第725話 誤認。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
キラキラとした魔力の残滓を舞わせ『崩れかけていたドラゴン』が完全に消え去ると、そこには代わりに光が集まって『白銀のエア』がちゃんと戻ってきたのだった……。
『…………』
そして、その後私達は『水竜の子』が待っている『宿』へと戻って来た訳なのだが──
意外と思われるかもしれないけれど、その頃にはもうすっかりとエアの気分も平常へと戻っており、ほぼほぼ行った時と変わらないくらいの表情にはなっていたのであった。
『水竜の子』も、まさかエアが『稀に見る大失敗』をした直後だなんて思いもしないだろう。
寧ろ活き活きとしていて、いっそ『次こそは絶対に成功してやろう!』と、そんな気概に満ち溢れているようにすら感じられるかもしれない。
『…………』
……まあ、戻って来るまでの間、実は暫く『白銀のエア』が『白いぬいぐるみ』に干渉ダイブしながら甘えまくるという時間があったりなかったりした訳なのだが──敢えてそこを言及する必要はないだろう。詳細も語るまい。
ただ、一つだけ言える事は、私も頑張ったのだ、と。
エアが元気になるならばと、思う存分めちゃくちゃに抱きしめられ、ちゃんとメンタルケア(ストレス解消)の役割も果たしたのだ、と。
抱き締められ過ぎて、今では私のお腹周辺がべっこりと凹んでしまうくらいには、ちゃんとむぎゅっとされ続けたのだと思ってほしい……。
……うむ。
なので現状、何故か疲れて帰ってきたのは不思議と『白い竜のぬいぐるみ』だけだったりするのであった……。
──コンコンコン!
……ただ、そんな事はさておき無事に帰ってきて早々、また私達が泊まっている『宿』の一室を誰かが訪ねて来たらしい。ちょうどよくもそんなノックの音が扉の方から聞こえてきたのである。
だが、きっと『街』の外は未だ変わらず『ドラゴン撃退』で沸いているのも分かっているので……。
恐らくはそれの関係者ではないかと、私はそんな予想を立てていた。
寧ろ、この手の誘いがもっと早く来てもおかしくなかったとさえ思っている……。
『…………』
本来なら、その騒ぎ(祝い)の中心となって然るべき存在である私達が居ない現状──
それは『街』からしたら当然残念で仕方がないだろうし、一緒に参加して欲しい催しの一つや二つはあるのだろうと。また、それか祝い事と称してエアに贈り物の三つや四つをしたい存在も居るのではないかと、そう思ったのだ。
……正直、『白銀のエア』の魅力的な要素はかなり『人』よりも多いと思う。
現状は子供っぽくあるものの、その容姿はかなり整っている事は言うまでもないし、希少な『竜使い』(周囲はそう錯覚している)でもある。
その上、『金石冒険者』という肩書もありつつ、一応はこの『街』でも高級とされる『宿』でのんびりと過ごせるほどに金銭的な蓄えもあるのだと分かるだろう。
そして、なんと言っても現状では『街を救った英雄』的な存在だと思われてもいる為──
要は、そこにあるどんな『利』に対しても、お近づきになれれば『おいしい』と考える輩はそこそこ居そうだなと……。
ギルドは気を遣ってくれた方だが、『街』としての判断には最終的に靡かざるを得ないのでは?と……。
なので内心、私はそんな相手が訪ねてきたのではないかな?と勘繰っている訳なのだ。
まあ、現状エアは『とある一件』の影響もあってか、そんな来客を心から嫌そうにする表情をしているけれども──はてさて、いったいどうなることやら……。
「すみません!『竜使い様』!お客様がお見えで──それがなんでも『竜使い様』と同じく『金石冒険者』の方々らしいのですが……」
『…………??』
……だが、実際そうして訪ねてきたのは、私が思っていたのとはまたちょっとだけ違った毛色というか、別の思惑を持つ相手であったらしい。
──と言うのも、その相手方と言うのは、『近隣の街』の冒険者ギルドを通じて、『救援要請依頼』を受けた『金石冒険者達』だったのだという。
そして、その者達はこの『街』を救う為に本気で『ドラゴンを討伐しに来た』らしく……。
もっと言うならば、率直に言って『ドラゴンと戦いたい』者達らしいのだ……。
『…………』
……なのでもう、この時点である程度は『お察し』だとは思うのだが──。
現状、『お祭り状態』に近しい『街』の余興の一つとして、誰が考え付いたのかは知らないけれども……。
要は、実際に『ドラゴンの襲撃』を防いだ『竜使い』の腕前も知りたいから……その『金石冒険者達』は『ドラゴンと戦わせてくれ!』と言ってきているそうなのだ。
それに『街』側としても、多くの者達が避難していた為、激しい戦闘音などは聞こえていたのだろうが、実際に私が戦っている所などは見えていなかったのだと。
唯一、実際に戦闘の連絡役として派遣されていた『女性ギルド職員』も、一応報告はしてくれたのだが『気絶』していた事もあってか、情報の確度がちょっとだけ不安でもあるからと……。
なので、『竜使い』の凄さは何となく分かるのだが──正直本当に『その子供のドラゴンが、そんなに強いのか?』と思う者達も未だ多いというのである。
そこでだ。『お祭り』だし『怖いもの見たさ』もあるしで……結果、『金石冒険者達』の思惑にも便乗して『街』側はその余興に対し多額の賞金まで出しているのだとか。
『…………』
……まあ、私やエアは簡単に撃退しただけだし、あまり報酬にも興味はなかったので要求も多くは求めなかったのだが──結果的にはその『ドラゴン襲撃』の『予想被害額』は一部その賞金へと充てられているのだと。
それも現状では、『街』は余興を盛り上げるための工夫の一つとして『子ドラゴン』対『金石冒険者達』で、そのどちらが勝つかの『賭け』も実施中であり、それが狙い通り大いに盛り上がっ……。
──ドンッ!!
「……ひぃっ!?すみません!すみません!すみま……」
『……ている』と『宿』の従業員に教えて貰っていたところで、思わずエアさんは『イラッ!』としてしまったのか、足踏みを『一踏み』だけしてしまったらしい。
だが、それでも収まらない気持ちがあったのか──エアは扉の先(『街中』)をいきなり指差すと、突然私に対してこんな事も言ってきたのである……。
「──ロム、ブレスッ!!」
……と。いやいやいや──よーしよしよし、エアさん、一旦ちょっとだけ落ち着こうか。
「ぱう!ぱう!」
「きゅー!きゅうー!」
……なので、それから暫くは『水竜の子』と二人で、私はエアの事を撫でながら宥め続けたのであった。
無論、その効果は絶大だったので直ぐにもエアは落ち着きを取り戻した訳なのだが──。
『手を出したらいけないものに手を出して、痛い目を見たばかりのエア』は、今はちょっとだけ過敏になり過ぎてしまっていたらしい……。
『…………』
……でもまあ、実際そんなエアの気持ちが、正直分からなくもないと感じる私なのであった。
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