第714話 果然。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
(2022・1・24、本文を微修正しました。物語の進行に変更はありません。)
日常のほのぼのとした『幸せ』を感じながら、私達は今日もどこかの見慣れぬ街並みの中に居た……。
目的地はあるが、【転移】すれば直ぐの距離をこうしてのんびりと歩き続けているのには理由がある。
無論、その理由としては、旅の中のこの一見すると『無駄』にも思えかねない時間の中にこそ、ほんとは掛け替えのない『幸せ』が潜んでいるのではないかと、そう思えたからだ……。
『人』によって『幸せ』の感じ方も様々あるのだろうが……少なくとも私達三人にとっては、この時間はきっと意味のあるものだと感じている。
なので、こういう時間を出来る限り大切にしていきたいと『聖竜』もまた強く思ったのだった……。
『…………』
『世界の命運』を懸けて、またどこかの大陸では別の誰かが激しい争いをしているのかもしれない……。
だがほんとはそんな『戦う力』などなくとも、『幸せ』は感じられるし見つけられるのだと──。
そして、今日は今日の分の『幸せ』を見つめる為──『水竜の子』が気に入る『可愛い籠探し』の為に、私達は街の大通りをぶらぶらとしている最中なのである。
「あっちのお店行ってみようか?」
「きゅー!きゅー!」
「うんうん、なるほどね。素材は何でも良いと。ただ、大きさと色には出来る限り拘りたいのね。うんうん、女の子だもんね。やっぱり自分用の『籠』は好きなのがいいよね。わかるよ」
『…………』
……わかるのか。流石はエアである。
そもそも『自分用の籠』……という言葉がそこまで聞き慣れなくて『歪』にも感じるが──。
まあ、『白銀のエア』からすれば、きっとそんな些細な『歪さ』くらいでは問題にも感じないのかもしれない。
寧ろ、気にかけるべき影響の大きい『歪』な出来事など他に幾らでもある訳で──。
例えば、元は知り合いの子供達(双子)だったという『黒雨の魔獣』に関しての詳細なあれこれだったり……。
『音の世界』に導いた『勇者一行』と『魔術師達』とのやり取りだったり……。
『世界の仕組み』の一つとして捕らわれた『勇者の心』はその後どんな影響を及ぼしているのかだったり……。
『黒雨の魔獣』と合流したであろう『毒槍』はちゃんと『身体の再構成』を終えているのかだったり……。
『祈りの力』の使い方を知る『聖人』は今どこに居て何をしているのかだったり……。
──と、少し考えただけでもそれだけの気になる『歪』な出来事はこの世に沢山溢れているのである。
『…………』
……ただ、そんな影響の大きい『歪』な出来事よりも、先ずは身近な『幸せ』の方を私達は優先したいと思った。
なにしろ私達からすれば、そんなあれこれよりも余程に『水竜の子』の喜ぶ顔が見られる予定の『可愛い籠探し』の方が大事だと感じたからだ……。
──無論、客観的に考えるならば『人』によっては反論も当然あるだろう。
『他の出来事の方が余程に『世界』に対する影響力があるなら、そちらを優先して然るべきだ!』と。
『それこそ『世界の管理者』を自負するならば責任を持て!』と。
──だがしかし、そもそも身近な『幸せ』も大事にできない存在が、より大きな『幸せ』を見逃さずに受け止めきれるだろうか?とも思う。
……いや、例えそれを見つけられたとしても、その時にはまた何かを零れ落としてしまっている可能性も大いにあり得るだろうと。
だからこそ、現状は影響力の大小に関わらず、常に身近な問題から一歩一歩対応していこうと私達は決めていた。
そもそも『世界』に対しては、先の話で『無理のない範囲で管理する』事にもした以上──それこそ『二兎追う者は……』と言った事態になるのを避ける為にも、身近な範囲にある『幸せ』からちゃんと感じ取って、それを確りと抱きしめていきたいと思うのである。
『…………』
……まあそんな訳で、そろそろ『小難しい話』は一旦おいておくとして──『可愛い籠探し』の方に集中していきたいと思う。
がしかし、そう思いながらも早速、この『街』にある雑貨屋さんで『可愛い籠探し』をしていた訳なのだが……。
「きぃぅぅ……」
「うーん、ちょっと実用的な『籠』ばっかりで、可愛いのはないねー」
「……あのー、お客さん?『籠』なんて基本的に『可愛いさ』なんて求められて作られるものじゃないですから──だからその、大変言いにくいんですけど、この街ではたぶん……」
「売ってないかなぁ?」
「ええ、おそらくは……」
「きゅぅ……」
「そっかぁ……」
……と、正直探して早々に暗礁に乗り上げてしまった様な、あまり思わしくない雰囲気が漂い始めていた。
と言うか、比較的大きな街だからと、色々と品揃えが豊富な雑貨屋さんに入ったまでは良かったのだが──その店主さんが言う通り、この街が海沿いであるという影響を鑑みなくても、『可愛い籠』という存在がそもそもかなり希少で、あるかどうかも疑わしい状態なのだとか。
『下手したら一個も存在しないかも……』と言う、この道三十年の店主さんの言葉に私達は困ってしまっていた。
それも彼曰く『きっと雑貨屋以外の魔法道具屋などを見回っても一緒だろう』と言うのだから、もうこの街で探すのは手詰まりにも近しく感じてしまう……。
『…………』
……確かに、『籠』の使用用途を考えるならば、『そもそも可愛さ要素が必要なのか?』と思う気持ちもわからないではないし、お店に一個も売っていないのもある意味当然なのだとも思う。
それに『水竜の子』としても、現状『聖竜』が持っている『籠』を見たから『自分用』が欲しくなっただけで──本当にそこまで必要としているのかと問われれば困ってしまう所があった。
……まあ正直、分かっていた事ではあるが──『使用用途は不明』というか、未だ何に使うかは定まっておらず、そこまで深く考えてもいなかったらしい。
その為、それを訊いた店主さんからは『──それなら、ただの『遊び道具』、または『おしゃれグッズ(?)』としてしか考えていない以上、別に『籠』じゃなくてもいいんじゃないか?』と、彼にもそうはっきりと言われてしまったのだった。
『可愛い玩具や楽しい商品が欲しいだけならば他にも商品はあるし、そちらを買った方がいいぞ?』とも。
もっと言えば『遊ぶための『使い方』は『籠』には合わないし、手に入れてもどうせすぐに飽きて放り出してしまうんだろう?』と……。
『……なら、そんなの『無駄』になるから、きっと最初から買わない方が良いと思うがな』と。
言外に『道具を大事にしない者に、道具を与える意味はなし』と──店主さんからはそう言いたげな雰囲気も感じ取ったのだ……。
恐らくは彼としてもただ単に商品を売るだけじゃなくて、ちゃんと意味のある商売をしたかったのだろうとは思う……。
『…………』
……なので、結局そんな彼の言葉はぐうの音も出ないほどの正論だと感じ──私達はその雑貨屋さんをすぐさま後にしたのだった。
正直、買い物前と比べて『水竜の子』と『白銀のエア』は明らかに肩を落としており、とても残念そうな表情も浮かべていた……。
「……はぁぁぁ……」
「……きゅぅぅ……」
……溜息も深々である。
『…………』
……ただ、それから暫く、雑貨屋を出てから肩を落としつつ大通りを進んでいくと──。
そこでふと、とある商店(素材屋)がエアの目に留まったようで……急にそのお店の前で立ち止まったのである。
そしてその場で悩むこと数秒ほど──ほぼ即断即決にも近しい状態でエアは『──よしっ』と気合の入れた声をだすと、彼女を心配して『どうしたの?』と問いかける様な表情を向けていた私達に対して、こう告げてきたのであった……。
『任せてっ!こうなったらわたしが、『世界で一番可愛い水竜ちゃんだけの籠』を作ってあげるからっ!』と──。
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