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鬼と歩む追憶の道。  作者: テテココ
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第699話 非情。




 『勇者』は──『毒槍と黒雨の魔獣』を倒した。


 だが、その代わりに『賢者』を失う事になってしまったのだ……。



「…………」



 ……気づけば『黒雨』の影響も『黒雨の魔獣』を倒すのと同時に止まったらしい。


 ただ、その『雨』に濡れたままの『勇者』は、『賢者』の元まで歩み寄ると、その亡骸に触れ──

 そして、悲しみで胸が潰れそうになっているのか、彼女は自分の胸元で拳をギュッときつく握りしめていた。



 まるで彼女の悲しみを表すかのように、その頬からは『黒い雫』も零れ落ちていく……。



 だがしかし、周囲にはまだ多くの『魔物達』が残っていた。

 それも、『指示をしていた者達』が居なくなったからだろうか──それらは元々の本能に従うかのように『人を襲う為』、『勇者』達に向かってすぐそこまで迫って来ている。



 ……ただ、当然の様に『勇者』は『賢者』をそのままにしていくことは出来なかったのだろう。



 彼をゆっくりと抱き上げると、彼女は迫りくる『魔物達』を切り倒しながら『狂戦士』達が倒れ伏している方へと向かって走りだしたのだった……。



「…………」



 だが、『狂戦士』と『聖女』、そして『魔法戦士』が待つ場所に戻って来てみれば、こちらもこちらで状況は極まっている事を『勇者』は悟った。


 何しろその場は『魔法戦士』の奮闘により辛うじて守られては居るが、『狂戦士』と『聖女』は『魔物達』の様に全身が『淀み』に染まっており──恐らくはもう……手遅れである事が一目で分かってしまったからだ……。



 『過剰反応』は止めようがなかった──なんとかここまでは抑えていたが、もう持ち直すことはできそうもない状態なのだと。



 だが、『狂戦士』と『聖女』は、そんな状態でも寄り添い合うと、『勇者』が戻ってきたのを感じて微笑みを浮かべていたのだった。



 『……下手すれば、敵に回っていたかもしれないから、間に合ってよかった』と。

 『お前たちを信じていたぞ』と。



 『勇者』と『賢者』の成功を喜び──仲間達の未来を喜び──自分達がそれを邪魔する事が無くて本当に良かったと、二人はそれを、それだけを思って喜んでいた。



 『勇者』と『賢者』が走って行った時からもう、『精霊の力』を介しての『淀みの分散』も止まっていた。……それはつまり、その時には既に『二人はここで仲間達とは別れる事』を決意していたののだと。



「…………」



 でも、当然の様に『勇者』はそんな二人の微笑みを見て、『諦める』という選択肢は選ぶことが出来なかったらしい。



 二人の笑みが言外に『俺達はここに置いて行ってくれ』と言っているのも分かったが……。 

 彼女はそれを分かりたくなかったのだろう。


 もしかしたら……『このままだと下手したら敵になってしまう可能性もあるから、止めを刺してくれ』と、そう言われていたのかもしれないが、それをするつもりもなかった様だ……。



 そして、未だ奮闘している『魔法戦士』もきっとその気持ちは同じだったのだろう──。


 だから、『魔法戦士』は当然の様にボロボロになりながらも戦い続けていたのだ……。



 『そんな結末は嫌なんだ』と。

 『皆で一緒に帰ろう』と。



 ……そうやって、『勇者』達が戻ってくるまで耐え続けていたのである。



「…………」



 それに、『勇者』と『魔法戦士』が揃った今ならば、周囲の『魔物達』を全て倒して、この場の安全を確保する事も可能ではあった。



 『毒槍と黒雨の魔獣』を倒した以上、焦る必要はもうない……。

 『黒雨』に対して割いていた『聖人の力』も今ならば余裕が出てきている筈……。



 ならば、『魔物達』を倒し、『浄化の神』であった彼さえここまで連れて来られれば、『狂戦士』と『聖女』の状態も改善できる余地はまだ残されているだろうと。



「…………」



 ……無論、周囲には依然として『数え切れぬほどの魔物達』は居る。

 だが、『やってやれない事は無いだろう』と、『勇者達』はそう決断した。



 一瞬だけ視線が合い、『魔法戦士』と『勇者』は互いに一つ頷きを交わすと、気合を入れ直したのだ──。



 抱き締めていた『賢者』の身体を一旦『狂戦士』達の傍に寝かせると、『勇者』は再度『剣』を手に魔物達へと顔を向け……。



「…………」



 ……だがしかし、そんな『勇者』の胸に、突如として『無情の黒矢』が背後から突き刺さったのだった。


 ──ズドンッ……と、そんな重い衝撃音と共に『金属』を突き抜けた黒矢の矢じりを見て、『勇者』はたたらを踏みつつ驚く。


 そして、『勇者一行』は全員その光景に目を見張ると、次いでその『無情』を放った存在へと目をやったのだ──。




「…………」



 ──すると、皆の視線の先には、身体に大穴を空けられながらも『黒い短弓』を手に、立ち上がって矢を放った『黒雨の魔獣』の姿があった。


 ……それも、どうやらその身体の大穴は不思議な事に、段々と塞がっていくようにも視えたのである。



 その光景に、自然と『化け物め……』という、誰かの呟きも零れた。



 ……ただ、そんな『黒雨の魔獣』の足元には、人知れず先の『手作りの矢』があり、それはまるで『身代わり』になったかのように──サラサラと塵と化していったのだった──。




またのお越しをお待ちしております。

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