第720話 口吻。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
2022・01・31、本文、加筆修正。
『人』同士の戦いもあれば、『ドラゴン』同士の戦いもまた『世界』のどこかでは知らずに行われている、という事でもあるのだろう。
『ドラゴン』という種族の中での縄張り争いが、偶々私達が居た街の近くで起きただけの話……。
それこそが此度の『ドラゴン襲撃』の真相であり、『人』としてはただただ巻き込まれただけに過ぎないのだと。
『街』側としてはなんとも困った話だが、幸いにして偶々居合わせた『白銀の竜使い』の活躍によって大きな被害もなく『水竜達』の撃退に成功したため、『聖竜』がトボトボと歩いて戻ってきた頃にはもう『街』は既に大きな盛り上がりを見せていたのであった……。
「──ロムおかえり!お疲れ様っ」
「……ぱう」
「きゅうー、きゅー」
「ぱぅ……?」
「きゅ!きゅ!」
ただ、そうして私が戻ると、エアと『水竜の子』は至って普通に出迎えてくれた訳で──
それが不思議と、私には嬉しく感じたのだった……。
二人の表情を見ると、それだけで自然と『心』が落ち着くのも感じつつ……私は『水竜達』との対話で何があったのかを簡単に彼女達へと説明していったのだ。
そして、逆にエア達の方の話も聞きながら──二人も当然の様に現状の『街』の活気に驚いて、『巻き込まれたら面倒そうだ!』と感じたから早々に『宿』まで戻ってきたのだというそんな話を聞いて、思わず微笑ましくもなった……。
『…………』
……そうして、それからはいつの間にか、気づけばまた帰って来て早々に私達はベッドの上でゴロゴロしながら話に興じている。
そして、『水竜の子』が知る限りの情報も交えながら──『天動』『地動』『水流』と、そんな三つの派閥の分かれて争う『ドラゴン』達の生態や、彼らが常に新しい住処や居心地の良い環境を探しているらしいという話もした。
特に、『水流派』においては、体のつくりが『水竜』という種族のくくりにはあっても個体差が大きく──その形態は一般的な『蜥蜴』に近しい姿から、『蛇』の様だったり、『亀』の様だったりという違いもある為に、住処に対するそれぞれの拘りは他派閥よりも大きいという話は興味深くもあったのだ。
彼らの縄張りに対する考え方が──『広ければ広いほど良く。多種多様な環境があると尚良い』という思考になりがちだとも聞いて、ある意味此度の件も納得できた。
……時にはこうやって上陸し、近場の生物を淘汰する事が彼らの『習性』だったのだと聞けば、『なるほどな』と。
「──あれ?それよりもさ……ロムって前からそんな声だっけ?」
……ふむふむ、そうかそうか、なるほどな。だが、その『習性』は私達からするとなんとも迷惑な話だとも思うのである。
ただ、彼ら視点ではそれが必然だからやっているだけなので、一概にそれを──って、おやおや?何かなエアさん、くすぐったいのであんまり私のお腹を突かないでください……。
「……ぱうっ」
「……ふふふっ、ねえロム、その声どうしちゃったの?」
……うむむむ、まあ、私も久しぶりに声を出した気がするので、こんな声色になっているとは思いもしなかったのだ。だ、だから、エアが気になっても仕方がないとは思う。
でも、エアから『ロムがまたかわいい~!』と、現在は激しく執拗に撫でられ続けている状況なのだが──正直、『聖竜』としてはちょっと高めなこの今の声に『威厳』が不足していると感じているので、あまり嬉しくはないのである。
出来ればもう少し渋い感じの声が欲しい……。
──因みに、一応『水竜の子』にも確認をしてみたところ、やはり私の今の声量では意図したものより不足している為か、ドラゴン達が話す言葉の内容としては、ちょっとだけ意味合いが異なる部分があったり、不適切だったり、『口が悪め』な雰囲気も感じてしまうとの事……。
「…………」
なので私は、今回の件で『ドラゴンの言葉遣い』にもこれからは気をつけなければいけないと、そう思ったのだった……。
無論、使い所は限られるかもしれないが、また同様の事があるかもしれないし、一応は具えておいてた方が良いだろうなと。
それに、『ドラゴンの言葉』に関しては『水竜の子』という生粋の使い手が傍におり、心強くも彼女がとても協力的だったのである。
『──気になるなら今度からはもっとお喋りもいっぱいしようねっ!一緒にお話していれば直ぐに覚えるよっ!』と。
そう言って貰えたので、私はそれに完全に甘える事にした。
……すみません先生、これからは時々『ドラゴン語』のご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いします。
「きゅ!きゅー!」
……すると、『水竜の子』はそれを快く引き受けてくれたのであった。とても優しい。
それに、彼女からしても何気に教える立場になるのが楽しみでもあるそうだ。初めての経験にワクワクすると。
「……いいなぁ、なんか二人だけで楽しそうな事をしようとしてる。うーん、わたしもがんばったら……ブツブツ、ブツブツ……」
……因みに、傍で私のお腹を突いたり撫でたりしていた『白銀のエア』は、その話を聞いてからは何かを深く思案し始めていたのだ。
ただ、なんだろう──そこはかとなくその様子からは『怪しげな企み』の雰囲気を感じてしまうのだが……気のせいだろうか……?
またのお越しをお待ちしております。




