第735話 風清。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
「がゆー」
「きゅー」
「……ぱう」
──ぱたぱたぱたぱた……。
「……ふふっ、なんか三人になると途端に賑やかになった気がするね」
とある『宿』の中、私達は『人』に化けた『風竜』と酒場内で話をしていた訳だが……。
結果として、今後『風竜の子』は私達と行動を共にし、『水竜の子』と仲良くなれるかどうかで先の件(『番の約束』)も決めようという話の流れになった。
『…………』
無論、実際そこには『ドラゴン』達の『派閥問題』に関するあれやこれやがあったりする訳だが……。
その為に無理やり『番の約束』を結ぶというのは不本意だったのでその様な形になったのである。
──というか、最終的には本人たちの気持ちが優先という事と、『親や周りの大人達を気遣う子供の直向きさやその健気さ』に心動かされたと言えるだろう。
『風竜の子』の姿には、『不思議な既視感』があったと言うか、これは『手を貸してあげたい』と思わせる『何か』を感じてしまったのだと。
特にエアがそんな『風竜の子』に他の誰かを重ねていたのか、頻りに頷きつつ──
『──そうだよね。うんうん、わかる。男の子って幼かったかと思えば急に変わったり、意外な所を見ていたりするんだよね……バウも確か……』と、そんな呟きを零していたのだ……。
『…………』
まあ、一緒に行動する事で『水竜の子』が心変わりをするかは誰にもわからない。
……少なくとも現状では『えぇー、なんかやだなぁ』と、その表情には苦々しさが素直に出てしまうくらいの関係性ではあるだろう。
ただ、存外『友達』が増える事自体は『水竜の子』も嫌ではないらしく……。
結果的に『風竜の子』が本当に『水竜の子』の心を射止めて仲良くなれるのかどうかに、二人のこれからに任せる事にしたのである。
……まあ、かなり積極的な『風竜の子』に対して『水竜の子』が更なる苦手意識を募らせ『一緒に居るのが辛い。一緒に居たくない!』と言ってきたらこの話は終わりになるだろう。
その場合は、『風竜の子』も親元へと即刻帰還する事となる……。
「うちの子をよろしく頼みます……くれぐれもどうか……」
……ただ、そんな条件であっても『風竜』側は『利』があると判断したらしく──。
そうして声に重みを含ませながらも『白銀の竜使い』に対して若者は深々と頼み込んできたのだった。
無論、彼らからすればある意味『人質を送る』にも近しい選択だったとは思う。
それも『天動派』の未来を左右しかねない大事な大事な後継者を、私達に託してきた訳だ。
正直、彼らの『派閥問題』になど私達は興味もないのだが、それを死活問題だと捉えている彼らの思いは真剣である事も伝わってきた。
『派閥』の為に『風竜の子』をその様に扱かわねばならない事は心苦しく感じている様子で……。
そんな彼の期待を背負って健気にも応えようとする『風竜の子』の姿には、なんとも言えない気持ちにもなるだろう。
『…………』
……まあ、そんなこんなで色々な事情はある。
ただ、結局私達としてはこれを『友達作り』の一環だと考えれば十分ではないかとも思った。
『風竜の子』としても、大人達が困っている現状を感じて自分も何とかしたいと、その期待を背負っているのかもしれないが──正直『番になる』という事がどういう事なのかを未だ漠然と捉えている部分もある様に感じたのだ。
だから今は純粋に『『水竜の子』と仲良くなる』事だけを考えて欲しいと、そう思った……。
こうして一緒に『ぱたぱた』している限りでは、普通に『友達』にもなれそうだと思う。
それに、現状私達以外の仲間と言える存在が居ない『風竜の子』にとっては、これももしかしたら良い機会となるのかもしれないと。
……まあ、いずれその気持ちがどんな風に変化していくのか、はたまた何も変わることなく過ぎ去ってしまうのかは今は誰にもわからないが。
願わくばこうした何気ない『日常』の出来事とその『想い』を大切にして欲しいと思う私であった──。
「…………」
──ただ、そんな私とはまた別の思惑を内心『白銀のエア』も抱いていたらしく……。
これは後々打ち明けられることでもあるのだが、この時点では私達の様子を見ながら微笑んでいた『白銀のエア』は、一抹の不安も同時に覚えていたらしいのである。
……と言うのも、これもまた『教えは残酷だ』という話に端を発するものではあるのだが──。
『水竜の子』(『親に捨てられた竜』)
『風竜の子』(『親の期待と言う名の重みを背負いし竜』)
『バウ』(『仮初の親の愛情を受けし竜』)
『赤竜ちゃん』(『本当の親の愛情を一身に受けた竜』)
そして、『聖竜』(『全ての存在に対し、痛みと成長を促す偽りの竜』)
──という、そんな多種多様な『想いを抱く』『ドラゴン』達が一堂に会する時、何かが起こりそうな胸騒ぎがしてならなかったのだ、と……。
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