第737話 幕間。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
(……因みに、今回の部分もフレーバーテキスト的な感覚で受け止めてくださると幸いです。)
知っているだろうか。
個体差によって、『人』も『ドラゴン』も心音や、呼吸の仕方が異なっている事を。
そして、私達は同じ様に歩こうとしても、その歩き方すら異なっている事を。
少なくとも、全く同じ歩幅で歩き続けられる訳ではないのだと。
誰かと一緒に隣り合い続けるというのは、その実、常に誰かが合わせてくれているのだと。
全く一緒の時間を生きているように見えて……。
その実私達はずっと異なるものを見て、感じて、生きているのだ。
『…………』
異なる価値観を持つ者同士が、ぶつかり合わずに寄り添い合うのは言うまでもなく難しい事。
一方にとっての『宝物』が、もう一方にとっての『宝物』になり得ないならば、その気持ちを理解できているとは言えないだろう……。
また、一方にとっての『宝物』が、もう一方にとっての『凄い宝物』になり得るならば、それはそれで争いが起きてしまうかもしれないから……。
何かを欲する、何かを求めるという欲望は、『人』も『ドラゴン』も変わらずに具えている能力の一つ──あるいは『性質』とも言えるだろう。
ただ、そんな『性質』のせいで、私達はこの『世界』で本当の意味で理解し合う事ができないでいた。
『分かった気持ちになる』事は出来るが、本当の意味で『全く同じ気持ち』にはなれないのだと。
それはある意味で『世界の仕組み』の一つなのだと……。
「──ほら、みんな見てっ!すっごい崖でしょ?ここも大陸の端だよ。わたし達はこれから海を渡って、隣の大陸へと行くからね。段々と暖かい地方へと移動していくから、気温の変化とかで身体の調子が崩れない様に気をつけよう。不調を感じたら直ぐに言って。ぜったいに無理だけはしない様にっ」
……ただ、そんな『世界』において、『白銀のエア』は唯一無二と言える程に、誰よりも優れて『適応』していた。
寧ろ、彼女でなければその異常とも言える歩き方に、付いて行くことなどできなかっただろう。
急激に変化する生活環境に合わせるだけで、実際は過酷なものである。
『旅をする』と言うのは言葉ほど楽でもなく、面白い事ばかりが続くわけではないのだから……。
「がゆー!」
「きゅー!」
「……ぱう」
……だが、そんな『旅』を、彼女は楽しみ続ける事が出来た。
本人は『大した苦労もない』と感じながら、不愛想な表情でも器用に微笑んでいるのだ。
その生き方は、決して他の誰かに真似ができる様なものではないと思う。
彼女だから──『白銀のエア』であったから、そんな『世界』を『旅』する事が出来たのだ。
……一緒に居た『白銀の耳長族』は、いつの間にか壊れてしまったのに。
たった一人、彼女だけが、『失敗』を重ねながらもちゃんと成長をし続け、『適応』をし続けていた。
……それはまるで何かに促されるように。その為の試練であったと言わんばかりに、だ……。
「行くよーーっ!!」
無論、その結果はちゃんとした実を結んでおり……彼女の腕の中には『三種のドラゴン』がむぎゅっと抱えられている。
その様子は、今は少々窮屈そうに見えるけれども……彼女はその状態でも難無く海を越える為に、空を駆けていったのだった──。
『白銀の竜使い』──未だかつて、『聖竜』という特殊個体は抜きにしても、幼いとはいえ『水竜』と『風竜』をその腕に容易に抱えられる存在が居ただろうか……。
それも様々な価値観がある中で、その上『人』や『ドラゴン』といった異なりすらも超えて……。
彼女だけが着実に、全てを受け入れる事が出来るだけの『力』を具えようとしていた……。
『…………』
『天元』──その『力』は彼女のお臍辺りを中心として、今日も彼女の身体に『適応』を促していく……。
より強く、誰よりも高く、どこまで遠く飛んでも平気な様に……。
『あの人』の隣りに在り続ける為に、と……。
またのお越しをお待ちしております。




