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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
716/790

第716話 有望。

注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。



 『…………』



 何かしらの『特別な出来事』が起こるのはいつだって、日常のふとした変化の一つでしかないと私は考えている……。


 そして、それはいつだって突然の産物なのだと……。



 もっと言えば、そこには何某かの企みがあって、常に何が起こるのかを秒読みで管理されていて、それが順番通りに『世界』に起きている……という訳ではない事が殆どなのだと。



 まあ、時には仕組まれた場合も有り得るから一概には言えないが──


 少なくとも、今日(・・)という日に限って言えば、それは間違いないと私は思えたのだ……。



 『…………』



 だから、『白銀のエア』作『世界で一番可愛い水竜ちゃんの籠』が完成したその翌日──



 ()が……ごほん、すまぬ、正確には『聖竜()』が大事に持っていた方の『()』が、気づけば部屋の中を『あっちへ行ったりこっちへ行ったり』と普通に歩き回っていたのも……。


 要は、そんな日常のふとした変化の一つに過ぎないのだと……そう思った。う、うむ。思ったのだ。



「ふ、不思議だねー……なんで、何かの魔法を付与したわけでもないのに動けてるんだろう?──でも、これってゴーレム君たちの現象とすごく……ブツブツ、ブツブツ……」


「きゅー!?きゅー、きゅー!!」


「──あっ、ごめんね水竜ちゃん!でも、その子も襲ったりはしないと思うから……きっと、そこまで逃げなくても平気だと思うよ?」


「きゅぅ……?」


 『…………』



 ……エアが言った通り、私達が何らかの魔法や『力』を使った訳ではない。


 なのに、『籠』は歩いていた。


 気づけばいつの間にか『可愛い水竜ちゃんの籠』の傍にはその『籠』がピッタリとくっついており、『水竜の子』が目を覚まして早々、『水分補給』がてら『水竜ちゃん籠』を使って水を溜めていると、いきなりその『籠』が器用にも動きだして、『水竜ちゃん籠』を持つ『水竜の子』を追いかけだしたのである。



 無論、それには当然の様に『水竜の子』は心底驚いたようで、部屋の中を『水竜ちゃん籠』を持ちながら逃げ惑っている……と言うのが先ほどまでの状態なのであった。



 そして、その様子を眺めながら私とエアは『……不思議だねー』と暢気に話しつつも、『なんで動いているんだろう?』と首を傾げている。



 ……歩く機能などつけていない筈なのに、それはなんとも不思議な現象だった。



 ただ、一方エアの方は何かしらの理解があったのか──『まあ、こういう事もあるかっ!』と既に割り切って考えてもいるらしい。


 『水竜の子』を未だ追いかけ回していた『いたずらな籠』の事もひょいっと軽々捕まえると、それを私の元に持ってきてくれたのである……。



「はいロムっ」


 『…………』



 ……あ、ありがとう?


 だが、エアに捕まった途端にその『いたずらな籠』は急に大人しくなり、私の手に渡った後も同様にうんともすんとも言わなくなった。


 ……なので、今ではまるで元のただの『籠』の様である。


 いやまあ、ただの『籠』ではある事は最初から分かっていた訳なのだが──なんだろう?これは実は『不思議な籠』だったとでもいうのだろうか?



 元は、強力な『魔法道具』をいくつも所持しているという『密猟団』が持っていた品物でもあるからして、もしかしたら私達の気づかぬ密かな仕掛けがあったのかもしれない……と、そんな事も少々考えてみる。



「……ロムが直接的に作ったもの以外で、こういう事が起きるのは初めて見たけど……でもたぶん、昨日ロムが『調整』してくれた時に近くにあったから、何かしらの影響を受けたんじゃないかな?」



 ……ただ、エアの方はそんな隠れた仕掛けなどなく、原因はそれなのではないかと推察しているようだ。


 ふむ、なるほど確かに。今まで私達がその密かな機能に気づかなかった可能性を追うよりも、余程その方が現実的にも感じる。



 ……だが、そうすると私は魔法の『対象』を見誤ったことにもなってしまうのだが──


 私ってそんなに魔法の扱いが下手だったのだろうか……。


 正直、それはそれであまり受け止めたくない現実ではあるのだが……。



「──それか、この子もまた、ロムに『強く望まれた』のかもしれないね……」



 ……ただ、そうするとエアはもう一つそんな考えも話してくれて──『籠』を見つめるその視線はとても柔らかに変わったのだった。


 そして、『もしそうだったら素敵だね……』と、その表情はまるでそう語っているかのようだ。



 『…………』



 ……うむ。正直言えば、私としてはどんな影響がでるかもわからぬ『力』など──『危ういもの』、と思えてならない感覚なのだが……。


 ただ、エアのそんな表情を見ていると──段々とその『そのような感じ方もありなのかもしれない』と、そんな風にも思えてきたのである。



 『望まれたから生まれた』……そして、その現実をちゃんと私が受け止めてあげられるならば、それは『籠』にとってもきっと喜ばしい事だろうからと。



 ──せっかく生まれてきたのに『そんな気はなかった』とか、『望んだ結果じゃなかった』だなんて……それじゃあまりにも悲し過ぎるから、と……。



 誰かを笑顔にするために──もっと言えば、私の身近な者達の役に立とうと歩き出してくれたかもしれない『籠』に対し、その変化を大事に感じて支えていってあげようというエアの『心』の豊かさは……正直、今の『聖竜()』にはないものだと感じた。



 また一つ、エアの『凄さ』を目の当たりにした気分だ……。

 そして、自分にはないものを持つ彼女のそんな姿を見る度に──こう、私はなんとも言えない想いを抱く……。

 


 『…………』



 ……同時に、『どうやら君は私に望まれたのかもしれないぞ?』と、『籠』の事も思いながらむぎゅっとしてみたのだ。



 無論、どうやら『籠』は一切反応を返す気はないのか、依然としてピクリとも動く気配はない。ずっと大人しいままではある。



 ……ただ、きっとエアのおかげだろう。



 何となくだが、そのまま凝視し続けているとほんのり腕の中の()が満足している様な、そうな雰囲気を少しだけ感じ取る事ができたのだった。




 だから、きっとこの『籠』は本当に『歩き出すに足る意味を得た』のだと思う……。


 そしてそれは、その正確な部分までは察してあげられないけれども──


 なんとなく、その『力』は『誰かを笑顔にする』為のものであると、ふとその『願い』がちゃんと元となり宿っている様にも感じたのだった。



 『…………』



 ……無論、それがただの『勘違い』である可能性は大いにあった。


 けれども、その内いつか、君が果物でいっぱいになって、それを手にした『誰か』が笑顔になってくれる未来を──そんなささやかな『幸せ』を、またそっと『籠』へと私は願っておいたのだ。



 本当に、何かを『望む』だけで結果に繋がるというならば、私はいつだってそれを望もう。

 そして、それこそが君にとっての『歩く意味』にもなるのならばと……。



 ──コンコンコンッ!!



「──んっ?ノック、だね……でも、こんな朝早くに誰だろう?宿の人だとは思うけど……」



 ……だが、ちょうどそんな時分に突然、部屋の出入り口から扉を慌ただしく叩く音が聞こえてきたのである。


 そして、それは案の定エアの予想通り、宿の者が訪ねてきたものではあったのだが──。



「──朝早くにすみません!『竜使い』様。緊急事態です!至急ギルドにお越しください!!」



 ──と、そんななんとも言えない厄介さを感じさせる言葉も一緒に聞こえてしまったのだった。



 『…………』



 ……無論、これが『籠』に『望んだ』からこそ起こった出来事なのかは私にもわからない。


 だが、なんにしてもそうそう都合よく『良い事』ばかりが起きるのが日常ではないという事ではあるのだろう。


 それに、間違いなく私達の日常は、今はまた突発的な変化を起こそうとしているのだと、それだけは直ぐに分かったのだった……。





またのお越しをお待ちしております。

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