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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第719話 抑揚。




 翼を大きく広げたまま、唖然としている『水竜達』の方へと近寄っていくと──


 『聖竜()』の接近に気づいた『水竜達』は『ギャウギャウッ!!』、『ギュオオオ!!』と、声を荒げ始めた。


 『ブレス』を相殺された事で一瞬呆けていた彼らだが、未だ負傷したわけでもないので元気は有り余っているらしい。



 ……因みに、聞こえてきたその言葉だが──『なんだあの小さな竜は!?』と、『地動派の者か?それとも天動派の者か?だが、『人』の街から来たようにも見えるぞ!?』と、そんな様な内容であった。



 『…………』



 そして、そんな言葉を発している以外の『水竜達』は、慌てて再度『ブレス』を放とうと魔力を高めている者だったり、自分達が『泥』で拘束されている事に気づき、そこから抜け出そうとジタバタしている者だったりが居る。


 ……現状、彼らがどうして海から出て来たのかはわからないが、当然の様に未だ『負けた』とは思っていないのだろう。



 それでも幾らか、『逃げた方がいいんじゃ……』と思っていそうな者も見受けられるが、それ以外の者達が血気盛ん過ぎて言い出せない様な雰囲気にも感じた。



 どうやら、『聖竜』たる私の威容がまだまだ彼らには響き渡っていないご様子……。


 ならば、更に近寄りつつ、翼も気持ちもう少しピンッと張っておくとしよう……。



 ──バサリッ!……パタパタパタパタ……。



 『…………』



 ……ただまあ、言わずもがなだが、基本的に私達は好き好んで戦いに赴いてきた訳ではない。


 なので、このまま戦いが続くよりかは、大人しく彼らが彼我の戦力差を思い知って、諦めて引き返してくれる事を望む。



 ──という訳で、私はそのまま威厳を示しつつ、彼らに話しかけたのである……。



「……ぱうっ」



 『……何しに来たのかはわからないけど、危ないから海に帰った方が良いぞ』と。



 ……まあ、聞き慣れないかもしれないが、普段はあまり喋る必要がないから話さないだけで、実は私もちゃんと声は出せるのだ。因みに、今のがそう。



 ただ、相手が『ドラゴン』じゃないと使えない言葉なため、エアとの会話では文字を使うようにしているし、『水竜の子』ともどちらかと言えば仕草でのやり取りする方がお互いに伝わりやすいため、あまり多用はしていない感じであった……。



 なので正直、普段そんなに使ってない言葉を久しぶりに使ったせいでか、若干私の言葉はぎこちなさを感じる。……普段から声を出していないと、声量も少し落ちてしまうのはある意味で仕方のない話。


 ただ、『ドラゴン』の言葉においては、そんな声量がある意味では言葉の内容を変化させる意味合いも含んでおり──


 無論、今私が話した言葉は当然の様にただただの彼らに忠告を促すつもりで発しただけなのだが、向こうにはそれが上手く伝わっただろうか?内心、それがちょっと不安でドキドキもしているのである……。



「……グガアアアアーー」


 『……ほほう、『雑魚が何しに来た?』だと?それに、『今すぐ海に帰らねば、我らをこの場で全員葬る』とまで申すか……』



 『…………』



 ……えっ?あれ?そ、そんな事は言ったつもりな──



 『──ふざけたことをっ!我々が貴様一人などにッ』


 『──だが待てっ!先ほどの我々の『ブレス』をこやつはたった一人で相殺したのだぞ……悔しくはあるが、恐らくは……』


 『……そもそも、地上の事は少々我々にとっては疎い部分でもある。まさか他派閥の竜にこんな種族がいるとは思いもしなんだ……それに、幼子でこれだぞ……もしこれの大人が来れば……考えるまでもあるまい……』


 『確かに。ならば、ここは一旦引くべきか?』


 『──ばかなっ!ここまで出てきて今更帰るというのかっ!ありえん!情報では、天動派も地動派も今は弱っていると聞く!ならば、今こそが我ら水流派の勢力を押し広げる好機なのだぞっ!』


 『だが、ここで戦えば我々の命もあるまい。……よく足元も見よ。熱くなって気づかなんだが、知らぬうちに土で身動きを封じられておるわ。……この様な状態では先の『ブレス』の恰好の的になるだけ』


 『……だが、しかし……』


 『なに、此度はこのような種族の竜が他派閥に居る事を知れただけで収穫だ。焦る事はあるまい──それに、元々我らの住処は広大な海にこそある。我らの真の力はそこでこそ活きるもの。この場で引いた所で我らの恥とはならん』


 『……然り。この場は生きて戻り、この情報を広める事が優先だ』


 『……くっ、それこそが水流派の為になるのだな?』


 『ああ、その通りだ。……因みにだが、小僧、お主の種族はなんと言う?……なに、『聖竜』?この世の支配者、だと?』


 『……ふむ、随分な大言壮語だな。愚かではあるのか……。なるほど、それなら戦い方もあるかもしれん──が、地上には子供でも油断ならぬ恐ろしき力を持つ『白銀の竜』がいる訳だな。……よし、此度の偵察は早めに切り上げ、この情報を各地に知らせるっ!帰還するぞッ!!』



「──ギュウオオオオオオオオオオッ!!」




 ……と、そうして『聖竜()』が何かをするまでもなく、結局は自分達でその様な相談をし始めると、それを終えた『水竜達』は侵攻を止めて大人しく引き返し海へと去っていってしまったのである。



 『…………』



 だからまあ……なんだろうな。


 結果だけを見れば、望み通りではある筈なので、喜んでは良いと思うのだが──


 不思議と、負けた様な気分になってしまう私がここにいる……。



「……ぱう……」



 ……言葉とは上手く伝えるのが難しいなと、しみじみとそう思うのだった。





またのお越しをお待ちしております。

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