第726話 暗投。
『他の街』でも『力』を充てにされる事はこれまでにもあった。
だから、言ってみればこの『街』においてもまた同様に、私達の『力』が充てにされたのだと……。
『…………』
だがしかし、この『街』は『水竜達』から襲撃を受けたばかりである為、明らかに『他の街』とは状況が異なるのは言うまでもないだろう。
……もっと言えば『海沿いの街』だし、もっと危機感を持って欲しいと思うのが自然だとも思うのである。
まあ、結果的には大した被害もなかったので『浮かれたい気分』になるのも分かるのだが……。
『いやいや待て待て、違うだろう?』と。
『そんな場合か?』と。
……私達がそんな風に思ってしまう気持ちも分からなくはないとは思うのだ。
『…………』
その上彼らがこれから行おうとしているのは『子ドラゴン対金石冒険者』の『余興』なのだ……。
エアからしても『ねえ?ふざけてるの?』と思ってしまうのも仕方はない話である。
……そもそも『ドラゴンを舐め過ぎ!』と、思ってくれた部分もあるのかもしれない。
ただ、エアのその憤りの根幹にあるのは、自らの『失敗』による後悔と、この『街』の者達にはそうなって欲しくないという優しさからくる心配だという風に私は捉えていた。
『手を出したらいけないものに手を出すと痛い目を見る事になるよ?』と。
『対策を講じていても起こってしまう失敗なのに……君達はその対策すら講じずに他の事をしようとしているんだよ?』と。
そんな思いやりが、ついつい憤りになってしまったのだとは思うのである。
あの『足踏み』もそのせいだろうと。
『聖竜』を巻き込んで『余興』なんかしている場合!?違うでしょ!ちゃんと『水竜達の襲撃』を想定した対応を考えなさい!』と。
『こんな状況なのに君達、やるべき事から目を背けてないか!』と。
もっと言えば、『『力』の使い方、出し時を間違っているぞ!』とも。
……ただ、それはある意味で『街』の者達だけに向けた話でもなく、自分自身にすら向けてエアは思いを抱いたのではないかとも思った。
要は、『街』の者達にとっては耳が痛くなる様な話でもあったが、恐らくはエア自身にとっても先の『失敗』が過ってしまう様な話になってしまった訳で……。
その結果として、思わず珍しくも『足踏み』が出てしまう程に、抑えきれぬ感情の発露となってしまったのではないかと私は推察しているのである。
恐らくだが、未熟であるが故の後悔であると同時に、未来を大事に見据えているが故の奮起でもあったのだろうと……。
『…………』
要はこれも、ある意味ではエアにとっての『成長の機会』だったと言えるのかもしれない……。
まあ、エア本人としては、色々と複雑な思いを感じている事だろう。
『今更こんな事を、わたしはまたも知る事になって恥ずかしい』だとか。
『わたし、他の人に説教できるような状況じゃないじゃない!人の事言えないのに!もう!』とか。
言わば『傷口に塩……』的な、色々と自分にも跳ね返ってくる話をした時の痛み……みたいな感覚なのではないかと思うのであった。
『…………』
正直、『聖竜』としては今更『金石冒険者達』との戦いなど受けてもいいし受けなくてもいいとは思っている。
戦いになればその瞬間に、私の勝利確定間違いなしの『ぱたぱた』をお見舞いするだけの話なのだから……。
相手の冒険者達や周り者達が何か言ってきたとしても、最悪の場合はエアも言っていた通り『ブレス』を一発『街中』にでも撃ち込めばきっと皆黙るだろうし。……うむ、問題はないのだ。
──ぱたぱたぱたぱた……。
ただ、そんなエアの憤っている様子を客観的に見ると、もしかすると『宿』の従業員や『街』の者達では別の思惑を抱くのではないだろうかとも思えた。
『……あっ、『子ドラゴン対金石冒険者』の勝負の件で盛り上がっちゃって怒らせてしまったのだろうか』とか。
『それも勝手に賭けの対象なんかにして、失礼だと思われたのだろうか』とか。
現に、その話を教えてくれた『宿』の従業員も──
『…………』
──と、おっとっと、そういえば彼のことを忘れていたのだ……。
先の話をしてくれた『宿』の男性従業員は、態々その情報を教えに来てくれただけで何も悪くないのにも関わらず、今なお『足踏み』に驚いて腰を抜かしてしまっていたのである。
……なので、そんなの明らかにこちらに非があると思った私は、彼の傍へと──ぺたたぺたた、と走り寄って行くと微力ながらも『よいしょっ』と手伝って彼を助け起こしたのであった。
そして、その際にはちゃんと『足踏み』の事も謝ったのである。
『親切にも教えてくれたのに、驚かしてしまってごめんね』と……。
無論、それは私が直接的にやった事ではないかもしれないけれど、エアのした事は私と無関係ではないからという判断だ。
「──ごめんなさい!わたし、貴方に八つ当たりみたいな真似を……」
……すると、エアも直ぐにその事に気づけたようで、ハッとして深く頭を下げていた。
ただ、そうなると今度は逆にエアと私のそんな様子に『宿』の男性従業員の方が恐縮してしまった様子で、彼は何度も首を横に振っては『気にしないでください!だいじょうぶです!』を連呼するのであった。
──正直、内心彼としては噂の『竜使い』と直接話せた事と、噂の『子ドラゴン』に実際に触って助け起こして貰えた事を喜んでいたので本当に気にしていないらしい。
寧ろ、満面の笑みで『会えて嬉しかったです!』と、そう言って貰えて……何となくだが私も少しだけ嬉しくなってしまったのだった。
『…………』
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