第722話 山藪。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『…………』
それでは、ここで突発的な話ではあるのだが、エアが『意識状態』になってまでやりたいと急に言い出してきた事について、私は個人考察をしながら見守っていきたいと思う。
──ぱたぱたぱたぱた……。
……無論、エアの邪魔をするつもりはないので、これは私の『心』の内でそっと考えるだけの──言わばここだけの内緒話だ。
あまりジッと見られていると気が散ってしまう事もあるだろうと、若干『意識』的には横も向いておく……よし、これでいいだろう。
『…………』
さて、ではまず、このタイミングでエアがそれを言い出した事に対し、『何か深い意味があるのだろうか?』と私は最初に考えた。
そしてその上で、『水竜の子』から今度『ドラゴン語』の教えを受ける──という話を傍で聞いていた直後のエアの様子を思い出し、そこから一つ推察をしたのである……。
とは言っても、そこまで大げさな話でもなく──それはズバリ!『エアも私達と一緒にドラゴン語を話したいのだろう!』と、私はそう思ったのだ。
敢えて溜めてから言うほどの事ではなかったかもしれないが……要は、『二人でお喋りの練習をしようね!』と言っていた『水竜の子』の言葉を聞き──
エアも『わたしも二人と一緒にお喋りしたいなぁ……うずうず』となってしまったのではないだろうかと、そんな予想を立ててみたのである。
『…………』
……うむ、まあ、これは素直にありそうな予想だと思えた。
寧ろ、『考察』と言っておきながら何の捻りもないし、証拠すらもただの状況証拠の寄せ集めでしかない話なのだが──そんな何ともあやふやな予想が、実際『正解』に近しい気がしている。
本来の姿とは異なり、現状の『白銀のエア』は子供に近しい体躯をしている事もあってか、その思考もだいぶ子供寄りな感じになっている気もするので……『一緒にお喋りしたい!』という理由だけで全力を出すのも吝かではなかったのではないかと。
──なので、一旦それを仮に『正解』として、エアの目標が『ドラゴン語を一緒にお喋りをする事』だとした場合、その目標を叶える為にエアがこの後取るであろう方法を次に考察したいと思うのだが……。
まず、考えられるその方法としては、何らかの『道具』を作ってそれを用いる事で会話する方法が真っ先に頭に浮かぶ。
……そもそも、『人』の声帯と『ドラゴン』のそれでは違いがあり、同じ『音』を出そうと思っても出せるものではない事は言うまでもない。
なのでその補助として、何らかの『道具』を使う事は何も不思議ではないと思うのだ。
それこそ『水竜ちゃんの籠』を作った時と同様に、エアが魔法使いとして物作りの楽しさを覚え、此度もその方法を取る可能性は十分にあるだろうと──。
『…………』
──ただその場合、一つ疑問となるのは、『『意識状態』に至ってまで作りたいものとはなんだろう……?』という話にはなる。
……寧ろ、色々な素材がある向こうの方が『意識状態』でやるよりも『道具』の制作には向いているだろうと。
現状、『魔力との繋がりが深くなり、よりその扱いに適した状態』だとは言えるのだが、物作りにも適しているとまでは言えない気がするのである。
なのでそれを考慮に入れると、現状では『道具』を用いる方法は──『候補として無くはない……が、今の所はあまりなさそうかな?』と言うのが率直なところであった。
『…………』
……なので、今度は逆に態々『意識状態』になりたいと言ってきた事に対して焦点を当てれば、もっと『正解』へと近づいていくのではないかと考え──エアが『意識状態』でないと出来ない事についての考察を深めてみた。
そしてエアが『意識状態』になった場合、まず一番最初に私の頭に浮かんでくるのは『音の世界』の活用法で……。
いや、もっと具体的に言うとしたらエア自身の『長所』の一つ──『天元の活用法』と言った方がより正しいのかもしれない。
──だから要は、基本的に『魔素』を身体に通し、環境に適応させる技だと考えられているその『力』を、エアはどうにかこうにか『ドラゴン語』においても適応させて、『自らの身体にドラゴン語を同調させるのではないか?』と、私は考えてみたのだが……。どうだろう、一考に値しないだろうか?
……正直、『天元』がない私にはそれが出来るのかどうかさえも妄想の範囲を出ないし、そもそも『魔素』を通さなければいけない『力』の筈なのに、『ドラゴンの言葉を身体にも同調させるってどういう事?』と、自分でも思ってしまう訳なのだが──。
『白銀のエア』には、『音』に対する親和性があり、彼女は『音の世界』の『管理者』でもある為……『聖竜』には理解のできない何らかの方法で、それを成してしまう可能性は十分にあり得るのではないかと。
『…………』
……うむ、正直ありそうだ。
妄想に限りなく近しい話でしかないものの、この方法が一番私としては考察していて楽しいまであった。
『エアならばやってくれそう……』感も止まらない。
内心、そんな事を考えながら『凄くわくわく』している私が居た。
なので自然と、エアを見守る視線にも期待が──。
『…………』
──がしかし、おっとっと、いかんいかん。
……あまり凝視してはいけない。気を散らせたくはないからと、最初に注意しようと思っていた矢先の事だ。もう少し気を付けて自制しておこう。エアの邪魔をしたくはないのである。
それに、先も思ったことだが、現状の考察は私の『心』の内だけの秘密の話だ。
なので、例えそれがエアの出す結果と異なっていたとしても、私は全く構わないのである。
……寧ろ、考え方は人それぞれ異なって然るべきものだとも思うので、考えが外れていても自然だと思う。
それがどのような結果であったとしても、それこそがエアの望んだ選択であり、試してみたかった事であるならば、それはエアの『正解』であり、誰かに否定されるべきものではないのだと……。
──まあ要は、簡単に言うと自分の考えと違っていたからと言って、それだけで怒ったり嫌いになったりする事はないよ、というそんな話でもあった。
それに、もし異なる場合を考えられるなら、『果たしてその方法とはなんだろうか?』と、更に考察を広げる楽しみもあるのだ……。
『…………』
……ただ、もしも本当にその様な場合、現状で私に考えられる方法として残っているのは──
『エアがドラゴンになる』とか、そんなとんでもない方法くらいなのだが……。
でも、流石にそれは、そもそもエアが『性質変化』が出来ない事と、『肉体の再構成』にも未だ不慣れである事などから、選択肢としては『大変危険』な部類に入ってしまう為、考えなくてもいいとは思うのである……。
エアも、『危ない事をするつもりはない』って、最初に言っ──
──ドオオオオオオオオオオオオオオオーー……ン。
『…………』
……すると、その瞬間、まるでタイミングを見計らっていたかの様に、横を向いていた私の『意識』は、突如として発生した不思議な白光に包まれたのだった。
そして、半ば唖然としながらも、白光が収まりその発生した方へと『意識』を戻すと──
なんとそこには、巨大な山をも彷彿とさせる『何か』が居る事だけは私にも一目で分かったのだった……。
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