第723話 超過。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『…………』
『知覚』できるのであれば、一見するとそこには『白い巨大な塊』が在る事が分かるだろう。
『意識状態』に至っている現状、私達は先ほどまで『街』の上空でぷかぷかと浮いていたと思って貰えればいいのだが……。
そんな空中に居る『聖竜』が、更に上を見上げる程にはその『白い巨大な塊』は大きかったのだ。
……下手したら、雲まで届いているのではないだろうかと思えるくらいには高さもある。横幅も当然相応だ。
なので、眼下に在った筈の『街』などは、その『白い巨大な塊』の下敷きになっている様にしか見えなかった。
ただ、不幸中の幸いと言っていいのか、『意識状態』ではあったからだろう……。
現実的にはその『白い巨大な塊』が『街』の上に鎮座していても、『街』には何の被害もなく、変に『干渉』したりもしていなかったのである。
『街』は今尚、普通に『ドラゴン撃退』で沸いていたのだ……。
『…………』
そして、再度その『白い巨大な塊』の威容を見上げながら──
『えあ……さん?……うそ、だよね……』と。
私は一人、内心でそんな『山を彷彿とさせる白い巨大な塊』となってしまったエアに対し思いを馳せていたのである……。
『…………』
……いや確かに、予想を超える『何か』をエアならばやってくれそうな感じはしていたが。
でも流石にこれは予想の斜め上どころか、予想できる埒外へと飛び超えて行ってしまった感覚であった。
正直『一番ないだろうな』とは思っていた結果だったからか、素直に吃驚した気持ちも強い。
……うむ。
ただまあ、能々考えてみれば、その結果に至るのもわからなくはない、のか……?
というか、単純にそこまで『ドラゴンになってみたい!』とエアが本気で望んだ証でもあるのだろう。
だから、ある意味『聖竜』たる私としては、その意思を尊重したいし、同じ『ドラゴン』としては喜ばしくも思いたいのである。
……うむ。
まあ若干、『甘すぎる』と言われてしまうかもしれないけども、それが私の率直な感想であった。
『…………』
……それに、ちょっとだけ話を脱線させると、そういえば彼女の師匠たる『ロム』なる存在も、時たまに大きなポンコツをやらかす事があると聞いた覚えがあった──。
なので、これは冗談だが、もしかしたらその弟子たるエアも、その師匠の『ポンコツ』が偶々似てしまっただけなのではないだろうか?とも思ったのだ。
……うむ。
それ故ある意味でこれは、師匠の変な癖が弟子にまでうつってしまっただけの話だろうと。
それが良いか悪いかは各々の視点によって異なるだろうが、これもまたあるあるな話なのだと。
こういう異常事態を前にした時にこそ、敢えて前向きになる為にも……そんな『ポンコツ』な部分もまた、個々の『味』でもあると私は思う事にしたのだ……。
『…………』
……さてさてそれでは。少々唖然としていて話を脱線してしまった訳だが、そろそろ正気に戻ろうかとも思う。
というかこの間も密かに『意識状態』で移動しつつ、『山を彷彿とさせる白い巨大な塊』(エア)の顔となる場所を探し回っていた訳なのだが──全体像がちょっとばかり巨大過ぎて、少々探すのに手間取ってしまっていたのである。
だが、それもようやく発見し──なんとか顔となる場所を見つけだすと、やはりそれが『とんでもなく大きな白いドラゴン』のそれだと分かり……。
尚且つ、現状エアの『意識』の方も、思わぬ失敗に伴って『ただ目を回している状態』である事も分かったのだった。
なので、要は『エアの無事が確認できて、私もほっと一安心している』と言ったところだ。
『…………』
……無論、一見した限りではある為、絶対に無事であるとは言いきれないのだが──
その『とんでもなく大きな白いドラゴン』は既に形状も崩れかかってきており、次第に元の姿へと戻ろうとしている気配も感じたのである。
なので恐らくは大丈夫ではないかとも思う。
……その崩れる様子からして、最初からエアはある程度崩れやすいものを作っていたのだろうと。
それに、本人が目を回しているにも関わらず勝手に戻ろうとしている所からも判断して、『失敗しそう』になったら自然と元の姿へと戻れるようにと、初めから対策も講じていた事が分かるのだ。
よって、このまま形状が保て無くなるまで見守っていれば、自然とエアの姿は元へと戻りそうだが──まあ、一応『干渉』もさせて貰って、万が一がない様にとちゃんと支えておこうとは思った……。
『…………』
……うむむ。
ただそうして実際にエアへと『干渉』してみた所──追加で分かった事なのだが……。
ちゃんと対策はしてあっても、エアは思った以上に『ポンコツ』を発揮してしまった状態らしく……。
『意識状態』の一部が、先の不思議な白光と共に、世界のどこかへと飛んで行ってしまった事が分かったのだった……。
そして、それはもう既にどこへと飛んでいったのかも不明である。
……だ、だが、それでも言うて損失はそこまで多くはなかったのは幸いであった。
なので、現状の残りでも十分にエアは元の姿を取り戻せるだろう。うむ。大丈夫なのだ。
一応、勝手に『干渉』もしてしまった手前、折角なので私の『力』を使ってその損失の一部を出来る限りで補填はしておこうか……。
『…………』
……うむ、これで万が一もないと思える状態には持って行けたと思うのである。
ほぼほぼ完全に安心していいだろう。
ただまあ、この状態を見れば分かって貰えるかとも思うが──この通り『身体の再構成』と言うのは、思った以上に大変なのである。
そもそもの話、『力』の損耗だけを考えても尋常ではないのだ。
エアが元へと戻るまでまだ少しかかると思うので話をするが──。
元々自分が具えている『魔力量』を『十』として考えた時、その身体を再構成をする為に、『素材として必要とする魔力量』は元々具えていた分と等しく『十』となるのは分かり易いかと思う。
ただ、そこから更に『素材たる魔力』を操り、加工するだけの『魔力』が必要になる上──
もしも複雑なものへと姿を変えたい場合などには、『魔力消費量』も相応に跳ね上がって、最終的には『二十にも三十にも』なったりする事があるのだ。
なので、膨大な魔力を扱える『白銀のエア』であっても、慣れていない現状では『小さな子供の姿』でしか今までは再構成が出来ていなかったのが現状なのである。
その上、本来『身体の再構成』をする対象としては『一番楽』な筈の自らの身体でさえ、それだけの損耗がかかる訳で──なので言うまでもなく、尚更に今回エアがやろうとしていた事──『ドラゴンになる』が如何に大変な事だったか、より分かって貰えたかとも思うのだ。
また同時に、それが如何に『危険』な行いであったのかも……。
『…………』
──無論、『世界』には似た様な魔法として、『何かに姿を変える魔法』というのも存在するかとは思うのだが……。
正直あれは、実際に身体が変わっている訳ではなく、自らの『存在』の外側に『まやかし』を施して偽っているだけなので、『身体の再構成』とはまた別物だと考えて欲しいのである。
それに、『身体の再構成』の方は大きく分けて三つ──元々の『意識』を残しつつ、新たな自分を作り、そこに『意識』を移す、と言った工程が必要になるのだが。
それだけ聞くと、少し簡単に聞こえてしまうもしれないけれども、実際にはその全てにおいて膨大な『魔力』を損耗し、その膨大な『魔力』を精密に扱う『力』も必要になるのである。
そして、その制御が一つでも甘かったりすると今のエアの様な状況になったり、全てが失われてしまったりする訳で──そもそも、普通は自分の具えている『魔力』以上を確保するのも、それを扱うのも、難しいのは言うまでもないのである……。
『…………』
そして、もっと言えば現状の『白銀のエア』においては、『音の世界』の『管理者』でもあった。
その上、『世界』に満ちる『ロムの魔力』をその身体に受け入れて、常に適応しようともエアは頑張っていたりもする。
──要は、普段の様子からはあまり分からないかもしれないが、平然と『天元』を介してその『力』を使いこなしている様にも視えて、その実エアは未だに子供の姿をしている事から察しても、その『力』を十全に扱えきれているとは言えないのが一目で分かってしまうのだ。
……ゴロゴロしている裏でも実は大変な事をしていたのだなと。
『…………』
それに、元々他者の『魔力』は本来であれば自分の体に合うものではない……。
今の『世界』に関しては、私の『魔力調整』と、エア自身の優秀な『天元』の『力』で無理やり適応し続けている様な状態を維持しているに過ぎないのだと。
──なので、そんな色々な事を考慮に入れても、今のエアには『身体の再構成』を行うだけの余裕はまだなかったと言えるだろう。……だから正直、ちょっとばかし手を出すには早すぎたのだ。
それと、これも『干渉』してみて分かった事なのだが──
エアは最初から無理をするつもりは皆無だったようで、元々『聖竜』と同じくらいの『小さなドラゴン』の形態になるつもりだったが、出来なさそうと感じたら直ぐに手を引くつもりではあったらしい……。
ただ、実際にはほんの『お試し』のつもりで、ちょっとだけ『ドラゴン』の土台となる部分を作ろうと手を掛けたのだが──その手を出した一瞬で、エアは完全に制御不能に陥ってしまったようなのだ。手を引く暇など殆どなかったらしいのである……。
『…………』
──まあ、無論不注意であった事は確かだろう。
結果的に危険な事をして、無理もして、こんな状態に至ってしまった事に関しては反論のしようもないとは思うのだ。
小さくたって『ドラゴンはドラゴン』だし、その身体は当然『人』とは違うし、エアからしてみれば手を出すべきか否かの判断がそもそも遅すぎて、甘すぎたのだと。
結果として、制御不十分で『力』が暴走し……思わぬ肥大化と、その後一部『意識』の損耗という散々な状態になってしまったのも、本人の自業自得でしかないのだと。
『…………』
だがしかし、例えそうであったとしても私は、エアのその『力』の使い方を感じて、好ましくは想ったのだ。
何かを作り、楽しみ幸せになる為に『力』を使うのはそれだけで素晴らしい事だと思うから。
……だから、そんなに悲しまないで欲しいとも思うのである。
『…………』
……気づけばいつの間にか、私に『干渉』された事で正気を取り戻していたのだろう。
エアは『白い巨大な塊』となった己の失敗を悟ったらしく──。
崩れかけの巨大なドラゴンの、その大きな瞳からは『──ザブンザブン、ボタリボタリ』と、まるで滝の様な雫が零れ落ちていたのだった……。
またのお越しをお待ちしております。




