第70話 破。
「街に着いたねっ!ロム、どこいこっかっ!」
「近場の美味しいものから歩いて探してみるか?」
「うん!それがいいっ!そうしようっ!!」
商人達の行商の列と一緒に、私達は新たな街へと到着した。
到着後、ただの商人や冒険者、護衛だと思われていた男達が計十数人程、門の所で『自分たちは盗賊団の一味で自首しに来た』と喋り出した時には一波乱あったが、それ以降の商人達や私達みたいな無関係な冒険者や護衛達は簡単な質問だけ受けてあっさり通して貰えた。
どうやら数日前にも大勢の似たような者達がやって来た事で、この街の兵士達は今凄く忙しいらしい。今回の追加でもう正直お腹いっぱいだから、暫くは来ないで欲しいと愚痴をこぼしている者さえいた。
街に入る為のお金も、奴らが隠しこんでいる宝への対処が忙しいので暫くはいいのだとか、そんなぞんざいな対応あるのだろうかとも思うが、それほどまで大きな盗賊団だったらしく、本当に忙しくて手一杯なんだそうだ。まあ無関係な私達はのんびりと入らせて貰った。
街中に入ってみると、人々の顔もどこか明るい様に感じる。私の隣にいるエアの笑顔も凄く明るい。
人々は大きな盗賊が捕まった事で安心を感じての笑顔。
エアはこれからさあご飯をいっぱい食べるぞ!という喜びの笑顔である。
今日の晴れ晴れとした天気によく合っていて、どちらも見ているだけで心がほっこりとしてくる、そんな素敵な表情であった。
「なあ、あんた達、俺はどうすればいいかな……」
だが、そんな明るい街に似つかわしくない表情の男が一人、先ほどから私達の後ろをトボトボとついてくる。……なんですか。見知らぬ人よ。兵隊さん達を呼びますよ。
「気が付いたらもう街の中で、何が何やら全く分からないんだ。……さっき目覚めて、いきなりあんたは俺に向かって、『もうここからは別れて好きにして良い』って言ったけど、その前に教えてくれ。俺は結局裁かれるのか?裁かれないのか?どうなんだ?」
さあ、君が何を言っているのか私達にはちょっと分からないが、思うがままに生きれば良いと私は思う。私から言えるのはただそれだけであった。
「だが!あんただって言ってたじゃないか!俺は違反して、本当ならギルドに。露見すればあんただって──」
ふむ。何を言いたいのか分からないが、何が露見するのだ?
「何ってっ!俺がっ……あれ?なんだ、喉のとこまで出て来てるのに、出てこない。……あれだよ、わかるだろ!アレだ!なんだこれ!なんで俺は……」
「はいっ!浄化っ!」
青年商人は私へと向かって、何かを必死になって訴えかけてこようとしているが、それが上手く言葉にならないようであった。……まあ、そういう魔法を掛けたのだからな。
取り乱しそうになった彼に向かって、エアが瞬時に浄化をかけてくれた。偉いぞエア。こんな街中で叫びだしては周りの迷惑になってしまう所だった。私もまだまだ配慮が足りない。
ただ、浄化によって冷静さを取り戻した彼は、少し黙考すると恐る恐る私へと向かって問いかけてきた。
「これ、あんたがやったのか?」
「ああ」
「なんでこんな事を?俺に何をしたんだ?」
「何も特別な事はしていない。ただ約束しただけだ」
「……やくそく?なんの?」
「忘れたのか?私と君とで契約を交わしただろう?君の最低限の身の安全を守り、火の番をすると。その代わりに私達の事は一切漏らせないようになると……覚えて無いのか?」
「おぼえてる。だが、あんなの、ただの口約束じゃないか。あんなので?」
「私達は魔法使いだ。この言葉の意味も、君には分からないかな?」
私が魔法使いだと言うと彼はビクッとした後、何かを納得したかのようにブツブツと呟きだした。
「……流石に知ってる。魔法使いには嘘が吐けないとか。約束を破れば首が飛ぶとかってやつだろう?出まかせだばかり思ってたけど、まさか本当に声が出なくなるとは思わなかった」
彼はあまりものを知らないようではあったが、魔法使いの事はちゃんと聞いたことがあったらしい。
それならば、もう説明は終わりだろうと思い、私達は踵を返して早くエア待望の食事処へと向かおうとする。
だが、不思議な事にそんな私達の後ろから、まだ彼が付いてくるのであった。
「……何かな?」
「なあ、俺はどうしたらいいんだ?」
……知らんがな。先ほども言ったが、好きにすればいい。そもそも私達は彼の事があまり好きではないのだから、こうして関りあっている時間が勿体ないのだ。いっそはっきり君の事は好きでは無いからと告げればわかってくれるかもと思い、正直に話してみた。
「なんでっ、俺が何で、俺、そりゃ色々と迷惑をかけちまったけど、そこまで嫌われる事をしたか?」
した。いや、現状を鑑みれば現在進行形でしている真っ最中である。気づけ。空気を読むのだ。
ただ、理由も告げずに嫌いというだけでは流石に納得いかないかと思い、私は前の街で知り合った情報通の女の子の事を話す。
彼女が私達と同じ職場で仲良くしていた事を聞くと、流石に彼はその理由を察したのか、表情を暗くして俯いた。
「そうか。あんたらあの子の、関係者だったのか、そりゃ……嫌われても当然だな」
理解が得られたようで良かった。それではこれで。私達にも予定があるのだ。早くしないとエアの頬がまたプク―っと膨らんでしまうぞ?……あっ、ほらもう少し膨らみかけている。急がなければ。
「待ってくれ!」
だが、それでも尚彼はまだ諦めずについて来ようとする。彼のメンタルは鋼だろうか。もっと他で活かせよその能力。ここで活かすな。
ただ、私も負けず嫌いなので、断固として告げる。
「嫌だ」
「俺にはまだ話があるんだ!」
「こちらには無い」
「だが、待ってくれっ!!」
終いには私の白いローブを掴んで引き止めて来るものだからもう、ほとほと困った。なんだこれは。
何が悲しくてこんな街中で、好きでもない男と痴話げんかみたいな状況を演じなければいけないのだ。勘弁して欲しい。思わず私も『はぁぁぁ』と深いため息が出てしまったのも、仕方がないという話である。
──だが、その瞬間、切れた。
……何がって?エアがである。
「ロムのローブに触るなぁっ!!」
「──ぎゃっ」
私のローブを掴んでいた男は綺麗なエアのパンチをくらうと、二転三転してコロコロと転がって、暫くして止まった。……恐らくは無事。まああっちは正直どうでもいい。
そんな事よりもだ、これまでエアがここまで感情のまま怒った所なんて見た事がなかったので、私は思わず固まっている。正直言って吃驚したのだ。
だが、それも数瞬の事で、私の為に怒ってくれたのだとちゃんと分かったから、私はエアの頭をポンポンしながら『ありがとう』とエアに告げた。告げられたエアは私の顔を見れないのか少し俯くと、ギュッと抱き付いてくる。……ただ、よく見ると、その瞳は少し潤んでいる様にも見えた。はて?これはどうしたことだろう。
「ごめんねロム。わたし心得、破っちゃった……」
いつだったか、私が白いまくらとしてエアに冒険者の心得を語った事があったが、その時の事をエアはちゃんと覚えていたらしい。
その時に話をした『戦えない奴に力を振り翳そうとしている奴は、基本的に全部潰す』という部分で、エアが独自解釈をすると先ほど男を殴った事により、その心得を破ってしまった事に当たると思ったらしい。
だから、もう冒険者としては失格になってしまったんじゃないかと思い涙ぐんでいる。本人は私とまだ冒険者を続けたいので止めたくないそうだ。……止めなくていい。絶対に大丈夫だ。安心しなさい。さっきのアレは私を助ける為に振るった力だから、問題ない。私が証明する。
「ほんと?でも、あの人冒険者でもないし、戦えない人なのに、私普通に殴っちゃったよ?」
いいんだ。間違ってない。戦えない人でも暴力は振れる。そこを勘違いしてしまう者は良く居るが、エアは間違った事はしていない。あれはあの瞬間戦える人認定なのだ。だから大丈夫である。
エアはちゃんと私を守ろうと思ってやってくれた。そして確かに助けられたと思う私がここに居る。それが何よりもの証明なのだ。
……嬉しかったよエア。だから気にする必要はないのだ。あのお馬鹿な男はしつこかったので、まあ自業自得だろう。エアが手を出してくれなければ私が魔法でプチュンしていた。
「ほんと?冒険者続けて良い?」
「ああ。もちろんだ。これからも一緒に続けていこう」
「うんっ!」
良かった。エアが元の笑顔を取り戻してくれた。……この男、まったくもって碌な事をしないな。
だが、このまま地べたで寝かせておくわけにもいくまい。
しょうがないから、少しだけ話にも付き合ってやるとするか。……はぁぁぁ、面倒だ。
またのお越しをお待ちしております。
『十話毎の定期報告!』
祝70話到達!!
いつも読んでくださっている方々!ブクマや評価をくださった方々!
みなさんいつもありがとうございます!アクセス数とポイント数が増えてくれると、本当に元気が出てきます!凄く励まされてますので、これからもよろしくお願いします^^。
初感想もいただきました!心より感謝いたします。嬉しいです^^。
基本的に日常系でのんびりと成長していく作品ですので、これからもこの空気感を楽しんで頂けたらと思います。読んでくださっている方々に楽しんで頂けるように、今後も頑張って参りますので応援よろしくお願いします。
──さて、今回も確りと言葉に出して行く事の大事さを忘れないでいきたいと思います。なので、一言失礼。
「目指せ!書籍化!!」……何卒宜しくお願い致します。
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