第741話 強風。
エア曰く『着せ替え型強化装甲──白もこ』と言うらしい『着ぐるみ型魔法道具』を着込んだ私達『幼竜三体』は、その日も空を流れゆく『風ハウス』の一室でのんびりと話をしていた。
「がゆー」
「きゅー!」
「……ぱう」
……まあ、それもちょっとした世間話。
内容としても、『白銀のエア』と言う魔法使いの凄さを知った『風竜くん』が自分の『派閥』の事を交えながら『父親』との強さ比較をしていたり、そんな『風流くん』に対して『水竜ちゃん』が自分の事の様にエアの自慢していたりする感じである。
因みに、『聖竜』たる私はそんな二人の話を聞きながら専ら相槌役をしていた。
寧ろ、眼下での戦いの方が気になって仕方がなく、ソワソワしている状態である……。
『…………』
と言うのも、薄緑の外壁をしているこの『風ハウス』は、一応注意深く見ようと思えば透過している為に私達の足下も覗く事ができる。
その為、『風ハウス』の主たるエアが一人、現状海上で『敵』と戦っているのもバッチリ見えるのだ。
……それもどうやら、その『敵』はエアとも少々因縁があるという相手──『クラーケン』であり、エアは奴らが仕掛けてくるのを感じるとすぐさま撃退しに行ったのである。
まあ、流石に海面から上空に数十メートル離れているとは言え……聞けば『クラーケン』と言う海の怪物は元々『水流派』の手下的な存在でもあり、『天動派』のドラゴン達に時々攻撃を仕掛けてくる事もあるらしい。
なので、私達の様に空をのんびりと流されて浮かんでいる存在は彼らからすれば恰好の的に思えるそうだ。
長い手を伸ばして相手の身体に絡みつき、海に引きずり込む様な戦い方もするという『クラーケン』は油断ならない相手である。
「…………」
……ただ、そんな『クラーケン』を複数相手していてもエアの表情に焦りはなく、まるで何かを確かめるかの様に、敵の攻撃の一撃一撃を受け止めて反撃をしていた。
敵の攻撃に一切揺るがぬ強固な魔法の障壁と、迎撃として打ち出される【水魔法】は容赦なく相手の身体を一方的に撃ち砕いていく。
当然、その『力』の差は明らかであり、それを感じた『クラーケン』達も流石に敵わないと思ったのかぞろぞろと逃げ出して行く始末であった……。
「……おまたせー、終わったからそろそろご飯にしよっか!」
ただ、エアは逃げ行く彼らの様子を眺めると、それ以上は追う事もせずこちらへと戻って来る。
「がゆーっ!」
「きゅううう!」
『…………』
……だがなんだろう。その時のエアの様子は少しだけ何かを誤魔化すかのようにも思え、上手くは言えないがなんとなく『虚しさ』の様なものを私は感じていそうに思えたのだ……。
無論、『クラーケン』達の襲撃が終わってまた平和な時間に戻ると、次第にエアのそんな違和感も消え去っていった。
寧ろ、そろそろ隣の大陸に辿り着こうという頃合いになって、今度はエア以外からちょっとした問題は起こる……。
「……がゅー……」
……と言うのも、なんとそれまでずっと元気だった筈の『風竜くん』がいきなり元気をなくしてしまったのだ。
どうしたのかと思って訊ねてみると、元々『風竜くん』達が暮らしていた『人の街』の一つがこちらの大陸にもあるそうで、その拠点には『風竜くん』のお母さんが住んでいるらしい。
なので、その事に気づいた『風竜くん』は、急に凄い『ホームシック』になってしまったのである──。
またのお越しをお待ちしております。




