第705話 縹渺。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『勇者』の陥っている状態を考えるならば──『呪い』と『世界の仕組み』に関しての情報を得る事はとても重要な事だろう。
そして、その事に関して一番詳しいと思える者達は間違いなく『呪術師達』である事は言うまでもない……。
『…………』
『…………』
……ただ、これは『音』に限った話ではないが、『何かを教える側』と『何かを教わる側』において、重要な事柄の一つに『教わる側の力』が大きく関わって来る事は明白だ。
──早い話、『教わる側』が『聞く気がない時』や、話が難し過ぎて『理解ができない時』には、どうしたって仕方がない状況になってしまうのだと……。
もっと言えば、どんなに素晴らしい『芸術』でも、その『理解者』がいなければ意味をなさないのと同義であり──『聖竜』のように『音』に理解がない者では『音の世界』を作れなかっただろうし、そこでやり取りされる話にもついていけないと感じてしまうのと等しいと。
また、『呪術師達』の話を理解できたとしても、それを実践できるだけの『力』が備わっていなければその知識がどれだけ含蓄があり役立つものであったとしても『使いこなせない力』になってしまう。
……それに、そもそも『教える側』である『呪術師達』が、本当に正しい情報を『教えるか否か』も、彼らの判断に委ねられる訳で──もっと言えば、もし彼らが『教えたくない』と思えば、噓を吐いたり適当な事を吹き込むだけで『賢者達』が凄く困った状況になるのは十分に有り得──
『──で?君達は我々に何を聞きに来たのかね?……まあ生憎と、我々も暇じゃないのでね。訊ねたい事が君達に沢山あったとしても、その全てに答える事はできないかもしれない。……だから、付き合えたとしても千年ほどしかないか?少ないとは思うが、まあ、それまでで良ければ何でも聞こう。話してみるがいい』
『……そうだなぁ。我々はこの『領域』にて『呪術師』としての自我を取り戻せた。この『領域』であれば、我々はまた研究を深める事も出来る。わかる事であればなんでも答えよう!さあ、どんとこい!この物知り爺たちが相談に乗ってやろうではないかっ!』
『ここは、これまでに培った技術と経験を全て発揮できる場所──とまでは言い過ぎかもしれぬが、この場所は本当に良いぞ。常に夢も見ていられるしな。……煩わしい喧噪や人の世の醜さも忘れる事が出来る。……もう誰かを憎まなくてもいいのだ。それだけでとても素晴らしい事だろう?』
『悲しみもない。苦しみもない。……ただ、やろうと思えば己の後悔を見つめ直し、どうすれば改善できたのかも研究することが出来るのだ。もしかしたらあの時、ああしていれば……こんな違う未来にあったかもしれないと。そんな可能性も追う事が出来る』
『……お主らも、好きなだけこの『音の世界』を堪能していくと良いぞ──共に『女神に導かれた者』として歓迎しようっ!』
『あ、いや、あの、俺達はその……』
『──なにっ!?『呪い』ついて話が聞きたいだと!!なんと素晴らしいっ!幾らでも話してやろう!!』
『おいおいおい。『女神』は我々に後継者まで用意してくれたというのかっ……なんたる僥倖!!』
『それに『世界の仕組み』に挑むと……なるほど、目標は高いな。それに救いたい者も居るのか……なんと健気な……ぐす……応援せねばな……』
『わからない事だらけ?習得できるかも不安?……なーに、気にするな!例え千年かかっても、『やり遂げる意思』さえあればなんとかなる!『世界』で一番の不器用者がそれを証明しているからのっ』
『それに『世界の仕組み』に取り込まれたのだとしたら、その救いたい者は良くも悪くも変わらぬよ。お主らが助けに来るのをずっと待っとるじゃろ。──じゃから、お主らは万全の準備を整えて救いに行くが良いっ。お主らが変わらぬ限り、その『心』は常にお主らの道を照らす光となろうぞ──』
『…………』
──ただ、『音』を理解できない私の知らぬ間に、実はそんなやり取りが行われていたらしく……。
実際はそんな風にとても順調な様子だったそうだ。うむ、睨み合っている訳ではなかったらしい……。
『聖竜』はてっきり、喧嘩でも起こるんじゃないかと思ってちょびっと心配して見つめていた訳なのだが、全く要らぬ心配だったようだ。
それに、事前にエアからも『呪術師達』には少々『音』(伝言)もあったのか、『賢者達』のあらましを知った『呪術師達』はイキイキと協力したがっていたらしい。
……あと、これも知らなかった事だが──既に『白銀のエア』は彼らから『女神』と呼ばれ慕われてもいるのだとか。
『世界』で暗躍し続けていた『呪術師達の怨念』の姿はとっくのとうに消え失せていた……。
既にもう、すっかりとこの『領域』の住人として大人しく過ごしていたのである……。
『…………』
それもこれも、全てはエアが頑張ってこの『領域』を作ったからであり、彼らが『心』からこの場所に夢中になっているからでもあるだろう。
『誰かの心を救う事に全てを懸けてきた呪術師達』は、長年得られなかった『理解者』をようやく得られたのだ……。
彼らの『心』は、私と同じくエアに救われていたのだと思う……。
『…………』
……因みにだが、私は心配になり『賢者達』の様子を見る為にもここまで来てしまった訳だが、実は『音の世界』の『管理者』であるエアは『領域』の中に彼らを導いただけで入って来てはいなかったのだった。
というのも、先ほどまで居た場所にはまだ『魔力体』が二人ほど残っており──
そこには未だに『聖女』と『毒槍』が、深い悲しみに包まれていたからである……。
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