第704話 韻。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
──『音の世界』、そこは見方によっては何もない様に感じられるかもしれない場所……。
ただ、その『領域』を満たすは膨大な魔力。そして、そこから形を成すは『音』の坩堝であった。
始まりを『零』とするか『一』とするかは、そこに存在する者達によって異なるだろう──
ただ、少なくとも『音』という刺激、またはその響きが無ければ、その環境は『領域』足り得ない場所でもある……。
『…………』
……そもそも、『魔力体』や『意識状態』となった者達が、彼ららしく在ろうとする為にはどうしたって『世界』という環境では『適していない』とも言える。
言うまでもなく『世界』という環境は、『身体』がある事を前提とした調整が為されているからだ。
要は、それに応じた『魔力濃度』にもなっていると言える。
その為、『適応してない存在』だとその場にいるだけで『力』が霧散したり予期せぬ悪影響が出てしまう事もあるだろう……。
そこで、『白銀のエア』が『管理者』として手懸けた『音の別荘』──彼女曰く『音の世界』には、純粋に『魔力体』や『意識状態』になった者達の為に、存在しやすい場所『適応しやすい環境』になっているのである。
……無論、こと『適応』に関しては『鬼人族』であり、『天元』を備える彼女の右に出る者はいない。
そして、『音』に対して親和性が高い彼女の『領域』は、その『音』の一つ一つに感情があり、景色があり、好きな時代や、色合い、感触、『魔力』、形態、圧、熱……その他諸々の状態に対しても『適応』し、最適を作り上げる事ができる環境となっている。
言わば、その『領域』には常設して『人』が普通に踏みしめられる大地も、飛べる空も、泳げる海もない……だがその代わりに、『音』がそれら全てを補完するのである──。
『…………』
──もう少し嚙み砕いて、分かり易く説明するならば、『大地が欲しい』と言う『音』を発する事によって、その『領域』では『自分が知る大地を作れる』……という環境なのである。
自分の中にある『音』を表現する場所──逆に『己の知らないものは存在し得ないし、干渉もできない空間』とも言えるかもしれない。
『何でもあって、何にもない領域』──それこそが『音の世界』の本質。
……ただ、そこで現在暮らしている『呪術師達の怨念』とも言える『意識存在』は、かつて『世界』の全ての存在の影に潜んでいたような者達であり、『心』をその軸として『世界』のありとあらゆる事象に対しても知覚し、ほぼほぼ知らない事が存在しないとまで言える程に見識が深い者達でもあった。
その為、既に彼らは自分達の中だけで完成してしまっている部分があり、足りない所があったとしても互いに補うあう事で直ぐにその穴を埋める事が出来る存在なのである……。
……要は、その『領域』において、彼らが作り出せぬ『夢』はないのだ。
『…………』
無論、それだけ多くを知り過ぎてしまったが故に、逆に『世界』においては『己が見えなくなり、おかしくなってしまった』という事態に彼らは陥ってしまったらしいが……。
それは『適応していない』が故の事であり、補い合う事で段々と『自己』が汚染されてしまったのが原因としてあったのだという。
その為、エアの『領域』たる『音の世界』においては、彼らの複雑に混ざり合った状態(和音)を、一つ一つに分けて響かせる処置が施されているのだとか……。
『…………』
──まあ、正直に言うと、私にはその『音の聞き分け』が出来ないのでよくわからないのだが……エアは頑張って『あれやこれや』を行ったらしい。
『一人で全てを背負う必要はない』と、そう言ってくれたエアの有難みを『音の別荘』を見て私は改めて感じた……。
私ではきっとこうはならなかったと凄く思ったから……。
『…………』
『…………』
……そして現在、そんな複雑ではあるが一つ一つの『音』となった『呪術師達』に、『賢者』達は導かれて対面することにはなった。
ただまあ、導かれてからずっと両者ともに睨み合ったまま、先ほどから只管に無言(『無音』)を貫いているのだけれども……果たしてこれはうまくいっているのだろうか──?
私にはよくわからないのである……。
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