第701話 分離。
注意・この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事象などとは関係ありません。
また作中の登場人物達の価値観なども同様ですのでご了承ください。
2022・01・09・微修正・最終箇所の人数を、『六人』→『五人』へ変更。
「──あっ、鳴ってる?……ううん、呼ばれてる?」
『…………』
「……きゅー?」
とある街の宿屋の中──その日、『聖竜』とエアと『水竜の子』はまたゴロゴロとして遊んでいた訳なのだが……。
とある瞬間に、『白銀のエア』には何かが聞こえたらしく──彼女はそう言うとすくっと立ち上がって、『上』を見上げたのだった。
私と『水竜の子』も、その動きに釣られるようにして『上』を見上げるが……無論そこには普通に『宿屋の天井』があるだけで何も見えはせず聞こえもしない……なので『水竜の子』は首を傾げている状態である。
『…………』
ただ、『世界の管理者』たる私には、それが今さっき『世界』に起きた『干渉』に関するものであると直ぐに理解できた。
……同時に、見知らぬ間にまた『世界』に何かしらの『仕組み』が追加されている事も何となくだが察したのである。正直、その詳細までは『意識状態』にでも戻らなければわからないが。
──『管理者』と言っているくせに、なんでそんなに把握があやふやなの?と、そう思われてしまうかもしれないけれども……。
実のところ、『一人で全てを背負う必要はない』とエアから助言を受けた私は、共に『世界』と『大樹の森』と『音の別荘』などの『領域』の調整を行った際、エアと相談して『大樹の森』以外の『領域』に対しては『無理のない範囲で管理しよう』という約束をしたのである。
エアとしては『──そうしないとロム、そっちにばっかりかかりっきりになっちゃって……わたし達と一緒に居られなくなっちゃうでしょ?……それは嫌なんだ』と、そう思ったらしい。
……だから正直、私としてもそっちの方が良いと思ったので、このような『管理体制』になっている。
それに、『ロムなら、手に余ると判断した時は良く『あの方法』を使っていたから……『領域の管理』にもきっと使えると思う。だからそれを試してみよっ』と、そう言ってエアは『無理のない管理』の為、一つの解決策まで私に提示してくれたのだった。
『…………』
……というのも、その『方法』というのは『泥を使えばいいのだ』と。
エアは、元々『ロム』が偵察用に『泥や石ころ』などを使っていた事を知っており、その応用法としてそんな提案をしてくれ訳なのである。
それに、元々この『世界』にも『自浄作用』の『仕組み』の一つとして『スライム』という存在が無差別に生み出されていたことから……。
要は『そのスライムに似た泥を作って……それを動き回らせるだけで自然の状態を保てるようにしてしまえばいいんじゃない?』と。
『管理』という言葉に対しては、色々な考え方の違いもあるだろうけれど……エアとしては『無理のない管理』の方法として、『自然の状態をちょっとだけ手助けしてあげるくらいで良い』と判断したようだ。
基本的に、それは『精霊達』のやっている事の『お手伝い』にも近しい発想なのだが、『スライム』ならばどこに居ても不思議じゃないし──それにエアとしても、『音の別荘』としても、その方法を使えばもう一つの『利』があるからと。
『…………』
つまりは、その『音の別荘』としての『利』というのが──今まさに、エアが聞こえている『何かの音』なのだ。
そしてそれは、言うならば『魔力体や意識状態の識別音』とでも言えるのだろうか。
……正直、『聖竜』には全くわからないのだが、『音の別荘』という『領域』に携わる『白銀のエア』はその聞き分けが出来るらしい。
もっと言えば、その『音』を発する者がいた際、『その者を音の別荘に導く事』をエアは『管理』しているのである。
『呪術師達』の様に『身体の再構成』が出来ず、長らく『意識状態』となったまま『世界』に潜む事になってしまった者達は、時として大きな騒動を引き起こすかもしれないからと。
……また、そんな『孤独を知る者達』を『独りにしないように』と。
『こっちに来れば仲間達が居るし、話も出来るから寂しくないよ』と、言ってあげたいらしい。
だからエアは、私の作った『泥』にそんな『音を感知する仕組み』を付属させた訳なのである。
「……うん。やっぱりそうだ。これが初めてだったから……こんな『悲しい音』だなんて思わなかった。今すぐ行ってあげたい──だからロム、わたしを『導いて』」
『…………』
そして、『呪術師達』以外で初めての住人となるかもしれない者達を発見したらしいエアは、そんな『彼ら』を迎えに行きたいらしく私にそう言ってきたのだった。
……現状、まだエア自身では一人で『意識状態』に至るのが難しく、私の助けが要るからである。
無論、私はその頼みに頷きを返すと、翼を『ぱたぱた』とさせてから大きく広げて、『白銀のエア』の小さな身体をすっぽりと包み込むと、そこに一旦『疑似的な領域』を作り上げたのだった……。
そして、私はその『疑似領域』を介して……まあ、簡単に言うと『扉』を開き、エアを『意識状態』へと『導く』のである。
『…………』
『…………』
……そうして、『聖竜』と『白銀のエア』が『意識状態』となり、『悲しき音』が聞こえたという『吹雪の大陸』までその意識を飛ばしてみると──
そこではちょうど『祈りの力』が何かを成し遂げた後、予期していた結果とは異なる事象が起きた為か、想像していた以上に『力』が溢れ、それが幾つもの白条の衝撃となって『吹雪の大陸』を破壊していく光景と……。
その『白状の衝撃』に飲まれ、そこに居た者達の殆どが消滅していく様子……。
それから、『悲しみに暮れる五人の魔力体』が、離れて点々と漂っている姿を……私とエアは発見したのであった──。
またのお越しをお待ちしております。




