第733話 秋風。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
2022.02.19、後半部分加筆修正。物語の進行に若干の変更有──。
(加筆前のを読んで下さった方々、申し訳ございません)
「率直に言うと、『竜使い』殿を訪ねた一番の理由としましては──早い話が、その子(『水竜の子』)とうちの子(『風竜の子』)で、番となる約束を結べませんか?」
「…………」
「きゅ?」
『…………』
「がゆーっ」
『天動派』は『水流派』との関係を見据えて、『人』と共に生きる事で自分達の身を安全を間接的に守り、『水竜の子』と『風竜の子』との間に子を儲ける事で次代の対策にしようと考えているようだ。
海と空を行き来する『水竜』の特性を『天動派』にも与える事により、向こうの一方的な優位性を損なわせる計画と言ってもいいだろう。
──要は、それは『数の力』を望めぬ代わりに、『個の力』を充てにするという話でもあった。
『…………』
無論、今は両方ともまだ幼竜である為、それはただの『約束』の域を出ない。
その上、状況の推移によってはその約束は破断される事も考慮済みではあるのだろう。
だがしかし、そもそもの話として全体数が減ったとはいえ『水流派』にも『水竜』は少なからず存在していてもおかしくない筈なのに、それでも尚『白銀の竜使い』にその話を持ってくること自体に嫌らしさを感じる……。
「貴方達とは争いたくない。無理だ。我々では勝てぬ……」
それに、若者はいつしかエアに向けていた視線と横にずらすと『聖竜』たる私の方を向いており、そうな言葉も零していた。
……うむ?どうやら、もしかしなくても『余興』の経緯も存じているらしい。
要はだ、『毒槍』が取った手法と同じく彼ら『風竜』もまた私達とは『不戦』もしくは『不干渉』という『約束』を結ぶことを望んでこの場にやってきたのがわかったのだ。
子供をだしに使うのは正直少しばかり思うところはあるものの、ある意味では『派閥』を存続させるための手法として『人』が使う政略結婚と概念としては同じなのかもしれない。
『人』の中で生きる事を選んだ彼らだからこそ気づけた生存戦略であり、幼きながらも『派閥』の将来を背負う自負があるのか、『風竜の子』もまたそれに準じようとしている様子を見せていた。
『──ぼくと友達になってよっ!』と。
先ほどから『水竜の子』に対してずっと尻尾をブンブンと振りながら求愛(?)し続けている『風竜の子』(男の子)の様子はなんとも微笑ましく、私の隣に居るエアも思わず『……か、かわいい子だね』と、好意的に捉えている。
『…………』
……だがまあ、それでも結局は『天動派』の気持ちも分からなくはないけれども、『聖竜』たる私としてはやはり『水竜の子』の気持ちが一番大事なんじゃないかとは思った。
だから私達が勝手に『水竜の子』や『風竜の子』の番相手を決めてしまうのはやはり違う気がすると。
どんな相手を選ぶのかは『水竜の子』達本人の好きにさせてあげたいんだと。
……なので、正直賛成したくはない気持ちでいっぱいあったが、それよりも先ずは『水竜の子』がどう思うかを聞こうと、実際に訊ねてみる事にしたのである。
『君はどうしたい?』と。
「……ぱう?」
「きゅー、きゅぅぅ」
ただ、それに対し『……えー、どうしよう』と、困惑しているのが『水竜の子』の今の率直な反応であった。……まあ、一見すると向こう側が結構グイグイと距離を詰めようとして来るものだから、彼女が若干引き気味になってしまっている様子なのも丸わかりではある。
──というか、正直今はまだ子供だし、エアや『聖竜』と一緒に居るのが楽しいから、あまりそれ以外の事は考えられないというのが本音ではあるようだ。
だから、自然とそんな思いの表れだろうか。椅子に座っている『白銀のエア』の膝の上に身体を移してぎゅっと寄りかかると、『水竜の子』は『困っている』表情をしながらエアの顔をジッと見上げ続けているのである。
……無論、その表情がエアに対して『どうにかして欲しい』と訴えかけている事など言うまでもなく──。
「……うんっ。わかった。まかせて」
「きゅっ」
──と、エアはそう言って深く頷きを返すと、気持ちを察した微笑みで『水竜の子』の頭を優しく撫でるのだった。
……種族が違えど『女の子』同士。その『心』にある微妙な事情にも、直ぐに察しがつく部分があったのかもしれない。
率直に言って『風竜の子』(男の子)は依然として純粋な求愛を続けているが、正直その様子は可愛らしくはあるものの、『水竜の子』(女の子)からすると──
『……なんか同年代の異性ってちょっと子供っぽ過ぎるっていうか。……ちょっと頼りなく見えちゃって、あまり魅力が感じられないんだよね』と。
──そんな雰囲気が漂っており、『水竜の子』はあまり乗り気じゃないのである。
要は、『風竜の子』はあまり、『水竜の子』の好みとは違っているらしいと。
……もしかしたら『水竜の子』も、もうちょっと包容力がある『籠』の様な相手が好みなのかもしれないのだと私は感じた。
「…………」
……その故か、そんなあからさまな『水竜の子』の様子を見た『風竜』側も、既にどことなく残念そうな雰囲気が漂い始めていたのだ。これは『脈無しだろうか?』と。
実際、そんな『水竜の子』の気持ちに気づけぬのは唯一『風竜の子』のみであった。
「がゆーっ!がゆー」
と、その子は未だ、直向きな声をかけ続けてくる。
……だがしかし、そんな『風竜の子』が悪いという事は全然ないのだと、私は『心』から思った。
その子はその子で、今の自分に出来る精一杯をやっているだけだから。
『派閥』の事情に応えようと、子供ながらに親や仲間達の為になろうと、ただその一心で頑張っているだけなのである。
そんな彼を、誰が否定できようか。健気でしかない。
「……んーでも、やっぱりこの感じは難しいね」
「ダメですか?」
「うん、そっちの気持ちは分からなくはないけどね。……でも結局、周りが幾ら盛り上がっても『誰かを好きになり寄り添い続ける』って言うのは言葉ほど簡単じゃないから。当人たちがちゃんと仲良くないと──想い合ってないと──いずれ『歪』にもなるでしょ?……だから、この手の話はわたしも個人的には引き受けたくないなって思うかな」
「…………そう、ですか」
……よって、最終的にはそんなエアの言葉がほぼほぼ決め手となり、『風竜』たる若者はその腕の中に『風竜の子』を抱きつつ、とても残念そうに肩を落とすのであった──。
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