自分の家が燃えているのだ』という事を……。
『…………』
『世界』の裏側では常に何かしらが起こっており、気づかぬままに何かが変わっていく──
そして、気づかぬうちに『失敗』も段々と積み重なっているのだと……。
だが、その損失に見合うだけの『成長』を、『人』は得られているのだろうか……。
その損失を取り戻そうと、未来の『子孫』達がどれだけ苦しむかを理解できているのだろうか……。
自分自身が満たされたいだけならば、それを満たす分を超える『力』は何の為に存在するのだろうか。
その『力』は何の為に蓄えるのだろうか。
『派閥』や、『種族』や、『子孫』の為と言いながら起こす『争い』は、その全てがそんな『大切な者達』を苦しめる結果にしか繋がらないのに……。
気づけていない。
『…………』
『止まらぬ欲望』はある意味で、無駄を増やすだけだと……。
活かし方を知らぬ『力』ほど、『痛い目』に変わるだけなのだと……。
──『ほどほどが一番良い』と、『無理はしない方が良い』と、そんな単純な事さえ出来ないでいる。
……分かっているようで、分かっていない事。見えているようで、見えていない事。
知らなければいけない事。忘れてはいけない事……。
それら全てに気づけぬままで居る事──それに伴う『世界の損失』は、そのまま未来を生きる者達を苦しめる枷となるだろう。
『子』や──『大切な者達』を、きっと泣かせる事になるのだ……。
誰か(己)の安易な選択が──それに伴う『争い』が、『幸せ』にする以上の『不幸』を、己の『大切な者達』に背負わせてしまうのだから……。
『…………』
……ただ、そんな『争い』の傷跡から、立ち上がろうとしている者達の国がそこにはあった。
『ダンジョン都市』──そこはかつて、炎に巻かれて滅びかけた『街』ではあったらしいが、今ではすっかりと立派に姿を変えて存在していた。
『救世主』──と、そう呼ばれたとある青年を中心とした集団を筆頭に、今ではその『志』は一つの大陸全てに広まっていき、皆が『失ったもの』を取り戻そうと活気にあふれている様に感じたのだ。
その活気を『成長』だと言ってしまうのは……少々『残酷』な話かもしれない……。
『…………』
だが、その綺麗に整った『街』の姿を見て、不思議と『一意専心』と言う言葉が私の頭を過っていった……。
──かのひたむきな『心』は、確かに届いたのだと……。
そして私の見たかった『あの絵』も、その『街』に在ったのである……。
またのお越しをお待ちしております。




