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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第73話 戯。




 白エアからローブを返してもらい、私はいつものロム完全体へと戻った。

 どうやらこのローブを着ている時と、着ていない時では周りの反応も微妙に違う事から、これはもはや私の身体の一部だと思われているらしい。



 特にエアは白ローブを返してくれる時も残念そうにしていたので、私が『暫く持っていてもいいのだぞ?』と言うと、首を振りながら、まるで断腸の思いで酒を断つ酒好きみたいな葛藤をした後、儚く瞳を潤ませながら『これはロムの一部だから』と言って返してくれた。……因みに、このローブに私の神経は全く通ってはいない。



 お野菜イベントも最終的には大盛り上がりで無事終わった。

 お野菜イベントは年にだいたい二回程開かれており、暑い季節に一回、実りの季節に一回と後は気分によって時々不定期に開催したりもする。

 街中の生活をしていると中々野菜が不足しがちだったりするので、今回のお野菜イベントで充分なお野菜を補給できたエアは大満足であった。



「わああーー!!」



 それも、精霊達が密かに次にエアが帰って来た時用として、秘跡まで赴き『ネクト』をまた収穫してきてくれていたらしく、今エアの目の前には大好物である秘跡産果物『ネクト』が、カットされた状態で食後のデザートととして出てきたのであった。


 エアは満面の笑みでそれらを確りと味わって食べている。まったくしょうがないな君達は、いつだってエアに甘々なんだからー。……おっとエア、口の周りが汚れているぞ。拭いてあげるからこっちを見なさい。よしよし、元通りの綺麗な顔に戻った。



「どうした?」


「んっ、ううん。なんでもない」



 浄化をかければ直ぐに汚れも消えてしまうのだが、ちょうど良く私は大きめの手ぬぐいを持っていたので、それでエアを口周りを綺麗にする。

 流石に幼子にする様な事をされて、エアも怒ってしまったのか、また少し顔を赤らめていたが、身体が勝手に動いてしまったのでどうか許して欲しい。

 分かってはいるのだが、どうしてもまだ私は、時々こうした対応が出てしまう。エアも成長しているのだから、『子ども扱いしないで!』とまた言われないようにも、直していかなければいけない。もっと気を付けていこう。



「はいっ、ロムも、たべてっ」



 すると、エアが私へと向かって大好物である『ネクト』のカットされた一つを、フォークに刺した状態で私の口の前に持ってきた。どうやら食べさせてくれようとしているらしい。

 以前にもいつだったか、これと同じような事があった気がする。……確か、あれは初めて川に行き、魚を取った時だっただろうか。少し懐かしくも感じる。


 せっかくの大好物を貰っても良いのだろうかとも思ったが、エアは頷いてわくわくしながらこちらを見つめてくるので、私は勧められるままに一口だけパクリと『ネクト』を食べた。……うむ。美味い。



「ほんとうは街でも、ロムに食べさせてあげたかったけど、それはまた今度ねっ。……はいっ、もう一口、食べてっ!」



 なんとっ、そんな事を考えての行動だったとは……あれっ、おかしいな、雨が降るかもしれない。ゲリラ的な感動が私の心を襲う。


 ただ、そうして私がエアの一言にジーンと感動し、二口目で何があっても良いようにと大きな手ぬぐいをサッと取り出して準備をしていると、今回のエアは私の口だけではなく頬にも食べさせてくれる様で、二口目の『ネクト』は私の頬にピトッと優しくくっ付いたのである。



「ふっふふふっ!」



 それを見た瞬間、『イタズラが成功した!』と言わんばかりに、エアは顔を真っ赤にしながらお腹を苦しそうに抑えて爆笑しだした。……おやおや?やってくれたなエアさん。


 だが、エアは短い時間だけ爆笑して満足すると、今度は私の大きな手ぬぐいを『貸してっ』と手に取り、私の頬をその手ぬぐいでグニグニと拭き撫でながら、ちゃんと二口目を食べさせてくれたのである。



「ごめんねロム、怒らないでね、はいっ、たべてっ」



 怒りなんてしない。

 目の前でそんな心の底から楽しそうにするのだから、私も幸せを感じるだけである。

 ……それに、とても温かくて優しい気持ちが、エアから伝わってくる様に感じた。


 まあ、最初の感動も吃驚してどこかへと吹き飛んではしまったけれど……。

 私は思った。最初から、私には雨具どころか手ぬぐいすらも必要なかったのだと。

 どうやら私の雨は全部、エアの笑顔だけで吹き止んでしまうらしい。



 今尚少しだけ顔を赤らめては自分も食べつつ、私へも食べさせてくれるエアは、その後も嬉しそうに時々『頬ピトッ』を挟んでは笑っている。食事中に行儀が悪いと、もしこの光景を見ていたら同族の淑女たち等は怒っていたかもしれないが、それでも私はこの瞬間をとても嬉しく思った。







 ──さて、そんな幸せな一時もありつつ、大樹の家での久々の食事を終えた後、私達は今後の事について話し合う事になった。



 正直な話をすると、街に出て働きに出たとすると、こうしてまた精霊達が気を遣って私達に内緒でこんな恐ろしいイベントを開いてしまうかもしれないので、今回は次の実りの季節までここでゆっくりして、次のお野菜イベントを終えてからまた旅立つのはどうだろうかという話になったのである。



「ほんとにっ!!今年のお野菜イベントだけ?来年になったりしないっ!?」



 お野菜イベントは大歓迎なのだが、それによってまた旅立ちが延びるのではないかと心配したエアは、何度もその事を私へと確認してくる。これには私も精霊達も内心で苦笑せざるを得なかった。どうやら私達は知らず知らずのうちに、エアへとトラウマを作ってしまっていたようである。申し訳ない。



 ……なので私は、エアの瞳を見つめながら誠実と親愛をもって告げた。



「私は魔法使いとして、これからエアに告げる事に一切、嘘偽りを交えない事を誓う。次の実りの季節にて行う『お野菜イベント』が終わった後、私はエアと共に必ず再び旅に出る」



「……ふむー。うん。それならいいっ!」



 仁王立ちで腕を組み、少し私の口真似しながら、確りと頷くエアは満足したように笑みを見せた。これでいいらしい。



「あっ、でも、旅をするのって、この前の街に戻るの?」


「ん?この前の街か……ふむ。それなら、別の街に向かうのでも私は良いと思うが、エアはどうだ?」


「うんっ!それが良いと思う!」



 まあ他意はないのだが、あの街には良くないものが潜んでいる気がするので、街でバッタリと出くわす危険性も考えれば、他の街に行く方が良いかもしれないと私とエアは思ったのだ。……それに、私達が居ない方が彼にとっても良いのではないかとも思う。真剣になれるだろう。



 それでは、次に行く街はどんな街が良いだろうかという話し合いに移る。

 が、これにはエアが真っ先に手を挙げて笑顔でこう言った。



「わたし、ダンジョンに行ってみたいっ!」と。




またのお越しをお待ちしております。

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