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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第732話 和風。

(少々長くなりそうなので、一旦区切ります……)




 その酒場に居た『風竜』は、一見して『人』とわからない様に、『まやかし』を用いていた。

 その上で彼は酒を手に、『人』と同様に──ゴクリゴクリと喉を鳴らしている。



 その様は堂に入っており、昨日今日気まぐれでその姿をしている訳ではない事が分かった。

 ……基本的に魔法が切れれば直ぐに戻ってしまう姿ではあるのだろうが、彼らの『魔力量』をもってすればそうそう誰かにバレる心配もないのだろう。



 『…………』



 ……うむ、そう考えると『人』のふりをして過ごす、というのはある意味でとても賢い方法だと思える。


 彼らがどんな目的を持ってここに居るのかは未だわからぬけれど、少なくとも『情報を集める』という観点においては『人』の集まる場所に身を置く方が利点は高いだろうと。



 ……実際、エアが『竜使い』と呼ばれる様になったのも比較的最近と言えば最近の話であり、それを知ってこうして近づいてきた時点で、彼らはこちらの事を知っている訳なのだから……。



「お待たせ」


「いえいえ……俺が『何者』なのかを存じたまま、こうして普通に話を聞いていただける時点で幾らでも待ちますとも──それだけこの邂逅には意味がある……」



 『……少なくとも、こうして好きなだけ酒を貴方の様な美人と飲めるというだけで、俺は幸せですからね』と、目の前の若者(『風竜』)はちょっとだけ歯の浮くようなセリフを零すと、ニコリと微笑みを浮かべてエアの顔を見つめている。



 それに対し、エアはただただ不愛想な表情で『じー』っと彼の顔を見返していた。

 ……その表情はまるで『御託は良いからさっさと本題に入れ』と語るかのようで。


 そんなエアの一切ぶれない姿を見た若者は、『くく……そう甘くはないか……』と、ぼそりと呟くのだった。



「……それで?何の用なの?訊ねたい事があるとか言ってたけど」



 因みにだが、その若者の後ろには騎士達が控えているものの、実際に『風竜』が『人』のふりをしているのはその若者一人だけだったりする。



 ……ただ、目の前の彼がその事を彼らの前でも明け透けに話している様子から見て、少なくとも彼が竜である事は後ろの騎士達も当然知っている事なのだろう。



 つまりは、既に何かしらの協力関係が築かれている事と、『人』の上に立つだけの立場をその『風竜』が手に入れている事は前提として推察ができたのだった。



「……ええ。ですが、その本題の前に一つだけ、『竜使い』殿は我々『ドラゴン』達に『派閥』がある事はご存じで?」


「うんっ、ある程度は知ってるよ。『天動派』『地動派』『水流派』があるんだっけ?」


「ええ。その通りです。……そして、我々はその中でも『天動派』に属する存在である事を念頭に置いていただきたい」


「うん──という事は、じゃあ話というもその『派閥問題』に関しての事なの?」


「はい。極論するならば、ですが……。実は現状、我々『ドラゴン』は未曽有の変化が訪れている最中なのですよ──」



 ──と言うのも、『世界』の裏側で起きていたに近しい『勇者一行』対『魔物達』の争いは『ドラゴン』達にとっても無関係ではなかったらしい。



 そして、元々彼ら『天動派』は『自称神々』の使い走り的な役割を担っていた部分もあり、その戦いの中で多くの同胞達が亡くなっていったのだという。



「……ただ、その争いによって『浄化の神』以外が段々と倒れていった事により、逆に我々は救われたのです」



 ……ある意味で『神人』達と似た様な扱いを受けていた彼らは、その呪縛から抜け出せずにいた。


 だが、『神々』が滅んでいったことで次第に自由を得られるようになったのだという。


 ……その点において、彼らは『魔物側』ひいては『黒雨の魔獣』と『毒槍』に深く恩を感じているそうだ。



「……けれど、全体の個体数をだいぶ減らした我々は戦いから逃げました。安寧の地を求め、また『力』を蓄えようと動き出したのです──」



 元々『天動派』に属する『ドラゴン』達は個体差はあるものの『飛ぶ』事に関して強い自負を具えている存在が多い者達だったらしい。


 そして、者によっては『一年中飛んで過ごす』事は珍しくはなく、繁殖の機会にだけ高山などで仮拠点として巣作りをする以外一つの場所に留まって過ごす事のなかった彼らはその時選択を迫られたそうだ。



 ……と言うのも、言うまでもなく『ドラゴンの子育て』と言うのは消耗が激しいからである。



 その上、外敵などから守る『力』も十分に残しておかなければ状況も加味すると、『派閥』を存続させるにはそこまで一気に『子供』を増やすという選択肢は選べなかったのだと。



 だが、一人一人をのんびりと育てあげていったのでは、『派閥』が『力』を取り戻すのにはそれこそ何十年も何百年もかかってしまうと。



「……勿論、ゆっくりと『力』を蓄える時間があれば我々もそうしました。周りが何もしてこなければ、我々もそのまま大人しく過ごす事も吝かではなかったんです。……だがしかし、密かに『水流派』が勢力圏を広げようとしているのはこちらも掴んでいました。奴らは陰湿ですからね……早めに何らかの手を打たないと、気づいた時には手遅れになりかねなかった」



 基本的に、それぞれの住処から殆ど移動もしない『地動派』は『天動派』からすれば比較的無害あほだと思っているそうで、基本的に相手は『水流派』になるらしい。


 そして、様々な土地を求め、縄張りを広げようとする『水流派』と『天動派』は何かとぶつかる事も多いのだとか。



 『好きに飛び回って、好きに休んでいるだけなのに、縄張り意識の強い奴らがいつも襲い掛かって来て困る』というのが彼らの言である。



 特に『水流派』においては、海と空を行き来して攻撃してくる者も多いために、『天動派』の『ブレス』などは海の中に潜って隠れてやり過ごし、逆に少しでも隙を見せると、こそこそと海から揃って『ブレス』を放ってきて、飛んでいる彼らを打ち落とそうとしてくるなんとも卑怯な奴らなのだとか。



 基本的に、『火竜』や『地竜』などは、火山だったり泥の中だったり、局所的な場所を好んで住処にする変態ばかりなのであまり影響はないが、『水竜』達だけは本当に気持ち悪いほど小賢しい事をしてくる性格の悪い奴らの集まりだそうだ……。



「結果として、我々は当初逃げ惑った末に苦肉の策として『人』の中に紛れ込む方法を取りました──ただ、これが予想外に『良案』でして、我々は少しずつ『力』を取り戻している最中なのです」



 ……そもそも『ドラゴン』を害せるのは同じ『ドラゴン』くらいだという感覚が彼らにはあるのだろう。『人』は気づかれなければ外敵になどなり得ないと。



 寧ろ、余所の『ドラゴン』達が接近してきたら、『人』が教えてくれるから良い隠れ蓑にもなったのだと。



「『人』の『街』で暮らす事が一番の安全だとは、流石に他の『派閥』では気づきもしないでしょう。まあ、時には愚かにも『人』が喧嘩を吹っ掛けてくることもありますが、その場合は我々の真の姿を見せれば、彼らは直ぐに絶望し言いなりになりますからね……そんな彼らの驚く姿を見るのも中々に楽し──あ、いえ、なんでもありません。冗談です。『人』とはこれからも良き協力関係でありたいものですよ。はははは……」



「…………」



 ……どうやら、『性格』云々の話はどっちもどっちな気がすると察した私達であった──。





またのお越しをお待ちしております。

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