第721話 随感。
(前話(720話目)の加筆前を読んでしまった方々申し訳ありません。後半部分等に少々加筆をしましたので、この場を借りて報告させて頂きます。)
「──ロムわたしね、ちょっとだけ考えてることがあって、それを今から試してみたいんだけど……やってもいいかな?」
『宿』の外では、人々の喜びに満ちた喧噪が薄っすらと聞こえる中、本来ならばその喧噪の中心にいてもおかしくない私達は、敢えてその煩わしさを避け、ベッドの上でゴロゴロしていたりする。
そして、三人並んでもまだベッドの方が大きいと感じるくらいくっ付いた状態でのんびりと話をしていた訳なのだが……不意にエアがそんな事をいきなり言いだしたのだった。
……ふむ、何かしらやりたいことがあるらしい。
それももう少し詳しく聞けば、その為にはどうやら『意識状態』に至る必要がもう一度あるという事で、出来ればまた『意識状態』へと導いて欲しいという話でもあった……。
「ぱう」
……無論、それ位はなんでもないので、私は直ぐに頷きを返す。
「ほんとにっ!やったっ!──よし、それじゃあさっそく……」
「……ぱう?」
「…………」
ただ、『──導くのはいいけど、何をしたいの?』と一応訊くと、途端にエアはぷいっと視線を逸らしたのだ。
……あらら?ど、どうやらあまりその事については言及して欲しくないらしい。
でも、そうなると途端にあやしく感じてしまうのは言うまでもない話で……。
その為、自然と私は……あとついでに傍にいる『水竜の子』も一緒になって、エアへとジトーっとした視線を向けている──『何か危ない事をしようとしているのかな?』と、それを懸念しての視線だった。
ただそうすると、そんな私達の視線を受けたエアは手をぱたぱたと横に振って、『ちがうよ!』と反論してきたのだ……。
「──あ、あのね。別に危ない事をしようとしてるわけじゃないの!ただね……」
……と、エア曰く『上手くいっても失敗しても、その時はちゃんと正直に報告する気持ちはあるの!でもね、とりあえずは先に実際に出来るかを自分だけで試させて欲しい』との事であった。
『…………』
ただ、そんな話であれば私としても『なるほど』と、思うばかりだ。
要は、『否定されるにしても肯定されるにしても、誰かしらの考えを自分の中に入れるよりも前に、先ずは最初に己の考えを形としておきたい感覚』なのだと思ったから……。
だから、決しては理解は出来なくもない話だと。
それに『聖竜』としても、空を華麗に飛び回る為に毎日『ぱたぱた』の練習をしているのだが……あれだって言わば完全に自己流である。
『ほんとは実際に飛んでいるドラゴン達の真似をすれば早いだろう』とか、『【風魔法】を使って飛んだ方が明らかに楽なのに』とか、そんな事は分かりきった上で自分の考えを貫いてやっている部分がある訳なので、ある意味ではエアのその考え方と近しいとも思えた。
なので、魔法やその他、感覚的な部分が大切とされる事柄においては、『己の感覚』を大事にしたいが故の行動を選択するのは、なんら不自然でも間違いでもないと私も思ってしまう派である。
……寧ろ、時にその選択が遠回りになると分かりきっていても、敢えてそれに勝る経験は無いと考える場合まであり得るだろうと。
──それこそ『魔法使い』であるならば尚更に、自分の感覚を大切にしない者が『差異』など超えられる筈もないのだから……。
『…………』
という訳で、私は『それならわかった』という意味を込めて、ジト目を止めエアへと頷きを返したのだ。……エア本人も『危ない事はしない』と言っている訳だし、これ以上は心配し過ぎだとも思う。
よって私は早速と、そのままベッドに寝転がるエアを身体を翼で包んで──またも『疑似領域』を作ろうとた訳なのだが……そうすると、ちょうどよく『水竜の子』も一緒にゴロゴロと間に転がってきて一緒に翼の内側に入り込んできてしまったのである。
『……おっとっと?どうしたのかな?』と、一応はその行動に吃驚はしたが、まあ敢えて問うまでもなく、その気持ちもまた理解は出来なくなかった。
……なので、『意識状態』にまでは導いてあげられないけども、『それでも良ければこのまま私達の間に居るかい?』と、私は彼女にも訊いてみたのである。
「きゅー!きゅきゅきゅ」
……居たいらしい。なので、『水竜の子』にはこのまま間に居てもらう事にしよう。
なーに、向こうとこちらの時間差を考えれば大した問題にもなるまい。ちゃちゃっと済む話だ。
それに、この翼で包んだ空間を『疑似領域』と化しても影響は一瞬の事……それも、その影響を極力出さない様にと少しだけ調整も加えておけば完璧だろう、と……これでよし。
そして、後はエアを対象に、また『導く』だけなの、で──はい。こちらも完了である……。
『──ありがとロム!それじゃ、早速ちょっとだけ試してみるね……』
……うむ、実際上手くいったようだ。現状は問題もなさそうである。
そして、瞬時に『意識状態』へと至った事を理解したエアは、早速とばかりに深く集中し始めていた。
『…………』
さてさて、それでは『意識状態』になってまで、いったいエアは何をするつもりなのだろうか……?
内心、その行く末を色々と予想しながら、ワクワクしつつも静かに私は見守り続けるのだった──。
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