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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第717話 威風。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。




 宿の者の呼びかけに応じて私達が外へと出ると、そこには既に冒険者ギルドの職員だと名乗る女性が緊張した面持ちで待ち構えており、彼女は『白銀の竜使い』の姿を見つけるとあからさまにホッとした表情を浮かべたのだった。



 ただ、思った以上に事態は切迫しているのか、ホッとしたのも束の間の事──すぐさま表情を引き締め直すとその女性は真剣にエアへと話しかけてきたのである。



 『…………』



 ……そして、エアとの暫しのやり取りがあり、その後『ギルドへ案内します。一緒に来ていただけますか?』という彼女の言葉にエアが頷きで応じると、女性はギルドへと向かって駆け出し、エアもそれに続いたのだった。



 無論、そこからギルドへと向かう道中も時間を無駄にする事なく、彼女は『緊急事態』の内容を掻い摘んでエアへと説明し続けており、その説明のおかげで何が起こっているかを私達は大体把握する事ができたのである。



 ……というのも、そのギルドの女性曰く『ドラゴン襲撃の恐れがあります!』と。



 因みに、私と『水竜の子』は『竜使い』と言う事になっているエアにガシッと掴まると、振り落とされない様に注意しつつ一緒に付いて行っている状態だ。



 『…………』



 そうして、冒険者ギルドへと辿り着くと、今度は『高位冒険者』の一部が招集されているらしき一室へと案内される事になり、そこで私達はより確かな情報を教えてもらう事が出来たのだが……。


 正直、先ほど女性が掻い摘んで説明してくれた以上の情報は現状無い様なもので──



 『──報せでは、ど、ドラゴンの群れが、近海から上陸しようとして、何故だかこの街の方角へと向かってきているそうです!』と。


 『ドラゴン達の注意を一時的にでも逸らすか、できることならば撃退をお願いしたい!』と。



 『街の兵力では討伐する事はほぼ不可能だろうから、後は出来るだけ時間稼ぎをし、その間に住民の避難誘導を優先するのが目的だ』と。



 『それで現状、街にいる冒険者達でこの依頼に応じて貰えそうな存在は君達だけだ。特に『金石冒険者』である『竜使い』殿には期待している。何とかドラゴン達を翻弄して時間を稼いで貰えないだろうか……』と、そんな話であった。



 ──要は、ある意味で『囮になってほしい』という様な依頼が提示された訳だ……。



 『…………』



 ……だが、そんな依頼を聞いたエアには他に思うところがあったのか、それに対して難色を示す事もなく、普通に受け入れるだけであった。



 そもそも、その時の彼女の表情は不愛想を装いながらも、その実『嬉しそう』な事を密かに私は気づいていた……。




「……『竜使い』殿には済まぬが、わしは、ギルドマスタがーではあるが戦闘能力ではなく、事務能力を買われてこの立場に居る。だからたのむ、街を救うのに協力してくれ。一体でも恐ろしいドラゴンが、群れを成して襲いかかって来る事など、そうそうある事ではない……。無論、無茶な要求だという事は重々承知している──だから、最悪敵わないと判断したなら逃げて貰っても構わない。今までに前例もない事態で、時間的には戦力の収集も近隣の街から間に合いそうにないのだ。住民の避難も恐らくは間に合わんじゃろ。……だが、それでもわしらは、わしらに出来る事を最後まで行いたいと思う。抗えるだけの手段を取り、命ある限りは冒険者であり続けるつもりだ──」




 ……と、どうやらエアはそんな『ギルドマスター』の態度も含め、この街に居る『冒険者達の気概』と『誠実さ』を殊の外好意的に捉えていたらしい。



 目の前にいる『ギルドマスター』は一見すると見た目も筋肉質という訳でもなく、魔法もあまり使えそうには見えない──寧ろ、どこにでも居そうな普通の初老の男性にしか見えないだろう。



 だが、ある意味で『荒くれ者共のまとめ役』としての役割が『ギルドマスター』には自然と求められる中、他のギルドマスターとは違って彼の様に事務能力を買われてその立場にある存在を、エアとしてはかなり稀有に感じていたようだ。



 その上、その人物がただ単に稀有な存在というだけではなく──周りのギルド職員たちの様子を見ても分かるように、その役割を十全に全うしている事も雰囲気から察したのだろう。



 ──要は、彼は決して強い訳ではない……がしかし、その立場において決して『ただのお飾りなどでもないのだ』と。



 ……恐らくだが、きっとエアにはそれが一目で分かってしまったのではないかと私は思ったのだ。



 『…………』



 聞けば、時代と共にギルドもまた変化していくものではあるが──


 時として『高報酬を払えば不満はないだろう?』とか、『権力があれば依頼を断れないよな?』とか、そういう風に考えてしまいがちな『ギルドマスター』も居る中……。


 エアとしては、彼の様に『気骨のある冒険者らしい存在』を見つけると、ついつい嬉しくなって協力したくなってしまうのだという。



 だから自然と、彼らを『肩を並べるに足る存在』だと判断したエアは、『ドラゴン達の対処はわたし達が引き受けたい』と、自らそんな提案もしていたのだった……。



「──なので、わたし達は、わたし達のやり方で協力させて貰うってことで良いっ?」


「勿論だ。……寧ろ、やってくれるのであればこちらからも最大限の協力はする。少ないが出来る限りの戦力もそちらに集めて──」


「──あっ、ううん。それはいいよっ。戦力に余裕があるなら、それは全部街の方の避難に充てて」


「……ん?というと?」


「襲ってくるドラゴン達の相手は、わたし達だけ(・・)に全部任せて欲しいのっ。討伐はしない予定だけど、街までは絶対に行かせないようにできると思うから。安心して──」






 『…………』



 ──という訳で、情報通り近海より接近してきたドラゴン達に対して、私達が『ぽつん』と立ちはだかっているのが現状である。



 ……まあまあ、実際『大群』とは言っても、精々が二十か、それに届かない位の『成体の水竜達』が来て居るだけの話なのだ。



 だからまあ、『聖竜()』が一人いれば十分だろう、とは思っている。



 ──ぱたぱたぱたぱた……。



「いけー!がんばれロムーっ!」


「きゅーー!きゅううーー!!」


「……あ、あの、ほんとにあんな小さなドラゴンちゃん一人に全て任せてしまわれるのですか……?こんなの、ぜったいに……」



 なので、『竜使い』役であるエアや、そんなエアを守る役としての『水竜の子』、そしてギルドからは一応連絡員代わりとして来てくれた先のギルド職員の女性をその場に残して、私は一人『水竜達の群れ』が居る方へと先んじて──ペタリペタリと歩みを進めていったのだった……。




 『…………』



 ……まあ、これは『竜使い』として名乗った以上は、エア本人が直接戦う事は控えた方が良いだろうという判断での配役でもあった。



 必要ないとは言ったのだが、一応心配だからとギルド側が寄越してくれた女性職員の事もあって、そんな彼女と上手くやり取り出来るのもエアだけだったし、彼女の傍にエアが居てくれた方が安心するだろうと、そういう配慮もある。


 ……ただまあ、不思議とこれでも彼女が不安がっている様にも見えるのだが──うむ、きっと気のせいだろう。



 ──ギュオオオオオオオオオオ!!



 ……すると、そんなエア達の声援を合図にするかのように、『水竜達』もちょうど今上陸を終え、ああして威嚇する様な声を上げながら、街がある方へと続々と侵攻してきたのである。



 その為、『聖竜対水竜群』の戦いはもう直ぐそこまで迫っていた……。



 『…………』




 だがしかし、『水竜達』よ。どうして攻め込んで来たのかはわからぬが……。



 『──そっちがその気なら、私も日頃から鍛えているこの翼の『力』を、今こそ見せつけてやろうではないかっ!!』と。



 ……そんな明らかな強者の雰囲気を醸しつつ、私は己の翼に魔力を集めていくと、それを大きく広げて『水竜達』に見せつける事にしたのであった。



 ──バサリッ!!……パタパタパタパタ……。



 無論、こと自然界において相手よりも自分を大きく見せる事は非常に有効的な手段である……。


 その上更に、私の翼に集っていく『大きな力』に対して、彼らの『勘』が脅威を感じたとしてもそこに不思議はない。



 ……よって、そのおかげか、結果的には上陸し侵攻してくるはずだった『水竜の群れ』は、視線の先に居る私を見つけると、ただそれだけで自然と足を止めてしまうのだった──。




またのお越しをお待ちしております。

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