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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
727/790

第727話 無偏。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 ──そんな翌日、まあ、ある意味では想定通りの戦いが始まろうとしていた。



 『…………』



 無論、色々と思うところはあるだろう。それぞれに考え方の違いもあるだろう。


 『何が正解か』なんて、それぞれの視点によって異なるのだから今更掘り返すつもりもない。


 だから、『街』側の思惑が何かしらあったとしても関係ないと考えることにした。


 そこにどの様な『利』があり、どの様な考え方があったとしても否定するつもりもなかった。



 ……私達も私達のやりたいようにするしかないのだとそう思ったのだ。



 ただ、その結果の一つとして、私は『ドラゴンと戦いたい』という彼らの『余興』に敢えて乗る事を自ら選択した。



 今更『浮かれるな』『喜ぶな』とは言えないし、『注意しろ』と言っても聞く耳が無ければその助言は流されてしまい何の意味もなさない事は目に見えていたから。



 『…………』



 だが、『会えて嬉しい』と言ってくれた彼らに対し、みすみす『何もしない』という選択肢はそれはそれで『なんとなく嫌だな』とも思ったのである。



 だから、これはきっとただの気まぐれに過ぎなかったが……まあ、戦ってみて単純に『戦力差』を知って貰うだけでも良い気がしたのだ。



 まあ、これから私がしようとする事は、ある意味で『相手が聞く姿勢になっていないならば、聞く姿勢にしてから語ればいい』という少し強引な手段なのかもしれない……。



 『正直、傲慢が過ぎるかも……』とも思うが、今回はその『余興』で彼らに気づいて欲しいと思ったのである。




 まあ、だから要は、『ドラゴン』に対する危機感を今一度引き締めて貰おうと思ったので、私は彼らに対して、今日は沢山『ぱたぱた』していこうと思っている訳だ……。




 『…………』



 ……時に、『言う優しさ』と『言わない優しさ』に悩む様な場面において、そのどちらが正しいのかを考える事はあるだろうか。


 基本的に、そのどちらも使い方次第で相手に少なからず影響を与えるもの……。



 エアが憤りを見せたのは『前者』であるといえるのかもしれないし……。

 私があまり彼らに興味を抱かなかったのは『後者』だったとも言えるのかもしれない。



 ただ、今回の場合においては、私は明らかに『言う優しさ』を意識した気まぐれを起こすつもりであった。



 『…………』



 ……ただ、エアは私がその行動をとる事を──『戦いを受け入れる』事を──聞いて、最初は少し驚きを見せていた。



 『力』の秘匿なども考慮するなら、以前までの『ロム』であればあまりこういう『面倒な出来事』はそもそも避けようとしていたから……と。


 珍しいとも感じたそうだ。



 ……うむ。



 ただ、エアは『ロムがやる気ならば、わたしも手伝うよ』とそう言ってくれて、今は私の背後の方に『水竜の子』と共に控えてくれている。



 そして、現状『街』からさほど離れていない場所で『金石冒険者達』と向かい合いながら、私は戦いに備えていた訳なのだが……向こうの準備が整うまでの間に、ちょっとだけこんな事も思ったのだ……。



 『…………』



 ……と言うのも、もしかしたらこういう『道具』も必要なのだろうかと。



 基本的に、客観的な価値観で良い悪いを判断しない方が良いと思っているのだが……。



 『籠』の中に水を宿す『道具』もあれば、逆にただただ傷つけ損なうだけの『道具』があってもいいのかもしれないとそう思った。



 そのどちらの場合においても、『道具』は使われている事に存在意義を得るのかもしれない。



 ……要は、何かを失ってからでないと気づけない場合もあるのならば、その為の『道具』があり、そこに意味が生まれるならば、その『道具』は必要な存在になれるだろうからと。



 その結果、誰かを傷つける事になったとしても……そこに意味が生まれるならば、その『道具』は望まれているのだと。



 綺麗事ばかりの存在ではなく、ちゃんと『手を出したら痛い目を見るよ』と、それを知る為の術があってもいいのかもしれない。


 ある意味では、分かっていても手を出してしまう時がある様に、それは仕方のない話でもあるから……。



 それを教える為の『仕組み』はあった方がいいのかも、と。



 『必然的な痛みを伴う忠告』──その為の『道具』、その後の笑顔の為に、今誰かを傷つける為の『力』……。



 『…………』



 だから、言わば『聖竜()』は、今からそれになるつもりであった……。



 もっと言えば、敢えて私がここで『街』に使われるだけの『道具』となり、その役割に徹し、一つ彼らの思惑に乗ってみて、逆に彼らにその『痛い目』をみて貰うのもいいかもしれないと。



 『道具の扱い方』を誤った時に、どんな目に合うのかを知って貰おうかと。



 実際に、痛みを伴わなければわからないのであれば、それも必然なのかもしれないと。

 そこに『成長』が伴うならば、寧ろそれはやるのが必然だろうと。



 彼ら自身が、引いてはこの『街』全てが、その結果傷つくことになったとしても……。

 その後に笑顔になれるのであれば、それは彼らの選択の結果であり、私としてはそれを願うばかりであると……。



 だから、この『余興』もきっと彼らにとっては『必然』なんだろうなと。



 『…………』 



 私はそう思う事にした。



 『それをする必要が本当にあるのか?』とか。

 『言葉で言えば分かる筈だ』とか。

 『いずれ時間が、解決を導く事もあるだろう』とか。



 そんな風な気持ちも正直ある……けれども……。


 今回の私は、この『心』のままに、翼へと魔力を集める事にしたのだ。



 『…………』



 『聖竜』たる私の翼が段々と、『白銀』へと煌めいていった。


 すると、次第に相対している『金石冒険者達』の顔色が悪くなっている様にも見えるが……。


 この『余興』を、彼らにも精々楽しんで貰えれば幸いであると、私はそう思ったのだ──。





またのお越しをお待ちしております。

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