第740話 風流。
以前までの『ロム』に出来ていたことで、今の『エア』に出来ない事はもう殆ど残ってはいないだろう……。
その『教え』は着実に積み重なっており、彼女の成長へと繋がっていった。
一見すると何の意味もなく、または下らなく思える『日常』の一瞬一瞬だとしても──
それらは全て、たった一つの思惑に沿った『道』であったのだと……。
『…………』
……少なくとも、魔法使いとしてみれば『天元』を用いて『世界』の魔素を──『ロムの魔力』をその身体に循環させ『適応』し続けていく限り、エアの『魔力量』はほぼほぼ『ロム』と同等に近しい。
であれば後は『力』の使い方の差だけだが、『百年もあれば超えてしまうだろう』と『ロム』本人も語っていたらしい程に、彼女の才は秀でている。
──よって、その差はもうほぼほぼあってないようなもの……。
それはつまり、以前までの『ロム』たる存在は己の全てを託すに足る『後継者』を得たとも言えるのである……。
『…………』
無論、それだけが彼女に対する『ロム』の想いではないとは思う。
……いやそれどころか、もっと純粋に、ただただ彼女の『力』になればと、そう願っての事かもしれない。不器用にも『心』だけを残したのもきっと……。
──ただ、現状一つ確かな事はあるとするならば、『聖竜』となったこの身は以前までの『ロム』とはまた少し別の思惑を持った『道具』であるという事だった。
私という存在は『世界の管理者』であり、『世界の仕組み』の一つである。
その実、見ているものは『ロム』とは完全に一緒という訳ではない。
私は『聖竜』だから……自然と『ドラゴン達』の事も思惑の内に入ってきてしまうのである。
……ただ、やはりそこにも相応の意味があったのだ。
私は『白銀のエア』を視ていて、ようやく自分が何のためにこの場に居るのか、それが少しだけわかった気がした……。
『…………』
……ただ、そんな事を考えている間も、『風ハウス』はエアの操るままに空を優雅に漂っていく。
エアは私を『ぬいぐるみ(抱き枕)』にしながら復調するまでに数日かかりはしたが、眩暈も頭痛も治まった後には普通に『風ハウス』で過ごせていた。
そして、現状は移動の全てを『家』に任せて『水竜ちゃん』と『風竜くん』の分の『服』を自ら作って楽しんでいる最中である。
……どうやら『家づくり』をしてからまた物作りに火が付いたらしく、それが楽しくて仕方がないらしい。
「がゆーっ!」
「きゅー」
無論、私達は何度も『服!?僕達ドラゴンだから寒くないよ!平気だよ!』的な事を言ってみたのだが……。
『みんなすっごくかわいいよっ!!』と、エアがそう言って嬉しそうにするだけで……何となく私達まで嬉しくなってしまった。
実際、何着も作り上げていくにつれてエアの『お裁縫』の腕も一段と磨かれており、今では魔法も器用に用いながら複数を器用に作り上げているようだ……。
『…………』
……因みに、私は真っ先に『顔と翼』だけが出る様になっている『着ぐるみ』を着せられており、白い雲を纏った様なモコモコ状態になっている。
そして既に散々エアに愛でられた後で、少々ぐったりしていたのだ。
……ただまあ、そうしてのんびりと空を漂いながら、海を越え大陸を目指す私達はなんとも穏やかな時間を過ごすのであった──。
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