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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
708/790

第708話 水仙。

(微妙に複雑かつ長くもなりそうなので、一旦区切りたいと思います──)


注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。

また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。





 言外に、『黒雨の魔獣の正体は分かっているんでしょう?』と──そう訊ねているだろう『毒槍』に対し、エアは彼女の顔をジッと見つめ返していた。


 ……そして暫くその見つめ合いが続くと、最終的にエアは彼女にこう告げたのである。



 『──うん。知っている子達(・・)(双子達)だと思う』と。



 すると、そんなエアの『答え』が満足するものだったからか、『毒槍』は嬉し気に『ニタリ』と笑みを浮かべている。

 ただ、エアの方はそんな『毒槍』から少しだけ視線を外すと、それこそ昔を思い出すかのように少し遠くを見つめていた──。



 『──内心、最初から……ロムにそっくりな姿を見て、薄々は感じてたんだよ』と。



 あの子達の『力』を考えれば、その姿に変わるのも不可能じゃないとは思っていたから──

 でも、もしそうだとしても、わたしはやっぱりロムと共に在る事を選んだからその想いには応えられなかっただろう、と。



 『あの子達が歩む道と、わたし達の道は別を向いてしまっていると思ったから……』


 『……だから敢えて距離も取っていたと?』


 『──うん。でも、本当は会いに行っていいのかなって、ただ不安に思っていただけなのかもね……。結局、色々な事が重なったから会いに行くこともできなかったし──って、逆にあなたはどう?あの子達の事はどこまで知ってるの?身体の事とか──』


 『あのお方が今の身体へと生まれ変わった(・・・・・・・)経緯ならば、わたくしは凡そ聞いていますわ……それと、あのお方が貴女(エア)を愛し、欲し、求めている事も存じています』


 『…………』


 『……フフ、でも、あのお方が誰を愛していても、あの方を愛するわたくしの気持ちには一切変わりなどありませんから大丈夫ですよ?──いえ、寧ろその『歪な愛』すらもわたくしは愛しく思っているのですっ!』



 ……すると、『毒槍』はそこで急に『黒雨の魔獣』に対する想いをつらつらと告白し始めたのだった──



 『あの方の『歪ないじらしさ』を、わたくしは慕っているのです』と。


 『……貴女に愛されたいが為、貴女の『愛する人』の姿を真似ようとしている事も──その『力』の希少さも、そしてその不器用な『心』も、あの方という存在の『歪さ全て』をわたくしは愛しているんです』と。



 『…………』



 『──それと、これもご存じですか?……あのお方が女性の身体つきをしているのも、実は、憎い筈の『恋敵(ロム)』すらも本当はその『心』のどこかで求め欲してしまっていたからだと──無意識に自らの身体を相応しい型に構成してしまった、らしいんですわよ?』


 『……え?』


 『聞けば、あのお方の中には『心』が一つじゃないそうですから……要は『泥の魔獣』に抱きしめて欲しいと想う『心』もその一つにあったんでしょうね──まあ、貴女としては凄く複雑だとは思いますけど』


 『……えぇぇ、それは知らなかった』


 『フフフ。なんとも言えない『歪さ』ですわよね?……でも、自分の事をこんな風に言うのは何ですけれど、わたくしもとても『歪な生き物』ですから──だからこそあの方の気持ちも痛いほどに分かってしまうんですわ……』



 そう語る『毒槍』は『歪な者同士』だからこそ『黒雨の魔獣』とは一緒に居て心地が良いのだと。


 そして、その気持ちを思えば思う程に、より愛しさも募ってしまったのだと──。



 『…………』



 『神人』という存在として生まれ、生みの親でもある『自称神々』を喰らい戦い続けてきた彼女は──自らの事を『歪な生き物』だと言い切った……。



 その『心』にあるのは、本当に欲しかった『愛情』を与えられぬままに生きてきたという『毒にまみれた』様な悲しき現実だけだったが──今ではもう、貪欲に自らの想いを遂げる為に歩み続けてきたという『誇り高き生き様』だと思えるようにもなったのだとか。



 ……つまりは、『黒雨の魔獣』と出会ったことで彼女は、自らのどうしようもない『歪さ』もちゃんと愛せる様になったらしいのである。


 寧ろ、彼女達『らしさ』とも言える部分であり、これは『個性』の一つなのだと……。



 それに、『人』(他)から見たら短所としてか思えない様な『性質』でも、彼女たち同士であれば分かり合える事も素晴らしく感じたのだそうだ。



 ──だからこそ『毒槍』は、己と同等かそれ以上の『歪の塊』である『黒雨の魔獣』に惹かれてやまないのだと。愛しくて愛しくて仕方がないらしい……。



 『愛されたかったのに愛されなかったから……』と。

 『本当に望むものはいつだって手に入らなかったから……』と。


 ……だからこそ余計に、望まずにはいられなかったそうだ。



 例えそれが『歪』であってとしても、それこそが本当に欲しいものであるならば、それはいつまでも求め続けていいものなのだと、そう思えるようにもなったらしい──。



 『…………』



 『黒雨の魔獣』も、きっと本気で『泥の魔獣』になりたかったのだろうと『毒槍』は語る。


 膨大な魔力が必要なら、誰かから奪ったとしてもそれを手に入れ叶えようとしていたと……。


 『黒雨』という報われぬ涙を流しながらも、貴女(エア)が想いを寄せる人に成り代わってやろうとしていたのだと。



 『ロムの真似をしたからと言って、ロムになれる訳でもないのに……』なんて──例えそんな正論があったとしても、『歪な愛』の前には些細な問題でしかなく、寧ろそれでも構わないと思ったらしい。



 『思いが通じ合う事』が重要なのではなく、『思いを貫く事』の方が余程に大事なのだと、彼女はそう言いたいのだろうか……。



 ──要は、極端に言うならば『片思いしている間が一番楽しいのだ!』と。



 『──最初は、あのお方にそれだけ想われている貴女を羨ましくも思いましたが……最終的には、貴女を想う『黒雨の魔獣』の事をわたくしは慕いたいんだ、という事にも気づけましたわ。そしてそれは、きっとあのお方も同じなのです──ですから、あのお方には今後も『泥の魔獣』を目指して頑張って欲しいし、わたくしはそんなあのお方のお傍でこの先もずっと支え続けたいと思ったのですわ!』


 『……う、うーーん?なるほど?』



 『生き方』が一つではない様に、愛の形も様々あるのだと、ただそう言いたいだけなのだろうか……?

 それとも、ある意味次は『泥の魔獣』と『白銀のエア』を狙うと、そう宣言しているのだろうか……?



 正直、そんな話を傍で聞いていた『聖竜()』としては、『毒槍』の話は捉えどころが難し過ぎて、理解に困ってしまっていたのだ。


 ……因みに、流石に『白銀のエア』もどうやら『歪な愛の良さ』まではあまり理解が及ばなかったらしく、少々首を傾げていたのである。



 ただ、『毒槍』としても最初からその『歪の良さ』を受け入れて貰えるとは思っていなかったからなのか──そこで彼女は急に話を切り替えることにした様で、『そうそう!そういえば──』と、またも突然『にたり』とした微笑みを浮かべるのであった……。





またのお越しをお待ちしております。

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