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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第738話 良風。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 ここは海上。


 そして大陸から大陸へと空を疾駆する『白銀のエア』の腕の中──。



 『…………』



 ──だがしかし、私はその腕の中で若干の息苦しさを感じていたのである。


 と言うのも、『子ドラゴン』が三人だけとはいえ、今のエアの腕では三人を一度に抱えるのは流石に無理があったと思う。



 自ずと密着度は高まり『水竜ちゃん』と『風竜くん』の間で私は『むぎゅっ』と言うよりも既に板みたいな状態になってしまっているのだ。



 ……なので、ちょっとだけ窮屈さを感じた私はエアにこうお願いしたのである。



 『もうちょっとだけ快適な空の旅がいいなぁ』と。



 無論、それは傍に居るのが嫌だから言っているわけではない。

 『聖竜』たるこの身は痛みも感じないので、別に今の状態でも我慢は出来なくないのだ。


 ……ただ、私は良くても『水竜ちゃん』と『風竜くん』が窮屈なのは嫌じゃないかとも思って──え?そこまで嫌じゃない?寧ろ私がちょうどいい緩衝材になっている?



 『…………』



 ……ふむ。そもそもエアは二人の事をちゃんと魔法で守りながら飛んでもいたので、二人からするとそこまで苦しくもなく快適な旅路であったらしい。


 あれれ?と言う事はだ。どうやら不満を感じていたのは私だけだったようだ。


 でも、なんと言うのだろうか──その瞬間、またも不思議な既視感を私は感じていたのである……。



 『何でもかんでもと抱え込み過ぎるのは良くないだろう』と。



 今のエアの様子を見ていると、ふとそんな心配がまた湧き出てきた……。



 色々なものが大事だからと、全てを抱え込み近づきたくなる気持ちも分かる。



 だが、誰しも『手と心』を届かせるには相応しき距離があるのだと。

 そしてそれは『世界の管理者』であっても変わりはしないのだと。



 だからか、思わず『ほどほどが一番だよ……』と、そんな言葉が私の頭には過っていたのだ……。



「──よしっ、それじゃあわたしも、そろそろロムを見倣って『ハウス作り』を試してみようかな!あれがあればきっと空でも皆で快適に過ごせると思うから」



 ……ただそうすると、海上の快適な空の旅において、エアには秘策があったらしく──。

 いきなりそんな、『籠』を作るよりも余程に難しいと思われる『家作り』をすると宣言しだしたのである。



 それも作る間は『みんなは周辺で遊んでちょっとだけ待ってて』と、まるでお料理でも作るかのようなお手軽さであった。


 ……よって、現状私達はそんなエアの周りを『ぷかぷか』と浮かびながら、彼女がこれから何をするのかと興味深く見つめているのである。



 『…………』



 だがまあそうは言っても、正直一から『家』を作るとしたらかなり時間がかかりそうな気はするのだが──。



「ロムが作ってくれる家っていつも内装が一緒だからね。わたしももうその作りに慣れちゃってるからそこまで作りに迷う事もないし、材料はカバンの中に沢山入ってる……それに魔力もこの状態(『白銀』)なら幾らでも使えるから……頑張って作れば、直ぐだと思うよ」



 ──と、言う事らしい。



 そして、早速と作り始めたエアはとても楽し気で、まるで粘土でも『こねこね』と捏ねるかの様に魔力を編み始めていたのだ……。




 『…………』



 『家』とは言っても形式は様々あるだろうが、エアが今作ろうとしているのはどうやら『風属性』に富んだ『家』ではあるらしい。



 そして、エアからすれば一番扱いに慣れている『力』でもある──『音』を使わないのかとも私は思ったのだが……。


 ある意味『風』も通ずるものがあり『振動』に関する『力』の一種だと考慮すれば、現状の環境では最も扱いやすい『素材』の一つではあったのだろうと理解ができた。



 ……要は、魔法道具を作るのと同じように、『素材』を基礎とする事で『風ハウス』をエアは作ろうとしているのだと。



 まあ、海上であるから『海の水』の方がもっと『素材』としてはふんだんに使えたのかもしれないが……逆に『海』の方は基本的に魔力の浸透にも余分な『力』を必要とする為に、扱い易さ的には『風』に劣る一面があるからだろう。



 また、物は言いようかもしれないが、周りに誰かが居る訳もないので、エアとしては開放的で過ごしやすく景観が楽しめる『家』にもしたかったのだと思われる。


 なので、その『家』の土台や外観となる部分は透明であり、かなりの開放感がある事は言うまでもない。……いや、寧ろあり過ぎるくらいだろうか。



 ただ、そうは言っても流石に私達は皆飛ぶことが出来る者達なので、そんな心配はないとは思う。


 まあ、もしも高所を苦手とする者がこの場に居れば、不安で落ち着かなかったかもしれ──。



「……がゅぅ?がゆ?」


 『…………』



 ──ないかなとか思っていたら、どうやらすぐ傍にいたらしい。


 エアが土台となる部分を作り終え、私達が順次そこへと足を下ろしていくと、『風竜くん』だけが唯一そんな不安そうな声を上げて足元を何度も何度も『ペタ、ペタ』しながら確認していたのだった。


 ……どうやら、透明だったからか強度的な問題が気になって『乗ったら落ちないかな?』と心配して中々『体を乗せる』事が出来ないでいるらしい。



 『…………』



 うむ。無論、その気持ちは分からなくはない。

 ……視覚的に『何も見えない』と感じたのならば仕方がない話だ。



 それに『身体を乗せる』と言う事は、ある意味で身体を預けられるか否か──要は、『信頼できるか否か』と言う話にも繋がってくるのだと。


 なので、出会って直ぐの私達の間にはまだその『信頼関係』が築けていないのも自明の理ではあった……。



 ただ、それは今後築いていけばいいだけの話であり、悲観する話ではないのだ。



「あ、ちょっと待ってね。……怖くない様にちょっとだけ『色』も付けるから──」



 そしてそんな風に、『風竜くん』の様子を見てエアは直ぐに対応した様に……。


 私達はいつだって『透明な関係性』にどんな色だって付ける事が出来る。


 『家』の土台となる部分が薄っすらと綺麗な緑色に染まっていく様に──


 『風竜くん』と私達との『信頼関係』も少しずつ良い風に変われたらなれたらいいなと思う私なのであった……。



またのお越しをお待ちしております。

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