第703話 行路。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
『…………』
……そもそもの話をするが、『魔力体』や『意識状態』になっている状態を、私もエアも『終わり』だとは思っていない──という話を少しだけしたいと思う。
他の者達は『身体を失う事』に対して、それは須らく『消失』だと捉える者は多かろうとは思うが──
実際には『魔力体』や『意識状態』が残っているのであれば、それは『在る』事だと私達は思っているのだ。
『──ねえ、あなた達』
それに、エアからも魔法使いの世界においては、この考え方は珍しくはあれど全くない話ではないという事なので(エアも『ロムから教わった』らしいが……)、何も私達だけがおかしな事を言っている訳ではないのである。
……つまりは、『白銀のエア』が『落ち込む四人の魔力体』の方へとぷりぷりしながら近寄っていったのも──
『そんな所でいつまでめそめそしてるの?そんな事をしている場合じゃないでしょっ!』と、言って彼らの事を叱咤する為であった。
『もう大事な人の事を諦めちゃったの?……違うでしょ?諦めきれないから、後悔しているから、そうやって悲しんでるんでしょ?』と。
『──ならっ、まだまだ足掻き続けなさい!出来る事はある筈でしょっ!』と。
『……それに、わたし達はあなた達にそんな風に立ち止まる事を教えた覚えはないよっ』と。
『…………』
……どうやら、『魔力体』となっていた存在達は、エアの知り合いでもあったらしい。
ただまあ、そんな様子を視ていて客観的に思うのは、『白銀のエア』のその優しさである。
……エアのその口調も『憤ったフリ』をしているだけで、実際は『気つけ』に近しい行為をしているだけなのも直ぐに分かった。
本当は、彼らに『怒りたい』訳ではないのだろう。
……ただ、嘆き続ける彼らの現状を把握し、その気持ちが分かるからこそ、敢えてああしているのだと。
そして、『大切な者』を失いかけているその状況の辛さを──その怖さや悲しみも『白銀のエア』も痛いほどに知っているからだろうか……。
私にはエアの言葉は、彼らに『気づいてほしい』と訴えかけているようにしか聞こえなかったのである。
『…………』
──無論、『虚』の中に居る彼らには、その言葉は聞こえ難くはあるだろう。
『心』から落ち込むと他者の声が聞こえない事など仕方ない話だ……。
実際、完全に失われてしまい、もうどうしようもない存在も居るのならば尚更だと思う。
……ただ、エアはそんな状況であったとしても、今はその事以上に、『虚』の中で嘆き続ける事よりも先に、しなければいけない事があるのだと彼らに伝えようとしていた。
『最後の最後まで『諦める』事だけは決して選ばないで──』と。
『それがどんなに辛くても、『大事な人』を守りたいならその歩みを止めないで──』と。
『…………』
『戦いが終わり、敗北したと思っている』彼らに対して、そんな言葉を突き付けるのはとても『残酷な事』なのかもしれないが……。
それでも『白銀のエア』からしてみれば、未だそこに『可能性』が残されているならば、その為に歩みを止めるべきではないと、そう思ったのだろう。
……無論、客観的にだが私はそう思ったのだ。
正直、エアからしてみれば『まだ大切な人を助けられるかもしれない『道』が残されているのに、なんでこんな場所で立ち止まってるの!?ありえない!本当に大事ならば今すぐに歩き出すべき!』と、それが言いたくて仕方がなかっただけなのかもしれないが……。
『……ゆうしゃ、たすけられる?』
『……おれたち、まだ、できること、ある?』
……だがそうすると、エアのそんな思いも少しずつ通じてきたのか、はたまた『まだ可能性が残っている事にすら気づけていない』事に気づけたのか、『嘆き続ける魔力体』の内、何人かはエアの言葉にそんな反応を返してきたのであった。
──因みに、先に言っておくのだが、『虚』の中にある存在に『音』を届けようと思っても、私ではできない事である。
……エアだからこそ、その想いを彼らに届ける事が出来たのだと思う。
実際、エアに続いて私も彼らの傍まで近寄ってみたが、『魔力体』たる彼らは私の事など一切気づいてもいないらしい。
それに、さっきまでは『綿毛の精霊達』の様に弱々しい雰囲気しか放っていなかったのが、エアの言葉をきっかけにして次第に『意思』が強まっていくのも感じたのである。
一見、『繋がり』を介して『魔力体』の霧散を防いでいたみたいだが、エアがいち早く『悲しき音』に気づかなければ、彼らもどうなっていたかわからないのだ。……嘆き続けているだけでは、その輪郭は『フワフワモコモコ』としていくばかりで、下手すれば吹けば飛んで消えてしまっていたかもしれない。
だから、彼らが段々と『在り方』を取り戻していく様に感じるのを客観的に見ていて──内心、『聖竜』たる私は一人『エアって凄いなぁ』としみじみ思うのだった……。
『──うん、ある。もしもその『道』が見えなくて困っていただけなら、わたし達がその『道』のきっかけまで導いてあげるから……』
……すると、エアのそんな言葉に、尚更『意思』もはっきりとしてきたのか──
『魔力体』の一人は、既に『きりっ』とした顔つきになっており、それはどこからどう見ても『愛する者』を救いたいと願う男のそれであった。
『……エアさん。導いて、欲しい。俺たちはまだ終われない。『勇者』を、あいつの『心』を救いに行きたいんだ。──ただ、今のあいつをどうやったら助けてあげられるのか。俺にはそれがわからない……』
そして、自分の思いをはっきりと伝えられるようになった『賢者』は、エアへとそう語りかけてきた。
……ただ、それは既にエアからすれば想定済みの問いでもあったのか──彼女は直ぐにこんな『答え』を彼へと返したのである。
『わたしが与えてあげられるのはきっかけだけだけど……『呪い』に関しての専門家なら沢山知ってるんだっ。だから、少々厄介な方々だけど、あとは貴方たちのやる気と頑張り次第だから招待するねっ……わたしの『領域』、『音の世界』に──』と。
またのお越しをお待ちしております。




